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第64話 銀髪弓使いは勧誘から

「そういえば……」


 空の色合いは黒――然れども地上は輝く木々によって照らされた独特な環境の中に独りで佇むセリニはある事を思い出していた。


「卵を孵化しないと」


 セリニが10になるまでレベルを上げていたのは瞬迅のスキルを習得するためである。

 そして瞬迅を得た根本的な理由はアルーセのスキル【壺秘術・創生之導そうせいのみちび小鳥ことり】で誕生した小鳥に案内された先にいる洞窟の中で待ち受けるボス対策であった。


 ――瞬迅に気を取られて……。

 しかし得たものが自身にとって有益なものであると同時にその挙動もとても気に入った結果、意識はスキルそのものに向けてしまったとセリニは自覚する。


「別にいいよね」


 されどもその時間も楽しかったと思えたセリニはさして気にする事もない。気持ちを改めてパネルを操作しようとした矢先――背後から何かが歩み寄る音が身体に届いた。


 ――これって……。

 届いたのは知っている者の足音であった。そしてそれは敵のものである事に気づいたセリニはパネルを消して弓矢を出現させると後ろに存在する木の手前まで移動した。


 ――やっぱり。

 木を背にしながら後ろをチラリと見たセリニの視界に映り込むのは予想通り剣を持った一体のゴブリンだった。


 ――すぐに倒せるけど……。

 既に何度も倒しているモンスターである為に速攻を仕掛ける事を考えたセリニであったが待ったをかける。


 ――わたしに気づいていないよね……。

 ゴブリンの様子は何かを追っているものではない。気ままにぶらついている。そんな事を想起させる動きであった。


 ――他のモンスターはいない。

 そして周囲に目を向けたセリニは敵が目の前のゴブリンだけだと判断する。

 

 ――なら……倒す前に……。

 その状況から戦う前に以前から試したい事が可能だと気づくとセリニは即時に行動を起こした。


 ――気づかれたら……普通に倒せばいいね。

 内側で呟きながらセリニは静かに弓に矢を番える。

 微かな音が夜を賑わすが――ゴブリンの動きに変化はない。


「……」


 その動きを確認したと同時に矢を放つ。

 矢が向かった先は地面であった。

 それは外した訳でなくセリニが意図的に放った場所であった。


 ――どうなるかな。

 矢を放つと同時に木の陰に隠れたセリニはそのまま相手の挙動の観察を開始した。

 するとゴブリンは警戒しながら矢が刺さった地面に身体を向ける。


 ――あの時と同じ。

 ゴブリンの動きを目にしたセリニの脳裏を過るのは――初めて放った矢が外れて木に刺さり、それを見るゴブリンであった。


 ――一部だけかも知れないけど……モンスターの動きは誘導できる。

 曖昧ながらも感じていたことであったが今回の一矢にて確信に至ったセリニは今後の役に立つかもしれないと覚えておくことにした。


 ――後は倒すだけ。

 事を終えたセリニはゴブリンとの戦いを始めようと動く。

 

 ――せっかくだから。

 そのおりにある事を思いついたセリニは木の陰から姿を現わすと同時に実行に移した。


 ――この音にも反応するのかな?

 セリニは無造作に弓を用いて木を叩いた。

 その衝撃によって木が僅かに振動しながら音を鳴らす。


「やっぱり――」

 

 するとゴブリンは木の音に即座に反応、同時に木の隣に立つ少女の姿を捉える。

 それはセリニにとって想定内の動きであった。

 向かってくるゴブリンをどのスキルで倒そうかと考え始めた矢先――激しく枝が揺れる音が耳に届いた。


「!」


 そんな音が鳴る展開を予想していないセリニは驚いて動きが一瞬止る。

 その間に接近したゴブリンは銀髪の少女に剣を振るう。


 ――何なんだろう。

 セリニの意識の大半は枝を動かした存在に向けられている。だがそれに並行して自身に放たれた攻撃も把握。

 最小限の動きで回避――それを続ける最中に思考も続ける。

 

 ――別のゴブリン?

