第85話 銀髪弓使いは始めたばかりから
周囲に人が入り乱れる中を歩んだ後に立ち止まっていたセリニは見上げながら感想を零していた。
「やっぱり……大きい」
少女の視界を埋め尽くすのは太陽を背にしている天を貫くほどに巨大な塔――ヘイス・ピュルゴスであった。
――木の上から見たときも思ったけど。
色々とあって巨樹の上に座っていた時間があったセリニはその際に目の前の塔を目撃した途端に気づいたことを再び口にした。
「影がない」
現在のセリニが立っている場所は電子世界であった。
しかしその法則は現実世界と殆ど一致しており、光が現れそれを遮断するものがあると追従して影が現れる。
周囲の建物は太陽に照らされると物陰が生じる。それは当たり前のように発生している。
然れどもヘイス・ピュルゴスは後ろに太陽があるにも関わらずに深く帽子を被った銀髪の少女を覆い――感じ取るのはのは太陽の輝きであった。
――どうして……これだけ?
その状況に疑問が生じていたセリニに後ろから歩み寄ったアルーセが応える。
「この塔はこの世界の法則とは異なる何かで構成されていると書いていたわ」
それが届いたセリニは背後を見る。
そこには何にも覆われていないアルーセが立っていた。
「法則が異なる……ですか」
届いた言葉を返したセリニ。
その法則がどんなものなのかまでは聞こうと考えていない。
――書いていた?
しかしそれを記したものがある言い様なことを察したセリニは今後のために尋ねた。
「あの……どこに書いていたのでしょうか……」
「本よ」
「本……」
――あるんですね。
それが置いているのは初耳だったセリニは何処にあるかの想像する。
――建物の中?
そう思考したセリニ。
昨日は即座にフィールドに出たために街の探索は全くしていない。そうした自身の行動を省見ると可能性は自動的に引き出される。
そしてアルーセはその答えを示した。
「入れる建物の中にもあって、フィールドにある廃墟にも置いてあったりするわ」
「廃墟にも……あるんですね」
――なら……ギガントスライムが潜む洞窟の前の……建物の残骸の中にも……?
言われたことからの色々と想像できたセリニにアルーセは本に関しての追加情報を口にした。
「一度発見した本はパネルを通して見ることも出来るわ」
「それは……良いですね」
廃墟に置いてある本に夢中の間にモンスターに襲撃されて倒される――そんな事態を想像できたセリニはその機能は称賛できた。
「今は無理だけど、複製するスキルも実装されるみたい」
「そのようなのも……あるんですね」
色んなスキルがあると所感を口にしながら認識したセリニは頷きながら反応する。その隣を歩んで先に進むアルーセ。
その姿を見ながらゆっくりと歩を進め始めた銀髪の少女は心の中で呟きを漏らした。
――到着できて……よかった。
アルーセと合流して昨日の約束通り、セリニは塔に向かうこととなってその道中は人が混雑する場所を通る流れとなった。
ログインした時に感じた総身を寒気で震わされたその時の感覚には時間が経っても引きずられている。
だが他プレイヤーの視線にはいずれ慣れなければ駄目だと踏ん切りを自身に刻んでここまで進んできた――そして少女は気づいていた。
――あの時よりは……少ないけど……複数の視線を……感じる。
時が流れようとも状況は好転せずに変わらない――その誠は自身の知覚が証明しているとセリニは認識している。
――嫌な……感じでは……ないけど。
自分の感覚が正しいのであれば、周囲の視線はゴブリンやルプス等のモンスターから感じる敵意とは異なるものが内封されているとセリニは思った。
――どうして……かな。
しかしそれが現状を形成する要素に結びつけることが不可能なセリニは――似た経験がないか思案する。
――けど……そんな経験……あるのかな?
――ここはゲーム世界……想像できるのは現実の……。
自ら始めたことであったが類似した体験があるのかと自身に指摘をしたセリニ。
――あれ……もしかして……。
だが少し考えると今から三年前――そして最近似た経験をしたかもしれないとセリニは思えた。
――中学校と……高校を……入学した後……少しの間。
――みんなから……特に他のクラスの人からや他の学年の人達の……視線に近いのかな?
それは学校生活が始まった直後に微かに感じた感覚を想起させるものであった。
それと今の状況に近いものが何なのか考えたセリニは――脳裏を巡廻させずにあっさりと辿り着いた
――中学校も……高校も……ツインファンタジーワールドも始まったばかり。
その事に気づくと同時に――腑に落ちたセリニは状況の把握を完了する。
――始めたばかりの……わたしが……見たことないから……なんとなく……見てるだけ。
セリニも自身にとって馴染みの深い場所で知らない人を見かけたら誰だろうと思って見てしまうことはあった。ならばその立場に自分が置かれているだけ――そう思案すると視線を向けられるのも仕方ないと諦めが出来た。
――なら……学校と同じで……日にちが過ぎれば……わたしのことを見なくなるよね。
根拠となる言葉や物理的な証拠は一切存在しないが――他者に聞く――等全くもって考える事もその思索の道を繋げる線を書けないセリニはその結論を最終地点として自己完結した。
確かにセリニは昨日から始めたばかりのプレイヤーである故に注目を集めていた。
街を歩み続ける銀髪の少女が考えたことは間違いではない、されどもそれは半分程度で真相には届いていない。
他のプレイヤーから見られる根幹は彼女自身の――無自覚で――無頓着なその整った流麗な容姿が一番の理由であった。
更に深く帽子を被り、少しだけ見える色白な肌や銀髪を出して赤目を覗かせるその謎めいた風貌もまた帽子を外している時とは別の方向で――ゲームの世界にて映える姿であり、周囲からの注目に値するものであった。
――うん……とにかく今日も楽しもう!
セリニは視線に関する思考を終えてゲームに気持ちを向ける。
自身で編み出したの答えが周囲の答えと乖離しているとは露知らずな二人静の色彩の衣服を纏う銀髪の少女は――朝日を覆う雲が払われて澎湃な心を得た気持ちとなってアルーセの後を追いかけた。




