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第60話 銀髪弓使いはわざとから

 月光と光る木々から放たれる二重の輝きに照らされた森林に拡散されるのは――葉っぱを揺らす衝撃音。

 それにあわせるように宙を舞ったゴブリンは粒子となって消失する。


 場にはもう一体のゴブリンもいた。しかし矢による攻撃を受けるが一撃では倒れない。

 反撃をしようと得物である棍棒を握りしめながら一歩を踏み出した。


「……」


 沈黙のまま弓矢の主はその場から跳躍する。

 しかしながらゴブリンはその姿を明確に見たために跳んだ後の軌跡の推測は可能であり、予想した地点である真後ろを見た――だがそこにあるのは木だけ。人は立っていない。

 その光景が視界に映る最中に上から聞こえるのは木に刃物が突き刺さる音。

 ゴブリンがその正体を知る術はない。

 音が鳴った後に上から放たれた一本の矢が左腕に直撃して消滅した為だ。


 それから数秒後に森林に響くのは木の一部が欠ける音だったがそれは直ぐに掻き消された――靴に仕込まれた刃を仕舞いながら落ちてきた銀髪の少女が放つ悲鳴によって。


「痛っ!」


 頭から地面に衝突した紫を纏った少女――セリニは短い声を上げた後に身体を硬直させながら倒れた。

 それから五秒後。身体を起こしてその場に座り込むと微かに左右に揺らしながら声を発した。内容は直前までの自身の状態に関してであった。


「これ……が……ショック……状態ぃ」


 モンスターに攻撃を加えると衝戟力しょうげきりょくも付加されるがそれはプレイヤーも同じであった。

 そして衝戟力が積み重なる要素は戦闘だけではない。


 ――落下した時は……溜まるんだよね。

 高所から落ちると攻撃を受けた時と同様に蓄積される。


 ――駄目な落ち方をすると数値が増える。

 そして今回の様に頭から落下すると一気にショック状態になる為に注意と電子説明書に書かれていた事をセリニは思い返した。


 ――衝戟力じゃなくて……ダメージだったら。

 ――HPが尽きていたのかな。

 ――そしたら……初めてのVRMMOの初死亡が落下死。

 今迄遊んでいたゲームを基準としたら――そんな想像をしたセリニは寒気を感じる。


 ――落下ダメージが無いゲームで本当に良かった。

 そして同時にツインファンタジーワールドの仕様に感謝した。


 ――けど……状況によっては……ダメージを受ける可能性もあるんだよね。

 しかし周りの環境によってはHPが減るとも書かれていた。


 ――あんな事をしたら……駄目だね。

 そして自身が頭から地面に衝突する事となった迂闊な動きを反省する。


 ――短剣で木を切れたからできると思って……したらやれたけど。

 足に仕込んだ短剣によって起きた結果を見た事で普通の靴では不可能な動きができる。そんな好奇心が沸いて、心の赴くままに戦闘の最中に試した結果――窮地に追い込まれてしまった。


 ――モンスターがいないところで練習をしよう!

 しかし諦めてはいなかったセリニは決意の表明を身体の内側で済ませた。


「けど……ダメージだったなら」


 しかし今後落下した先でダメージを受けるかもしれないと考えたセリニの脳裏に過るのは――

 

 ――あの能力で防げたのかな。

 自身が保有するスキルに関してであった。


 ――ダメージを受けた時に……ゲージやMPがあれば自動で発動するみたいだけど……。

 そのスキルの発動するのに必要な要素を浮かべるセリニ。


 ――全部避けて武器で受け止めてるから一度も使ってない。

 だが自身のステータスのビルドが相手の攻撃を躱す事を前提としている。

 そして今のところセリニはそのとうりに動けており、ゲージも空っぽにしたことが無い事もあって一度もHPは変動していない。


 ――発動するのかな?

 その為にそのスキルが自身が望む効果なのか心配になってきた。

 その心配を解消できる事を思いついたセリニ――しかしそれは自身の身体を使うものであった。 


「試しに……わざと攻撃を受けようかな」


 ツインファンタジーワールドのデスペナルティーはクエストさえしていなければ然したるものではない為にスキルが発動せずにHPが0になっても損害はない。

 故にセリニは敢えてモンスターの攻撃を受けてその効果を実感しようかと考え始めた。


「けど……今は駄目」


 だが頭を横に降ってその考えを消し去った。

 否定したのには明確な理由があり、セリニは理由を実体化させる為に両手を前に差し出すとそのまま合わせた。

 するとそこに卵が現れる。


「この子が進んだ先にあるボスを倒してから」


 今のセリニにははっきりとした目的があった。それを果たす為には今倒れるのは駄目であった。

 卵を身体に戻したセリニはパネルを出現させると今の自身のレベルを確認する。


「今は……レベル9」


 初めてのフレンドであるアルーセの話によれば戦闘に役に立つスキルがレベル10になると同時に自動習得する。

 その話を聞いたセリニはレベルが10になった後にボス討伐に赴くと決めていた。


「後……どれくら」


 明確な数値を確認しようとしたセリニだが――自身は再び粗忽な事をしていると気づいた。


「あ――」


 ――座ったままでモンスターに発見されたら!