 ――それとも別のモンスター?

 姿を消して音だけを絞り出した様な何者か――正体の判別は一切出来ていないが自身の敵である可能性が高いとセリニは判断した。


 ――いきなり襲われないよね。

 警戒を強めたセリニは周囲に目を向ける。


 ――とりあえず……大丈夫。

 周りに大きな変化は発生していないのを把握したセリニは自身に攻撃を続ける敵を倒すことにした――敵であるゴブリンは攻撃を避けられると同時に両手で剣を握ると掲げるように振り上げ始める。


 ――チャンス。

 それは見た事がある動きである故にその後のゴブリンの動作の予想が可能だったセリニは後ろに跳んだ。

 そして着地と同時に――スキルの名を呟いた。


「【瞬迅】」


 姿を消し去ったセリニ――然れどもそれは刹那の狭間。

 その姿は剣を振り下ろしを開始したゴブリンの隣にある。


 ――余裕はある。

 瞬迅の反動でその場から動けないセリニだがそれは剣を振り下ろしているゴブリンも同じだ。

 

 ――相手の隙に合わせられれば……瞬迅で接近するのもあり……だね。

 気に入ったスキルを最大限に活用したいセリニは今の感覚を覚えておくことにした。

 それを終えると――ゴブリンを仕留めるスキルの名を冷淡に告げた。


「【暗影流出・黒き浸透しんとう】」


 少女の内より現出するのは蠢く黒き影。

 それが右足に集った刹那にセリニは左足を軸にして回し蹴りを放った。

 剣を振り下ろしたばかりのゴブリンに黒色くろいろの蹴撃を避ける術はなく直撃。

 吹き飛ばされて木に激突――大きな音を立てながら消滅した。


「瞬間移動からの強力な攻撃――ゲームみたい」


 正にその世界にいることを棚に上げながら楽しそうに呟いたセリニ。

 しかし数秒後にある事に気づくと――自身の迂闊うかつうさに呆れてしまった。

 

「スキルで倒さなくてもいいよね」


 複数の敵が相手であった場合、数を減らすためにそうする必要性はあった。しかし今回は一体だけであり、その必然的を感じない。

 更に――


 ――木に当たったから。

 セリニによるスキルの一撃にてゴブリンを吹き飛ばしたその結果――音が鳴り響いた。

 それはモンスターを引き寄せる事に繋がる。


 ――いつもならいいけど。

 自身の状況は万全であり、モンスターとの戦闘はセリニにとって楽しいことであり、問題ではなかった。

 

 ――孵化ができないよね。

 しかし今のセリニの本命は戦闘ではなかった。

 そう思った最中に駆ける音が後ろから聞こえた。


 ――二体?

 数を予想しながらセリニは身体をそちらに向ける。


「やっぱり」


 目の前には斧を持ったゴブリンとルプスが立ち塞がる。それを見たセリニは思わず溜息を吐いた。

 それと同時に心の内で思った事を口に出した。


「一度……町に戻ろうかな」


 今の目的は壺秘術・創生之導そうせいのみちび小鳥ことりで生まれた卵を孵化する事だ。

 それをするのにはモンスターが彷徨うろつくフィールドよりも安全で確実に可能な場所でする方がいい。

 それは当然の結論であった。

 しかしそうすると今いる場所に戻るには町からここまで再び歩く必要性がある。

 それはセリニにとっては好ましくないものであった――然れども夜になった事による状況が彼女の心境に変化をもたらした。


 ――夜の森を歩ける。

 ――採取しながらするのも悪くないかな?

