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第57話 銀髪弓使いは秘密から

 ――家で考えた着地方法出来るかな。

 身体を空中に預けていたセリニは数多の木々の上にて自由落下が始まる間際に事前に浮かべていた動きを実行する。


「できた」


 その結果――セリニは枝の上に片手での倒立しながらの着地に成功した。


「――」


 しかしその体勢を継続するつもりは微塵もないセリニは腕に力を込めると倒立の状態のまま跳躍――空中で身体の方向を元に戻すとそのまま再度着地した後に枝の上に座り込んだ。


「やっぱり……できた」


 曲芸()みた動きをしたセリニであったがそこに驚きはない。

 自分自身の動きである事も加味しているが一番の理由は出来て当然――そんな自分らしくもない自信があった故だった。


こっち(VRMMO)だと……できると思える」


 そう口にしながらセリニの視線は巨岩に向いていた。


 ――ここからあそこまで跳べる。

 今立ち上がり、力を込めて跳躍すれば巨岩に再び立つ事も容易いとセリニは思えた。


 ――現実では絶対に無理……だよね。

 しかしそれはゲームだけの話であるとセリニは断ずるが何故か違和感があった。

 

 ――けど……向こう(現実)だと出来ないと直ぐに分かる。

 ツインファンタジーワールドを終了した月影はちょっとした物を買うために外に出た。

 その際に街路樹を見かけてゲームなら跳んで乗れると考えた。だが――それから先はプラスに考えられなかった。

 そんな動きをすれば怪我をすると想像して背筋が凍りそうになった。

 然れども時間が経ち幾分か調子を取り戻した後にツインファンタジーワールドに入ると同時にそんな思考は元から無かったかのように消え去っている。

 それをセリニは強く自覚していた。


 ――現実でもゲームでも……同じわたしの筈なのに。

 それが重石となって今の心境になっていたセリニ。


「肉体含めて……別人みたい……」


 VRMMOの中である故に現実とは異なり機敏に動く電子の身体――それはゲーム故だとセリニは思った。

 一度現実に戻ったあとにゴブリンと戦闘した事でそう考えたが違和感は一切無い――だが現実に戻り、実体の身体を動かした月影が抱いた感触にも違和感を感じる事も無く普通に動けた。だが現実が本来の世界である為にそれは至極当然だ。


「何でなんだろう」


 しかし心と身体の感覚が現実とVRMMOの間で乖離していながらも一切気にならない、それを察した事で板挟みな心持ちとなったセリニの脳裏にある人物が浮かび上がった。


 ――爽陽さやちゃんが何か言ってなかったかな。

 自身よりもVRMMOの経験が豊富な爽陽であれば今の心境に対する答えを既に話していると考えたセリニは目を閉じて二人の間で交わした会話の内容を記憶の奥底から引き上げる。

 すると脳裏に映像が現れ――


『月影が始めた時はどんな感想になるのか解らないけど』


『あたしが初めてVRMMOを体験した時に身体と心が別物すぎて異世界に来たと思っちゃった』


『聞いたら笑っちゃうかもしれないけど記憶喪失状態で始めたら、VR空間が現実だときっと勘違いするね、きっと!』


 月影にとって今の心境と関係してそう会話が爽陽の声で続けざまに再生された。


 ――身体と心が別物。 

 ――それに異世界。

 特に印象に残った部分を反芻するセリニ。すると次いでとばかりに初めて内容が耳に入った時の感想を思い出せた。


「あの時はあり得ないと……思ったね」


「けど……今は分かる」


 ゲームはゲームで現実は現実と区別していた月影からすると爽陽が語った内容は想像できないものであった――しかしながらセリニとしてツインファンタジーワールドを開始して一度現実に戻った事で完全ではないがその心境がどんなものなのか理解する事が出来た。


 ――戻ったら……謝らないと駄目だよね……。

 そして同時に爽陽が話していた内容を信じていなかった。その事を話す事をセリニは決めた。


 ――だけど……現実とは別物になるのはなんなんだろう?

