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第58話 銀髪弓使いの幕間 その16

 月明かりに照らされた森林に流れるルプスとホブゴブリンの雄叫び。

 だが向ける筈だった対象は既に立ち去っている故に――音だけが空しくも過ぎ去った。


 しかしかの者達にとって既に過ぎ去った事柄だ――新たな獲物を探せばいい。

 音色として表わす事をせずともそのような雰囲気を醸し出す二匹は巨岩を中心とした広場から離れようとした瞬間――背後から空間を穿つ様な激しき水飛沫が響いた。

 それを聞いたのは背後を振り向いたルプスだけだ。

 何故なら共にいたホブゴブリンは粒子となって霧散している。

 だが狼にとって既に消え去った者などどうでもいい――輝く木々に紛れ立つ人影を視認している。

 それだけが端緒たんしょとなってその身体は森林の中を疾駆する――その果てに森林を満たすは――破裂する水音みずおとであった。


「全く」


 何もかも流された筈の現場に響くは激流に流されながらも美しさを損なわない水を彷彿させる少女の声。


「間に合いませんでしたか」


 広場に姿を見せたその身は紺色を主体に赤銅色しゃくどうを加えたロングスカート付きの軍服を着込んでいる。手には手袋、足には黒タイツを穿いており、頭以外の肌を隠す。肌は色白、青色の眼鏡を身につけている。

 青色の瞳であり顔立ちは整っているが鋭利な雰囲気であり表情も硬い。

 髪色は金青こんじょうで髪型はショートカットであった。

 服装の特徴も相まって特殊な任務を遂行している様な雰囲気であった。


「……」


 周囲に目を向けながら少女は少々不機嫌な様子となっていた。

 彼女には探し人がいる。その人物は数秒前にこの場にいた事は把握している。

 それが不機嫌な理由――ではない。


 ――ゴブリンと遭遇しなければ。

 少女が別の場所からこの場に向かおうとしたその一弾指に現れたモンスター。

 それを倒しているあいだも時間は経過している――その経過時間がこの場にいた人物と会えたのではと思えた。


「遠くにはいないはず」


 目にしただけでその人物像を一切知らない少女であったがその姿からある推測をしていた。


「レベルを上げてるはず」


 それを直接口に出したと同時に、草が揺れる音が聞こえた。

 気づいた少女はその方向に目を向ける。


 ――もしかして。

 その心に淡い望みを宿した少女だが――脆くも崩れ去る。


「敵――ですか」


 少女の前に現れたのは三体のゴブリンであった。 

 

「まあ問題ありませんが」


 しかしそれらは脅威に値しない敵であり、少女は余裕を持って戦おうとする。


「さて」


 瞬きをした少女は武器を取り出す――筈だったがその動きはしなかった。

 何故なら瞬きをして視界が塞がった僅かな空白の間に今いる場に明確な起きた為だ。

 動き始めたゴブリン達の背後には――月の輝きに照らされた刃が煌めく大鎌おおがまを携えた者が立っていた。


 ――誰?

 しかしそれが何者なのかを少女は即座に判別できなかった為に困惑する。

 その最中に一体のゴブリンが自身の背後に誰かが立っている事に気づいた仕草を見せ始めた。

 だが微かな狭間にその者は携えた大鎌を構えそして流麗な動きで一歩踏み出すと同時に放たれた一閃は――三体のゴブリンを一纏めに切り裂いた。


 ――並じゃない。

 スキルを使用していない通常の一撃。

 だがそれじゃ一切の無駄が無い理想的な動きであり、直に見た少女は刹那に把握した――現れたプレイヤーは上位の実力者な事を。


 ――大鎌を持つプレイヤー。

 そして同時に一目で分かる大型の得物を使いこなす有名な人物の名に既に覚えがあった少女は自身に歩み寄る者の外見に目を向ける。

 

 衣服は学生が着る雰囲気のスカート付きの制服であり、色合いは群青色ぐんじょういろを主体に白を加えたものであった。

 そしてその上に上品なオーラを溢れ出る装飾が施された白銅色はくどういろのマントを着けている。

 背も低く顔立ちは幼い。小悪魔じみた趣であった。

 目の色は黒く、髪の色は純白で腰に届く程の長髪であり、黒羽の髪飾りを身につけている。


 ――もしや。

 先まで出現させていた大鎌を持った姿と予想した人物の姿が完全に重なる最中に少女の耳に声が届いた。

 

「今のゴブリン達、貴女が倒すつもりだった?」


 初めて聞いたマントを身につけた少女の声は外見よりも少々大人びた――妖艶としたものであった事に驚きながらも返答した。


「現れたのを振り払う感覚だったので大丈夫ですよ」


「そうなんだ! 瞬迅しゅんじんはるかを使うと時々こうなるんだよね」


 心底安心した様子のマントを着けた少女が今語った内容はスキルの事でそのスキルがどんなものか知っていた少女に説明は不要だった。

 故にそれ以上その点で会話が広がる余地はなかった。


「あ……そうだ! あたしの名前は……」


 互いに初対面である為にマントを着けた少女は名乗ろうとするが――


「言わなくても問題ありません」


 少女はその先を遮る。

 理由はマントを着けた少女の名を既に推測済みであり、せっかくの機会なので自身の口で相手の名前を明かすことにした。


「実の所、貴女の試合を観戦した事があります」


 今の場と全く関連性が見出せない事を言われたマントを着けた少女であったが納得の色合いを含めた笑みを浮かべる。


「――ならあたしが言わなくていいね」


 自身に到達した声が消え去った直後に少女はマントを着けている少女の名を口にする。


「モルス――それがあなたの名前です」


「そう! あたしの名はモルスだよ」


 少女が言った事を楽しそうに肯定したモルス。


「そして」


 そんなモルスに少女はある名も付け加えた。


「二つ名で呼ばれるようになったプレイヤー――それは『死神しにがみ』」


 続けざまに目の前のプレイヤーに関わる事を話した少女――それに対してモルスは――


「そうだよ! あたしが死神モルスだね」


 明るい声色で答えた。


 ――コロシアムでの印象と違う。

 そんな様子のモルスに対して少女は物騒な二つ名と乖離していると思った。


 ――あの動きは本物。

 しかし数秒前にゴブリンを一掃した動きの鋭さは賞賛に値すると少女は心底から感じている。


 ――オンとオフが激しいプレイヤー?

 推測をする少女だがそれはそれとして会話を続けることにした。


「わたしは……」


 相手が名乗ろうとしていた為に自身も名乗ろうとした少女だが――それは封鎖された。


「メアだよね! 知ってるよ」


 モルスが少女の名を先に話した為であった。


「――――」


 他のプレイヤーに名が知られるような事をした覚えがなかったメアは沈黙しながらも驚きを感じた。


「確かにわたしはメア……何処でわたしの名を?」


 どうしてなのかと訝しんだメアは理由があるのかとモルスに問いかけた。

 すると返答は即座に返ってきた。


「一度だけメアがコロシアムで戦うのを観戦した事があるんだ」


 そう言われたメアはどのタイミングでと当惑するがそれは一瞬で治まった。


「一度はコロシアムを遊びましたが」


 メアは不特定多数が観る可能性があるイベントに参加した事があり、モルスが自身と対面せずに名前を知る機会があった気づいた。


「そうなんだ! だから一度だけしか」


 メアの言葉を聞いたモルスは底意から納得しながら頷いていた。

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