 周囲に展開されている景色は見てて楽しいものであった。

 その景色を長く見るためにセリニは敢えて遠回りするのも一つの道と思えた。


 ――とりあえずモンスターを……。

 だがどの道現われた二体の敵は倒すべき対象――そう認識したセリニは動こうとしたその刹那。


「へぇ――町に戻るつもりなんだ」


 突如セリニの耳に届くのはハキハキとした女性の声。


「!」


 心の準備の間を与えられずにいきなりの知らない女性の声が耳に入り込んだセリニは驚きのあまり身体を硬直させる。

 しかし目の前にモンスターがいる局面では命取りである事を自覚すると自然と解除される。


 ――倒さないと……。

 身体が動くと同時にモンスターに攻撃する意思を向けたセリニ。

 だがその刹那――強烈な音を伴いながらゴブリンの身体は霧散する。


「!」


 それを見たセリニは再度驚いたが既に気持ちの切り替えを済ませていた為に瞬間的なもので終えた――故にゴブリンのHPを削った原因が視界に入っている事も掴めた。


「槍……?」


 粒子を突き破りながら見えたそれは長物であり、そこから投擲するイメージと繋がる武器の名をセリニは口にした。

 だが地面に転がるそれを見た瞬間に別の武器である事に気づいた。


「刃が付いた杖」


 灰色を主体に白を添え、銀色の装飾品が施されている。先端には黒い刃が装着されていた。


「透明……」


 更にセリニは刃が透明である事に気づいたが――


「もう一体」


 同時に現われたモンスターは二体であり、戦いは終わっていない。

 故にセリニはルプスに視線を移した。


 ――あれ?

 すると先より距離が離れている。そしてルプスの尻尾が目に映った。


「逆に……」


 自身と別方向に進行している事を察したセリニ。


 ――追う……待つ?

 どうするべきか考えあぐねるセリニであったが場に変化が現れた事に気づいた。 


 ――あれ……浮いた?

 地面に転がっていた杖は場所を空中に転じていた。

 ファンタジーな世界らしいと思いながらそれを見ていたセリニであったが次の瞬間――杖は急速に動き始める。


「!」


 停から動に変わるとは思っていなかったセリニは動揺している。そんな彼女の置き去りにして一回転した杖は空中で停滞した刹那――推進力を得たかの様に急加速。

 風切り音を鳴らしながら突き進み、その最中に先端の刃の切っ先が貫いたのはルプスであった。

 一撃でHPを削られたその身体は粒子となって霧散した。

 

 ――さっきの声の……人。

 それとほぼ同時に杖を掴み取る音がセリニの耳に届いていた。

 

 ――今の杖。

 ――スキルだよね。

 超常現象と思えるような挙動を目にしたセリニだがゲームの世界であると理解しているために見当は即座に可能であった。


 ――かっこいい……動き。

 杖単体の挙動に対する純粋な感想を抱いたセリニ。

 しかし同時にその挙動が後々の自身に与える影響を考えた。

 

 ――けど……やっかいだね。

 鳥の如く空を飛んだその狭間にモンスターを一体倒している――つまり攻撃判定が存在している。


 ――もし敵がしてきたら。

 手元に携えていない武器を操るモンスターと遭遇していないセリニだが今後現われるかもしれない。その可能性が脳裏に過る。


 ――落ちた武器も……気をつけないと。

 新たに注意する点を加えたセリニ――すると面白さが現われた。


 ――後ろからくる武器とか……魔法を避けるのも良さそう。

 ステータスの都合上、ここまで自身に向かってきた攻撃の殆どを回避する戦い方をしていたセリニはその状相じょうそうを底意から楽しんでいた。


 ――爽陽さやちゃんも慣れてきたら視線が後ろにあると錯覚するよ……そう言ってたよね。

 友達が話していた事も同時に思い出したセリニ。


 ――聞いた時は……疑問に思ったけど。

 ――遊んだら……少し分かってきた気がする。

 視界外からの気配や攻撃も感じ取れている気がしていたセリニはその内容に対して共感を抱いた最中に女性の声が届いた。


「あの二体あなたが倒したかった?」


「……え!」


 近くに別の人がいるのは分かっていたセリニであったがそれでも痺れるような緊張感が身体を包み込んでいる。

 故に大きな声を上げてしまった。


「やっぱりそうだった……」


 その声に反応した女性の声。それを聞いたセリニは話の流れから相手が誤解していると判断。即座に誤解を解く為に声を出した。


「ちが……違うんです!」


 それと同時に前に向いたセリニの視界には女性の姿が映り込んだ。


 ――杖に近い……色。

 内側でセリニが零した呟きは正しく現われた女性が着ていた衣服の色合いは先程ゴブリンを仕留めた武器と似たものであった。

 それに気づいた流れで衣服の種類にも目が向いた。


 ――マントが付いた軍服と……ローブ? 