 今いる場所は安全地帯等ではない。

 プレイヤーの敵対者が徘徊するフィールドであり、そんな場所で呑気に座りながらパネルを操作する等、倒してくださいと言っているようなものであるとセリニは気づいた。


「モンスターは……」


 急いで立ち上がったセリニは用心の為に弓矢を出現させると周囲の確認をしようと右側に目を向ける。

 すると――


「……ゴブリン」


 自身の横を通り過ぎるモンスターの姿を確認した。


 ――気づいて……いないよね?

 誰もいない道を歩むかの様に直線に進むその姿から狙われていない事を察したセリニ。


 ――なら……。

 自身が有利な状況な事に気づいた刹那に手早く弓矢を構えたセリニは矢を撃ち放つ。

 音に気づいたゴブリンは振り向こうとしたが――結果に変化は起らずに一の矢が突き刺さり仰け反る。


「――」


 その姿を見たセリニは既に新たな矢を番え――そのまま放たれた二の矢が直撃する。

 二つ目の矢に耐えきれなかったゴブリンは粒子となって消え去る。


 ――別の……。

 一体のゴブリンを倒したセリニであったが一体ではなく群れのモンスターである可能性を考えて周囲を見ようとしたが耳に届く歩行音――そして視界の隅に動く何かが映っていた。


「!」


 更に物が降られる音が耳に届いたセリニは後ろに跳ぶ。すると目の前に振り下ろされた木の杖が現れた。


「魔法の!」


 セリニの推測どおり、モンスターはもう一体いた。

 それはローブを纏ったゴブリンである。


 ――魔法を使うなら。

 次の攻撃を警戒するセリニにゴブリンは杖を払う事前動作を見せる。


 ――魔法でないなら。

 動きを確認したセリニは次の一手が杖による物理攻撃なら自身がしたいある事の初実践に向いていると頭の片隅に置いていた故に即座に実行した。

 

「丁度いいね」


 振り払われた杖に向けて少女は楽しそうな声色で言い放つと同時に蹴りを放つ。そして靴先から刃が出現する。

 セリニが一度したかった事は仕込み短剣による鍔迫り合いである。

 弓でも可能な事は既に把握しているが本来の使用用途でない為に今後の事を考えると頼りにするのは危険だと思えた。

 しかし短剣であれば弓よりも向いている。

 そんな期待を込めた煌めく刃は杖と衝突した――その結果に驚きの声が上げた。


「――切れた」


 発生したの鍔迫り合い等では無い――短剣による木の杖の両断であった。


 ――一方的だとこうなる?

 その結果に実直な予想が頭を過ったセリニ――その予想は当たりであった。


 ――鍔迫り合いじゃないよね。

 ステータスと武器の種類により圧倒的な差が生じた時は武器同士の衝突で起るのは鍔迫り合いでない。

 片方の一方的な勝利――片方の一方的な敗北である。

 プレイヤー同士の武器の衝突で今の結果が起きた場合は大きく体勢を崩すだけで済まされる。

 しかしそれがモンスターの武器であるならば破壊される。それが現在のセリニの前で起きた事柄であった。


 ――どの道……チャンスだよね。

 敵である自身がいるのに自分自身の武器が破壊された事に破顔しながら驚嘆するゴブリンを見て倒す機会を得たと感じたセリニは体勢を戻すと同時に弓による打撃を加えると軽くその場で跳ぶと横蹴りの構えをしたその刹那に――冷たい口調でスキルの名を呟いた。


「【暗影変異・黒之鋭刃くろのせんじん】」


 右足より出現した暗き影は間隙かんげきの合間を表わす事なく漆黒の刃の形と成ると――隙だらけのゴブリンの体をセリニは刃が付加された空中回し蹴りで両断――切断音が後を紡ぐと黒き影の刃は霧散した。


「あ……」


 自身の右足を起点とした黒き影の刃が空中を一回転した事で自身の後ろに生えていた細木も切り裂かれ、地に崩れ落ちたその結果――大きな音が夜の森に鳴り響いた。

 しかしセリニはその音を受け入れた。


 ――別のゴブリンが来るかな?

 今はレベル上げをしている為に新たな敵の襲来を歓迎であったセリニ。 

 だがそんな彼女の目の前にパネルが出現する。


「レベルが10!」

 

 内容を見たセリニは喜びと驚きが混ざった声を上げる。

 他にも表示されていることもあったが今は見ている余裕がなかった。


 ――ここにいたら見れない!

 先の音が狼煙となって別のモンスターが現れると考えていた事もあり、自身のステータスの確認をするのにこの場が向いていないと即座に気づいたからだ。 


 ――落ち着ける場所で……確認しないと。

 故に場所の移動をする事にしたセリニは視線を上に向けながら周囲を見る。

 

「あそこだね」


 モンスターにエンカウントする可能性が低い都合がいい場所を見つけたセリニは呟きと同時に跳躍――地上から一時立ち去った。

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