第81話 銀髪弓使いは一日目は終わりから
セリニの目の先には宝箱が置かれていた。数は二つであったが片方は自身では開けられないと体感的に気づけた。
そこからもう片方のはリーザロッテの宝箱だと推測する。
――あれは……なにかな?
それと同時に自身が開けられる宝箱の前にだけ床から生えたような形状の水晶が置かれていた。
疑問を感じたセリニにリーザロッテが答えを示した。
「あれはギガントスライムを倒すと現れる報酬」
「そうですか」
――だから……わたしだけ。
リーザロッテは既に通常個体のギガントスライムを倒しているのはセリニも知っている故にすぐに納得した。
「そういえばレベルはどれくらい上がった?」
リーザロッテから聞かれたそれはギガントスライム・アペイロンを倒した直後に確認していたものであり、セリニはすぐにその数値を明かした。
「17……です」
「わたしも17、15に上がる直前だったけど一気に3レベルアップね」
リーザロッテが語った内容がそのまま当てはまる為にセリニは「ですね」と同意する言を口にすると自身に起きた変化を口にした。
「新しいスキルも……習得しました」
「わたしも習得できた」
それは自身も同じだと口にしたリーザロッテであったが少し残念そうな様子を見せる。
「15で習得できたのならボスと戦う前に先にレベルを1上げて使えるスキルを増やしておくべきだったかもね」
リーザロッテから話されたそれはセリニも感じていたことであった。
――切り札を使用しないで倒せるなら……そうしたほうがいい……。
耐えられる――避けられると敗北が確定する終焉の切り札を使わずに済んだかもしれないと思えたからだ。
「まあ考えても仕方ない事だけど、倒せたんだから」
「そうですよね」
続けてリーザロッテが口にした内容にもセリニは共感できた。
14レベルで戦いを挑んだ結果が最終的に終焉の切り札で止めを刺せた爽快感に繋がり――多量の経験値と目の前の報酬を得られた、それはとても嬉しいものである。
セリニが思いを巡らせている間にリーザロッテは自身の宝箱に歩を進める。
――領域転移を手に入れよう。
それを見てとりあえず当初の目的を果たすことにしたセリニは水晶の前まで移動すると手を向けたその途端――
「!」
水晶が輝きを放つとそれは瞬く間に粒子となってセリニの身体に入り込んだ。
そして内側に刻まれるように新たなスキルの情報が入り込んだ事を自覚した刹那にセリニは驚くこととなった。
――二つ……二つも。
得られるスキルは領域転移だけかと思っていたセリニだが想像よりも一つ多いことに気づけた。
――名前も……少し違う……種類も二つ。
――アルーセさんが言っていた……とおり……ですね。
フレンドが話していた内容を思い返しながらそれの詳細を確認しようとした矢先にセリニの前にパネルが現れた。
――追加のスキルを……一つ選ぶ。
パネルにずらりと表示されているのはステータスに関わるスキルであった。
――どれにしようかな。
表示されたのは【ステータス強化・攻撃力】【ステータス強化・疾走力】のような自身の戦い方からすると喉から手が出るほどに欲しいスキルばかりであった。
――これにする。
数秒考えたセリニであるスキルを選択すると習得を知らせるパネルが現れた。
――【MP回復・自動】で……いいよね。
セリニが選んだのはMPに関わるスキルであった。
――これで……攻撃の時に使えるスキルの回数を増やせるといいけど。
選んだ理由は先のギガントスライム・アペイロン戦にて攻撃スキルの重要性を理解したからだ。
今回はMPが尽きる展開は起こらなかったが今後はMPを奪う敵が現れる可能性もある。
――ゲージが無くなったときの……対策にも。
そして暗影への序開でもMPを消費する展開が今後も起こることも考慮するとMPを回復手段は多数あってもいいとセリニは思えた。
「他のもいつか……」
だが選択可能だった別のスキルにも魅力を感じていたセリニは呟きを漏らす。
するとリーザロッテの声が聞こえた。
「他のスキルはお金を稼げば店で買えるよ」
「え……」
いきなり言葉が割り込まれたことに驚いたセリニであったがその羅列の中に気になる情報があった。
「スキル……買えるんですか」
フィールドを進む道中でスキルを習得しているセリニであったがその情報は初耳であった。
「そうよ、少し高いから揃えるのは大変だけど、ギガントスライムを倒した報酬で手に入るスキルは全部揃ってる」
「全部……ですか」
他のスキルも欲しいと考えたばかりでそれは朗報であった。
故にセリニは追加の情報を求めた。
「あの……その店の名前は……」
「技能本屋よ、直に行ける場所」
聞きたい事を教えてくれたリーザロッテだが代わりにセリニはとって未知の内容も渡された。
――直に……行ける?
どういう意味を持ち合わせているのかと考え込んだセリニにリーザロッテは自身のことを伝えた。
「わたしは宝箱の中身を取ったけど」
リーザロッテは自身と違って普通のギガントスライムは既に倒している。故に進行に差が生じているのは当たり前とセリニは理解する最中に言葉は紡がれ続ける。
「早速スキルを試すよ、セリニはどうする?」
これからのことを問われたセリニはパネルに端に常に表示されている現実での時間の数値を思い出すと答えを口にする。
「わたしは……ログアウトします」
――明日も……遊びますけど……。
――一日目は終わりです
セリニが決めたことを口にした途端にリーザロッテはパネルを出現させる。
「ならパーティーは解散ね」
それは必然的な流れだとセリニが把握した間にパーティーが解除される。
「は……はい! お疲れさまでした!」
「ギガントスライム・アペイロンを手伝ってくれてありがとう、本当に助かった」
と嬉しそうに口にしたリーザロッテであったが――何かを言いたげな様子を数秒見せた後に再び言葉を出した――その際はそわそわした様子でもあった。
「ところで……フレンド登録をしない?」
唐突な言葉であったが――セリニは刹那に応える。
「はい……わたしは大丈夫です!」
レベルが近く、またパーティーを組みたいと思っていたためにフレンド登録出来ればいいなと密かに抱いていたセリニにとって喜ばしいことであった。
「ありがとう! 早速するから」
リーザロッテは明るい色の声を出しながらパネルを出現させるが――すぐにフレンド登録の通知が現れない。
少し不思議に思えたセリニだが、その答えは聞こえた独り言で示唆される。
「初めてだから」
――リーザロッテさん……誰かとフレンド登録するの……初めて?