 知っている種類の特徴が合わさったものだと思ったセリニの視線はそのまま顔に向かった。


 ――綺麗な人。

 ――物語に出る……賢者みたい。

 自身よりも少しだけ年上の凜としながらも柔らかさもある顔立ちで目の色は銀色。

 髪色は灰桜で髪型は腰まで届くシンプルな長髪であり、軍帽を被っている。

 知らない女性の威容を目にしたセリニだが不意に視線が合う。


「――!」


 それによって身体に衝撃を受けたセリニは急いで視線を外すと周囲に目を向けた。

 そんな挙動をした少女に杖を操る女性は話しかけた。


「もしかしてモンスターが周囲にいないか警戒してる?」


「は……はい!」


 言われたセリニは刹那に答えた。

 驚いて目を逸らしていたがそれと同時にまた襲われる可能性を考えていた、


「大丈夫……みたい……ですけど」


 見た限り周りにいない故にそれは杞憂きゆに終わる。


「その心配はしなくていいよ」


 そう断言した杖を操る女性。


 ――対策をしている……のですか?

 アルーセが周囲に使い魔を展開していた事を思い返していたセリニに銀髪の女性は答えた。


「フォスに周囲のモンスターを倒している」


「フ……ォ……フォス……さん?」


 前触れなく他のプレイヤーと思われる名を聞いたセリニが緊迫しながら疑問を抱くとは対照的に杖を操る女性はそれに対する解を口にする。


「あたしのフレンドよ」


「そう……ですか」


「そういえばあたしはマノンよ」


「!」


 唐突に目の前の女性の名を耳にしたセリニはびっくりすると同時に身体をぴくりと動かした後に反射的に声を発する。


「せり……セリニです」


 自身のプレイヤー名を明かしたと同時に少し落ち着いたセリニは今の状況について考え始めた。


 ――どうしてモンスターを?

 フォスというプレイヤーが周囲の敵を倒していると知らされていたセリニだがどうしてそうしたのかその理由が思い浮かばなかった故に疑問符が頭の上に現われた心持ちとなった。

 そうした心の持ちの少女に向けてマノンは言葉を向ける。


「フォスに露払いをさせたのは……」


 聞こえた言葉は自身の疑問をほどく内容であった為にセリニは紡がれる言葉に耳を傾ける。


「ちょっとあなたとお話したかったから」


「は……はいぃ……わ……わたしとですか!」


 届いた内容は人同時では当たり前かもしれないが驚きに値するものであり、セリニは困惑する。


「唐突な話だからびっくりよね」


 その反応を当然と捉えながらマノンはそのままセリニに言葉の続きを向ける。


「少し具体的な事を話すとビーハイブ・クイーンを倒した帰りの時にさかのぼるの」


 前触れなくにツインファンタジーワールドの要素を口にするマノン。

 だがセリニはその名に見覚えがあった。


 ――ビーハイブ・クイーン。

 ――レベル上げしているときに現われた……モンスター。

 それはレベルを上げているタイミングで出現していたフィールドボスの名であった。

 そのモンスターは近い場所に出現していると知らせを受けていた、その為に駆けつけて戦う事も可能であったがレベル上げを優先している。

 そして今の自分のレベルではまだ戦えないとセリニは判断していた故に名前だけを知っていた。


 ――ビーハイブ・クイーンを……倒した。

 ――なら……強い人だよね。

 普通のモンスターを遙かに超えた威容を直接見た事があったセリニはフィールドボスを倒したマノンの実力が凄まじいものであると察する。

 

 ――そんな人がどうしてわたしに?

