第65話 銀髪弓使いは意見から
「9月から始まるのはなんでだろう……」
ギルドに少しだけ興味を抱いたセリニはそこから派生した疑問をひっそりと零した。
――そういえば……爽陽ちゃんは不満そうだった。
ツインファンタジーワールドが初めてのオンラインゲームである故にギルドの実装に時間が掛かる事に対しては舞風月影は特に気にしていなかった。
だがそれとは対照的に友達である筑波爽陽は「あっちは初期から始まっていたのに……」と軽い文句を口にしていた。
――あっち……いったい何の話?
思い出したと同時に友達が口にしていた些細な事が気になったセリニであったがそんな調子の少女にマノンは声をかける。
「それは本来はギルドは無かったから」
声が届いたセリニはぴくりと目を見開いて反応した後にマノンに意識を向けながら口を開いた。
「本来……ですか?」
聞こえた言葉の一部を口にしたセリニにマノンは言葉を紡いだ。
「本来はツインファンタジーワールドにはギルドを存在しない筈だったみたい」
「……そうなんですか」
爽陽がギルドの事を語っている様子を思い返すと歓喜の感情に満ちあふれていた。
それは結成できる事が当たり前の様な空気感を出していた為に驚いた――しかしセリニ自身は今遊んでいるゲームが初めてのオンラインゲームで外から眺めている心持ちである故に感情が揺さぶられる程のものではなかった。
「なら……その……ギルドではない別のグループが……あったんですか?」
しかしオンラインゲームでプレイヤー同士が集まれる機会が必要なのは漠然とながらも理解できていたセリニは自身の疑問をマノンに言った。
「あったみたい」
セリニの疑問に即答したマノン。
――国とか……かな?
この種のゲームで所属する集団のお約束を想像したセリニ。
それに向けてマノンは解を放った。
「世界よ」
「――せっ……世界!」
想像外の単語が耳に入り込んだセリニは驚きの声を上げる。
しかし同時に少し興味心も湧いた為に内容を尋ねた。
「その……どうなるんですか」
「予定では複数ある世界の内の一つに所属した後、世界同士の衝突に参加するみたいだった、けどあくまで予定だからどうなるかまでは想像でしか語れない」
「……そうですね」
仕様が変わってしまった以上、答えが解き明かされる事は基本的にありえない。それを理解できたセリニはマノンの話した内容に同意した。
「とは言えそれが原因で4月から始まったのに9月に開始はのんびりとは思うけど」
呆れた色合いで語ったマノンは自身の視線をセリニに向ける。
それは当たり前な仕草――だが啻ならぬ雰囲気があった。
「それよりも……」
刹那に気づいたセリニは当惑する。
――な……なんだろう。
緊張感が身体に行き渡ったセリニは反射的に姿勢を正した。
――出会ったばかりなのに……聞いたのが駄目だった……それとも……。
様々な悪い予感が脳裏に駆け巡り始めた最中にマノンの声が届いた。
「町に戻ろうとしていたみたいだけど」
聞こえたその言葉の羅列は自分がマノンと出会う直前に言ったものだとセリニは把握する。
「そう……ですけど」
どうしてその事を? そんな疑問が横切りながらも言われた事は事実である為にセリニは肯定する。
「困っている感じに聞こえたから、どうしてと思ったのよ」
「え!」
その理由を知ったセリニは想定の外の事であった故に顔と声に驚きの色が加えられる。
「言えないならそれでいいけど」
マノンからそう言われたセリニであったが、困っているのは事実であり、他者に伝えても問題ない概略で構成されている為に話そうと思った。
「そ……その……」
然れども現実は甘くなかった。知り合いには相談できるセリニであったが殆ど話した事がない相手に相談をした経験が一切なかった。
その為に緊張感の影響で言葉が喉の奥に詰まって声が出ない。
「その……卵を……孵化したくて……モンスターが……いて……あの……戻ろうと……」
それでも話そうと必死に単語を身体から吐き出したセリニ。
――せ……せっかく……相談に乗って……くれたのに……。
しかし紡がれた言葉の文脈が全く整ってない事を自覚――マノンに対して失礼と考えたセリニは泣きたい気持ちとなったその傍らで――
「始めたばかりの人が……孵化」
独り言を呟いた後に少し考える仕草を見せるマノン。
その言はセリニにも届いていた。
――やっぱり……分かる人には分かるんだ。
自身の素性に関して一切話していないセリニだがツインファンタジーワールドを開始したばかりである事を見破られたと察した。
しかし既にアーチャーやアルーセに話していないのにその事を察せられた経験を一日で二回もしている事もあり、動揺は最低限で抑えたその最中に納得した様子のマノンが喋り始めた。
「もしかしてモンスターに邪魔されて誰かから貰った【鍋秘術・創生之導小鳥】で貰った卵が孵化できなくて困っている?」
「は……はい!」
届いた内容はセリニにとってドンピシャなものであり、それが聞こえると同時に反射的に答えた――だがしかし。
――あれ?
