第63話 銀髪弓使いは現実から
「あ……何か習得した」
愉悦感に浸っていた少女の目の前にはパネルが現われるとセリニは流れで目を向ける。
「【ゴブリンキラー】……契約……」
得たものが初めて習得した系列のスキルであったと気づいたセリニはその効果に目を通した。
「ゴブリン系統のモンスターに与えるダメージ量が10%上昇」
相手が限定されているとはそのスキル効果は破格であると気づいたセリニは他にも効果がある事に気づいた。
「パーティーメンバーにはゴブリン系統に5%のダメージ量上昇を付与……この効果は重複されない……装備すれば他の人のダメージ量が上がるんだ」
そう口にしたセリニだが恩恵を受けられないプレイヤーがいることも表記されていた。
「契約モンスターに関わるスキルを装備しているプレイヤーにはその効果は付与されない……されないんだ」
――どうしてなんだろう?
そんな疑問が湧き上がったセリニだが自身に影響を及ぼす部分に意識が向いた。
「わたしは……装備できないんだね」
開いていたパネルに表示されていたのは自身のステータス。それを見ながらセリニは呟きを漏らした。
契約の欄には【契約不可能】と表示されている。
「触っても」
そう言いながらパネルに触れたセリニであったが『変更不可能』とパネルに表示された後に変更可能にする方法が入れ替わりに現われた。
「暗影の髪飾りを外す……だよね」
セリニが唯一装備している装飾品である『暗影の髪飾り』は契約モンスターに関わる装備品であった。
「外したら暗影の髪飾りはおしゃれアイテムとして残るけど……クエストが中止になって暗影への序開が使えなくなる」
ゴブリンキラーを装備するには対価が必要となる。その事に気づいたセリニはすぐさまにどうするべきか決めた。
「ゴブリンキラーは諦めるしかないね」
既に暗影への序開に対して愛着が沸いていたセリニにそれを捨てて別の能力に入れ替える――そんな気持ちは一秒たりとも現われなかった。
「もう一つ……」
割り切った事よりも他に確認したい内容がある為に開いた項目を閉じようとした瞬間、契約に関わる事が書かれたパネルが表示されるとセリニは反射的にそれを読んだ。
「契約を習得しても表示しない様に変更する事も可能……」
――わたしみたいに……契約をしない人も想定しているのかな?
そんな所感を呟いたセリニは同時に現われていた選択肢に触れる。
「表示しない」
セリニは今後自身が習得する契約を見ない選択を選んだ。
――新しい契約を見ても……わたしには使えないから。
暗影への序開を手放さないと――クエストをクリアしたその先で得るもの手に取ると決めている。
しかし新たな契約の効果を見てもその決意が揺らぎはしない……とは絶対に言い切れないセリニは確認する――その選択そのものを切り捨てることにした。
「別の契約がクエストクリアに必要にならないと……いいけど」
誰に言われることもなく自身の選択に不安要素を感じていたセリニであったがそれ以上は考えても仕方ないとしてパネルの操作を再開した。
「『スキル欠片・白壊』」
操作を止めると口にしたのは弓矢を得物としたホブゴブリンからドロップしたアイテムの名前であった。
そしてすぐさまに近いアイテムを既に手に入れている事をセリニは思い出した。
「スキル欠片・騒音と同じ……」
そう口にしながらそもそも手にしたアイテムはどのように使うのか全く知らなかったセリニは初めて説明欄に目を向ける。
「三種類のスキル欠片を集めて25レベルになると利用可能な融合屋で融合する事で融合スキルに……融合スキル」
そのスキルに見覚えがあったセリニはステータス欄を表示した。
――これのこと……。
そこには融合スキルと表記されていた。
「レベルが25になって後一個欠片を手に入れれば新しいスキルを習得できるって事だね」
状況を理解して心底楽しそうな色合いで口にしたセリニはもう少しで未知なる新たな能力を得られるその誠に悦を感じていた。
そしてもう一つ調べた事があった為にパネルの操作を再開した刹那――夜闇と木が放つ輝きで満たされた空間に別の音が紛れ込んでいる事に気づいた。
――上……だね。
身体の向きを変えることなく異音の場所を察したセリニの手元に弓があった。
森の中に音が鳴り響いた。
――降りた。
鳴った音から相手がどんな動きしたのか判断したセリニは上を向いた。
身体を動かさなくても音から相手との距離感を掴みかけているが目での確認もしたほうがいいと判断したからだ。
「……」
視界に映り込むはマントで身体を隠したゴブリン。その手に握る短剣はセリニに向けられ――間近まで迫ったその刹那。
「【瞬迅】」
スキルを口にしたセリニの身体は消失する。
少女が消えた事で向かっていたゴブリンと短剣は空を降り地面に突き刺さる寸前――
「……」
既に隣に現われた少女は弓を振るい、直撃したゴブリンは吹き飛び地面に倒れ込んだ――その直後それに追従して動いていたセリニは蹴りによる一撃を加えると更なる追撃として足先より現われた短剣による斬撃を与える。
切り裂かれたゴブリンの身は粒子となって消えた。
「やっぱり便利だね、瞬迅は」