 しかし同時に実力者が自身と話したいと言ってきた理由に見当がつかないセリニはとりあえずマノンの話の続きを聞いた。


「それであたしはセリニを見たの」


「姿……ですか」


「ホブゴブリンに止めを刺した姿を」


「ホブゴブリン……」


 声を介して渡されたその内容はセリニもしっかりと覚えている。


 ――弓術きゅうじゅつ貫穿かんせんを使った……タイミング。

 内側で使用したスキルの名を出すと同時にその時の状況が脳裏で再生されるセリニ。


「あ――――」


 セリニは突如感情によって吹いた強い寒気を感じた。


 ――変わった倒し方をしたの……見られた……。

 ホブゴブリンにスキルで止めを刺したセリニであったがその時の矢の当て方に変えることでスキルに変化が起こるのか試すために跳躍した後に地面に向けて撃つ。

 矢を放った本人にとっては意味があるものであるが――客観的な視点からするとへんてこな動きで攻撃していると思われていると考えた。


 ――ど……ど……どうしよう。

 見られた時の事を一切考えていなかったセリニの心の内側はとても動揺していた。

 その只中ただなかにマノンの声が聞こえた。


「それを見て興味を抱いたの」


「興味……?」


 しかしセリニが考えたことに触れずにマノンの言葉は続いた。


「けど見たときは通り過ぎただけ」


「そう……ですか」


 その話を聞いてセリニは納得する。ホブゴブリンを倒したタイミングで話しかけたならばもっと早くマノンと会話する事になっていたと気づけた為だ。


「だけどやっぱり気になって、踵を返してきたの」


「とは言ってもそっちが移動してるかもしれないって、半分諦めていたから途中で遭遇したイベントに参加しながらのんびりきた」


 ――だから今。

 説明を聞いたセリニはホブゴブリンを倒してそれなりの時間が経った今にマノンが現れた事に納得した。

  

 ――興味があって……わたしに話しかけた。

 マノンが自身の前に姿を見せた理由を胸の内で要約したセリニ。

 

 ――アルーセさんも同じだった……けど。

 ――わたしには……できない。

 既にフィールドにいる他のプレイヤーを多数を見かけているセリニ。

 だが見知らぬプレイヤーと接触して話しかける等――陰キャで人見知りな自身では絶対に不可能と感じる。


 ――オンラインゲームを沢山してるから……できる?

 ――本当に……すごい。

 自身には不可能な事柄を当たり前にこなす二人のプレイヤに憧れを抱くセリニ。


 ――けど……ここまで来た理由は……何だろう……。

 しかし興味だけではなく目的があるのでは? そう感じたセリニにマノンは話しかけた。


「あたしが戻ってきたのは勧誘するため」


「かん……勧誘ですか……」

 

 忽然とした内容に驚いたセリニ、しかしその内容に秘めたものは予想外ではなかった。


 ――誘われる…………何かに……。

 ――爽陽ちゃんが言ってたけど……本当に言われた……。

 ツインファンタジーワールドはセリニにとって初めてのオンラインゲームであった。

 それを筑波爽陽つくばさやに伝えていた月影は始める前に様々な事を聞いている。

 そして今の状況が起こりえるかもしれないと伝えられていた。


 ――何の勧誘?

 しかしその言葉だけでは子細が分からないセリニ。

 そうした心境の銀髪の少女にマノンは言葉の進む道を示した。


「9月から始まるギルドのメンバーを集めてるの」


 続いた先はセリニも別のゲームで聞いた事がある単語であった。


 ――爽陽ちゃんやアルーセさん……が話していた。

 そして同時に聞いた内容はそのままであった。

 しかしそんな状況でもセリニは疑問を感じて、それは言葉として現われた。

 