心の中でそう予想するセリニ。
そのことは気にしないが――嬉しい点があった。
――リーザロッテさんにとって……わたしが初めての……フレンド?
セリニはそう思う最中にフレンド登録の通知の内容を示したパネルが目の前に現れるとすぐにフレンドの認証をした。
「じゃあよろしくね」
「は……はい」
セリニの返答が届いた直後にある地点に向けて歩み始めたリーザロッテだが何かを思い出したように踵を返した後にその理由を話し始めた。
「あなたはギルドに入る予定ある?」
予兆もなくいわれたセリニであったが知っている要素であり、即時に応じた。
「ギルドには……入らないです」
「そうなんだ」
それを聞いて反応したリーザロッテに向けてセリニは自身が所属する組織のことを話した。
「わたしが入るのは……ミストフォロスです」
「ミストフォロス?」
するとリーザロッテは首を傾げながら疑問の色を浮かべる。
「あ……あの……」
リーザロッテが疑問を浮かべるのは自身もミストフォロスを初めて聞いた際に同じ心境となった為に把握できた――だがセリニはとても焦っていた。
――ど……どう話せ……ば。
言ったからには説明をしないと駄目だと思ったが――セリニに自身もミストフォロスに関してそこまで詳しくない。
故に無責任な事態になってしまうと考えた最中にリーザロッテの言葉が届いた。
「ミストフォロス……他の人が言っていたやつか」
誰にも言葉を向けずに考え込む様子であったが意を決したリーザロッテはセリニを見る。
「調べてみるよ」
「そ……そうですか」
本人がそう言うならそれ以上言うべきことは無いとしたセリニ。
――リーザロッテさんは……どうするんだろう?
どんな選択をするのかセリニが一抹の予想をする最中にリーザロッテは歩み始めた。
「じゃあね」
「は……はい!」
歩んだ先はギガントスライム・アペイロンを倒した最中に出現した光であり、それはボスの部屋から移動するためのものであった。
リーザロッテはゆったりとした速度で底に向かうその最中に独り言が零れた。
「移動速度なんとか出来るといいけど」
それがセリニの耳に届くと光の中に身を投じたと同時にリーザロッテの姿は消え去った。
それを見届けたセリニは密かに起きていた場の変化に気づいた。
「あっちからも出られるんだ」
勝手に閉じてボス部屋の出入り口を塞いでいた扉が開いている。
「探索忘れがあったら……使えばいいのかな」
そう言いながら身体を宝箱が置いている方向に向けたセリニはそのまま歩んだ。
「イディオス装備だったよね……どんなのかな」
手に入る装備の名前を思い出しながら宝箱を開けたセリニの視界は一瞬光で覆われる。
それが止まると同時に宝箱の中身を取り出した。
「――スライムの弓」
その弓は外側は透明で内側を満たすのは輝きを放つ澄んだ蒼であった。
「綺麗だけど……」
その外見の感想を口にしたセリニはパネルを操作して鏡を出現させるとその弓を持つ自身の姿を映した。
「――」
銀髪に紫色の衣服を纏い蒼い弓を携えた。
それを見た後に蒼い弓を手元から消したセリニは現在使用している弓を出現させる。
「こっちの方がいいね」
蒼い弓も悪くないと思っているセリニだが着ている服には合わないと判断した。
「見た目は今ので使おう」
今の弓の外見である『始まりの弓』を続投させると決めたセリニは手に入れた武器の名前を確認する。
「『蒼球の弓』……あのスライムから手に入れたからだね」
そしてその弓に内蔵するスキルを見ようと思ったセリニであったがそれは止める事にした。
「今日は終わり」
このまま続けていたら止めるタイミングを見失う。
今までのゲームを遊んだ経験からそれを見極められたセリニはパネルを消すと周囲に――電子空間に目を向ける。
――爽陽ちゃんの誘いに乗って良かった。
――こんな……わたしでも……楽しめたんだから。
セリニが思い浮かべるのは――自身が他者と関わるのが苦手な陰キャであることを知りながらもツインファンタジーワールドを紹介してくれた友達の姿であった。
「続きは明日だね」
笑みを浮かべながら楽しい色味で言ったセリニはパネルを操作するとログアウトの文字を見つける。
――最初からあるね。
初めてログアウトを行おうとしたときに文字が表示されないことを受けて驚いた経験があったセリニは一安心するとその部分に触れたその瞬間に粒子になると霧散して消え去るとその場は静寂に移行――しかしそれは空間が残存する以上あり得ないことだ。
扉から届いた似た色合いの二人の少女の声がそれを示した。
「塔で手に入れるよりも――」
「塔で手に入れたくないです――」
「「こっちの方がいい!!」」
空間に音は響き続ける――新たな挑戦者を待ち構える戦いの場として。