何かが変だと思えたセリニは数秒沈黙する。
するとその理由に気づいた。
「鍋……ですか?」
貰った卵は【壺秘術・創生之導小鳥】で作成されたもので一文字が違っており、その事に気づいたセリニの呟きにマノンは反応する。
「セリニが貰った卵は壺のほうね」
マノンが話したそれはセリニが考えていた事そのままであった。
「はい……そうです」
言葉を口にしながらも頭の上に疑問符が浮かぶ心持ちであったセリニにマノンは自身が持つ知識を明かした。
「説明するとあなたが貰った卵は壺で作られた物、あたしが貰った卵は鍋だったって事よ」
「鍋……だった?」
マノンはいきなり何を言い出したのかと思えたセリニはほうけた声色を零した。
「武器の鍋よ、始めた時の武器の一覧にあったでしょ?」
そこまで言われると同時にセリニは思い出した。
弓矢を探していたときに武器らしくない武器として壺と同様に鍋の名が表示されている。そんな印象を抱いていた。
「あ……はい……確かにありました! 壺と似たスキルを使えるんですね」
それと同時にマノンがどんな意図でスキルを口にしたのか想像できたセリニはそれを表に出した。
「そうよ、あたしが貰ったのは鍋の方」
「そうだったんですか……いったいなんの……」
状況を理解したセリニは親近感が沸いてマノンがどんな理由で貰ったのか気になったが――
「ご……ごめんなさい……」
途端に出会ったばかりな事をぶり返した事で自身の言葉を飲み込んだ。
しかしセリニの疑問はマノンからしてみればさして気にならないのか自らその理由を紡いだ。
「倒すと領域転移が手に入るボスがいる洞窟に向かう為よ」
「え…………えっ!!」
その言葉が耳に触れると同時にセリニは驚愕の声を上げる。
「――その驚き、あなたも同じ目的で卵を?」
そう口にしながらも驚きの表情を見せるマノン。
「そう……です」
否定する必要がないセリニは肯定の言を口にする。
「それは奇遇ね」
笑みを浮かべながらそう語ったマノンは別の事をセリニに尋ねた。
「ならもしかして――チュートリアルをしないでこのゲームを始めた?」
「は……い……早く遊びたいのです」
マノンの突然な質問をセリニは慌てて答える。
流れを無視した唐突なものに聞こえるが、流れはそのままだと察している。
「あたしもよ、なら領域転移を入手しないで町を出たってことか」
ゲームを開始してからの行動を手に取るように話したマノン。
本来なら驚きを感じる状況だと思ったセリニだが、今回に関しては自身の動きを想像できた理由を掴んでいた。
「あの……マノンさんもですか?」
目の前の人物も自身と同じくツインファンタジーワールドの設定を完了して自由行動が出来るようになると即座に町からフィールドに出た。
セリニの脳裏にそんなイメージが浮かんだ。
「当たり――あたしもよ」
「全く……知ったときは本当に驚いた。一時間のクルータイムがあるけど行ったことがある場所に転移できるスキルが町の中で取得できるなんて、普通なら習得前に一度はフィールドに出る機会があるでしょ」
「そう……ですね」
自身も同じ境遇であった為にその言葉にはセリニは同意できた。
「ところでセリニはどうやって倒すと領域転移が手に入るボスを知ったの?」
「!」
突如な質問で目を見開いたセリニだが少し考えると、詳細を省けば明かしても問題ないことに気づくと一呼吸を置いた後に話した。
「フィールドを出た後に……出会った人に教えてもらいました」
「成る程……あたしとは少し違うみたいね」
確信で彩られた様子で言い切ったマノン。
それを見たセリニは興味を感じた。そして自身で明かしたのなら聞いていいと判断すると行動に移した。
「その……どう知ったんですか?」
「フィールドを探索中に領域展開を使用したネシスが目の前にいきなり現われたって感じ、その後はそっちと同じ流れ」
「いきなり……ですか」
歩いていたら他のプレイヤーが不意に現われる。
そんな光景を想像すると同時にセリニの総身は身震いする。
他のプレイヤーも遊んでいるのが当然のオンラインゲームである故に想定外の出来事が発生するのは必然であるが心算する前に起きてしまったら理屈関係抜きに驚嘆する。
「そ……それは驚きますね」
そう口にしたセリニだが同時にある事に対して注目もしていた。
――ネシス……他の人かな。
何気なく言葉に含まれていた事に関してであったがマノンの声が聞こえた為にそちらに意識を向ける。
「流石に驚いた。そしてその後はもっとびっくりした」
「――領域転移を……知ったからですか?」
話の流れから想像できたセリニの言葉にマノンは頷いた。
「チュートリアルで入手するのを知ったのはその時よ――その後あたしは意見を言いに行った」
「意見ですか……どこに?」
自身から話したなら続きを問うのも問題ないだろうと思えたセリニの問いにマノンは即時に応じる。
「運営よ」
「運営に?」
「そう! あるかないかで俄然と差がでるスキルよ、チュートリアルしたしない関係無しにフィールドに出ず手に入れる事を伝えてほしいと意見してきた」
「そ……そうですか」
――ど……どうすれば……。
遊んだゲームに対する不満を作った人物側に向けた経験が無いセリニ――言葉に勢いが乗せられていることも相まってどう返せばいいのか困った。
「まああたしの愚痴はともかくとして……」
そんな最中にマノンは自身が振った話を切り上げる事を宣言した。
それに賛成であったセリニはそのまま相手の話に耳を傾けた。