「いきなり……ですね」


 マノンとは今日が初対面である。なのに今の言葉を出すのは自身では無理無体な状況に追い込まれたとしてもできないとセリニは思った。


 ――し……失礼だったかな。

 言った直後に失言と思ったセリニにマノンからの返答が届いた。


「それはそうね」


 笑みを浮かべながらセリニの言葉を肯定したマノンは言葉を繋いだ。


「けどプレイヤーが入れるギルドは一つだけ、だから他のギルドに入っていたら勧誘はできない、可能なら勧誘は早々にするべき――リーダーからの入り知恵よ」


「…………」


 ――なら……仕方ないのかな。

 押し黙るが届いた内容はセリニも理解できるものであった。

 

 ――仲間にできる期間に限りがあるなら……。

 チャンスを逃がせば二度と訪れない。

 現実であるなら仕方ないと諦められるセリニであるがゲームの中なら別である。

 掴み取れる距離にいるならば手にしたいと思えた。

 

 ――ですけど。

 ――ごめんなさい。

 だがマノンにそのチャンスはないと胸の内で断ずる。

 何せギルドに入る選択肢はセリニの内側には存在しない。


 ――どう……説明を。

 しかし初対面の人物にどのように自身の意思を話せばいいのか考えられないセリニの耳にマノンの声が届いた。


「リーダーの名前はエクストで……」


「あ……あの!」


 マノンの言葉に横槍を入れる形で声を出したセリニ。


「ん?」


 それに対してさして驚く様子もなく反応したマノン。


 ――言うだけ……言わないと!

 状況を長引かせても意味が無いと判断したセリニは自身の所属するグループの事を早急に話した後に断ろうとした。


「その……わたし……ミストフォロスに入るので……」


 決心したセリニだが言葉が全く追いついていない――繋げる為の単語は見つかるが緊張によってバラバラとなり欠片となって脳裏に漂ってしまう。


 ――どどどど……どどし……どう……どうしウ……。

 思考回路がパニック状態となって言葉を言えなくなったセリニにマノンの声が届いた。


「ミストフォロスに入るのね、ならギルドに入るのは不可能ね」


「え……」


 その声色が納得したものに聞こえたセリニは視線を前に向ける。すると納得した表情を浮かべるマノンの姿があった。


「は……はい……」


 ギルドとミストフォロスは兼用できない。それを知っているセリニはマノンの言葉に同意する。


「なら今の話は終わり」

 

 そしてマノンは淡々と流れを断つ事を宣言した。


「え……」


 どう断るか考えていた為に自身にとって嬉しい展開な反面、あまりにもあっさりと終わったためにセリニは困惑した。


「その……あの……どうしてですか」


 するとマノンはセリニの言葉に解を添える。


「あなたがミストフォロスに入るなら、あたしにそれ以上できることはない、無理矢理誘ってもお互いに損するだけ」


 ――せっかくのゲームなのに。

 ――楽しくないのは嫌です。

 無言でその話を聞いていたセリニは心の中で納得する。

 強引に道を逸らされていると考えながらゲームを遊んでも全然面白くないと思えたからだ。


「だから相手が別のギルドやミストフォロスに入るのなら、その話は打ち切る、そうするようにギルドメンバー全員に向けてリーダーが言っている、あたし個人としても賛成よ」


「そうなんですね」


 届いた内容の全てが納得できるものであったセリニは同意の言葉を向けるとマノンは心底楽しそうな声色で返答する。


「ええ、せっかくギルドを始めるなら、楽しいギルドにしないとね」


 ――楽しい……ギルド。

 ――どんな感じなのかな。

 耳に届いたその声の感触から底意からそう願っている言葉だとセリニは思えた。


 ――入ることはないけど。

 ギルドよりもミストフォロスに魅力を感じており、その気持ちが揺らぐことは決してない――しかしそれでもセリニのある事を独りで思案した


 ――ミストフォロスの事を知らないで……マノンさんに会って……勧誘されたら……。

 ――ギルドに入っていたかもしれない…。

 それは今ではけして起こり得ない、掴むかもしれなかった可能性の話。

 然れども具体的な内容を想像した刹那――


 ――それはそれで……楽しいことになってた……かな?

 面白い状況になっている可能性が脳裏を過り――セリニはほんのちょっぴりだけ笑みを浮かべた。

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