楽しさを隠せない色合いで攻撃を避ける時に使用したスキルの名を口にしたセリニはパネルを出現させて目を向ける。
「瞬間的に移動するスキル……空中では使用不可能で地上でのみ使用可能……移動可能範囲はステータスと装備で決まる」
習得と同時に使用する方法は脳裏に現われるがそのスキルの性能がどの能力値によって変化するのかまでは解らない。
瞬迅を気に入ったセリニはその詳細を確認した。
「疾走力の数値の高さで移動可能範囲が広がる……防御力の数値が高いと移動可能範囲が狭まる……鎧や大盾を装備していると更に狭まる……うん、わたし向きのスキルだね」
何となくだが自分のステータスとかみ合っていると予想していたセリニはそれが当たっていたことを喜んだ。
――けど……頼りすぎるのも駄目だね。
しかし今後の攻撃の回避を瞬迅に任せるのは危険だとセリニは考えている。
理由は二つの弱点であった。
――クールタイムが一分……ある。
スキルである為に連続で使用することは不可能であり、不用意に使用すると必要なときに使えない――そんな状況に陥る。そういった事を想像をするのはマイナス方面に物事を考えるセリニにとっては当然であった。
――瞬迅だけじゃなくて……今迄どうり普通に動いて攻撃を回避しないと……。
その為にレベルが10となる以前の戦い方も忘れないとセリニは誓った。
「それに……使った後に少し動けなくなる」
セリニが呟いたそれが瞬迅の二つ目の弱点であった。
身体の内に響いた――そしてスキル欄に書かれていた説明にも記されていなかった。
――瞬迅で移動した場所を攻撃されたら……倒されるね。
自身の能力は攻撃を避ける前提である故にそんな想像をしたセリニは更に続ける。
――瞬迅の移動先は相手の攻撃が届かない先……それと連続で攻撃している時の回避には使わない方が……いいよね……きっと。
得たスキルを有効に活用する方法を考えたセリニであったがそれを終えた後に脳裏に浮かんだのは同じスキルに対する事であった。
「あの感覚……何なんだろう?」
ぶっつけ本番でありながらも瞬迅を戦闘に活用できたセリニ――当初は圧倒的な楽しさが身体の芯から湧き上がって気にしなかったが冷静になると使用した時の感覚は普通ではなかった事に気づいた。
――身体から何かが勢いよく噴射みたい。
瞬迅を使用した時の感覚を自身が知っている言葉で言い表したセリニ。
――止った時は逆から噴射したような……。
――テレビで見た……急ブレーキする車みたいな……。
例えを混ぜながらもそんな感覚だったとセリニは独白した。
――けど……違和感はない。
そんな非現実的な感覚を直に触れながらも肉体を通じてセリニが感じるのは普段と変わらない感覚であった。
「このスキルは最初から使えない――」
レベルが10となって瞬迅を使えるようになった――習得した経緯は把握していたセリニ。
「だけど最初から使えたみたいな……感覚」
だがそう言いたくなる気持ちをセリニは抱いていた。
――不思議だね……色々と……。
一番に思った事を心の内で呟きながらセリニは自分の手に目を向けるとそれを動かした。
「現実と同じ……だよね」
全身から伝わるのはいつも通りの感触であった。
それは当たり前な事だとセリニは理解していた。
――だけど……現実と違う身体。
しかしそれでもセリニは今の身体は月影にとって馴染み深いものではないと思えた。
だが否定的な感情は現われなかった。
――そのお陰でここまで倒れないで済んでいるんだよね……。
数値で測れるステータスとは根本から異なる自身のあらゆる面の身体能力がゲーム空間限定であるが向上している事をセリニは強く自覚している。
――現実と同じ運動神経だったら……どうなってたんだろう?
ふっとそんな事を考えたセリニはすぐ答えに辿り着いた。
「とりあえず……木に上れないから……ここにはいないかな」
初めてフィールドに出た時は他のプレイヤーとの接触を避ける為に地上とは異なるルートを進んでいたセリニ。
しかしそれが出来たのは運動神経が上がっていてその動作が可能だった為であり、それが不可能だった場合は他のプレイヤーをいない場所を目指して地上を進んでいただろう考えた――もしかしたら街に戻って別方向のフィールドに足を踏み入れていたかもしれない。
――それはそれで面白そうだけど。
そのルートを選んだ場合。レベルが1だった自身が対峙するに相応しいモンスター達と戦っていただろうと想像できた。
地道にレベルを上げる事も好きなセリニにとってもそんな展開も好ましいものと思えた。
――もう起こらない事だね。
しかしレベル10となった今となってはデータを消してゲームを初めからやり直しをしない限りは過ぎ去った可能性に過ぎないとセリニは認識した。
――けど……今も面白い。
そして同時に巨木から落下した事が起点となって始まった現在の進み方をセリニは本心からとても楽しんでいる――その為に後悔の感情は一切なかった。
「自身のランクが高かった事のは……本当に良かった」
故にセリニはVRMMOを快適に遊べる理由であり、ゲームを通じて初めて知ることとなった自身の内に秘められていたVR適正の高さに対して――感謝の言葉を口にした。