 しかしVR空間での感覚に対する答えは爽陽からも得られなかったセリニは少し考えると――


 ――爽陽ちゃんも同じ感覚を抱いているよね。

 今となって共感できる事を既に話していたのならば――多少なりとも自身と同じ心境になっていたとセリニは想像する。


 ――きっと……他の人も。

 ――この感覚に悩むのは……わたしだけじゃない。

 自分一人だけが今の感覚に囚われているわけではない。

 そう考えるとわずらいに引っ張られ続ける必要は無いとセリニは思えるようになったと同時に肩が軽くなった。

 しかし未だに心の中に本能的な何かが燻っている事を感じていたセリニは別の事を具体性を加えた上で考えて上書きできないかこころみた。


 ――あの事を聞いた時は……驚いた。

 真っ先に浮かび上がったのは現実に戻った後に爽陽から連絡が来ている事に気づいて返した後に色々と会話した際に月影は――


 ――LODCさんを知っていますかって……わたしは聞いた。

 自身が体験したオンラインを開始した時に起きたこと――そしてアルーセから聞いた話から爽陽が始めた時に発生するイベントの様な何かに対しての感想を尋ねた。

 すると月影にとって想定外な解が飛んできた。


「そしたら……あの空間に行かないでオンラインが始まった――そんな話は初耳って返ってきたんだよね」


 それが表示された時は冗談かと思えた月影であったがその後に自身がどのようにしてLODCと会遇したのか尋ねてきた故に爽陽は本当に知らないと判断した。


 ――どんなことをネットで調べたんだろう。

 その後「検索する」と話して数分の空白が経った後に爽陽からLODCはネットに繋がるあらゆる媒体で噂となっていると連絡が届いた。


 ――アルーセさんが言っていた事も本当だった。

 そしてLODCと遭遇せずにオフラインからオンラインに移行したプレイヤーは殆どいない事も爽陽経由で再び聞く事となった。


 ――爽陽ちゃんが数少ない一人だった。

 LODCと遭遇した事がない人物はネットの海を彷徨う都市伝説――そんな説明を受けた数分後に自身の友達が該当者であった。

 その事実を改めて確認すると再び驚きと感慨深さを感じるセリニ。


 ――けど……秘密にしないと……駄目。

 ――誰にも言ったら駄目なんだよね。

 だがしかしその事に関しては他言無用の秘密にしてほしいと爽陽から頼まれていた。

 その理由を言わなかったが――言われずとも月影はその理由を予想できた。


 ――目立つから……それに色々と聞かれるから

 ――だよね……きっと。

 話を聞いたセリニでさえオンラインを始めた矢先に強烈な出会いをした事もあり、声だけの印象ながらも今も心の内に残り続けているLODCと会わずに爽陽はオンラインを始められたのか? そんな疑問を身体を過ぎ去った。

 その情報を多数の人が知ったらどんな行動を起こすのか――その光景の想像は難しいものではなかった故にその約束は守ると強く誓っていた。


 ――それにしても……秘密……。

 改めて爽陽の身に起きていた事を思い返したセリニは――ある理由から少しだけ嬉しい気持ちを抱いていた。


 ――二人だけの秘密を……共有する。

 ――これが友達……なのかな。

 高校一年生になって初めてできた関係である為にどう定義すればいいのか一切解らないセリニはそんな事を考え始めた――だがちょっと思案すると爽陽に対する大前提がおかしいと気づけた。


 ――なに……考えているんだろう……わたし。

 ――爽陽ちゃんは……きっと他の人に言っているよね。

 二人だけの秘密であると数秒前まで考えていたセリニであったが秘密と語っていた本人が他の人に言っていない――それを裏付ける証拠を何処にも存在していなかった。


 ――きっと……そうだね。

 その蓋然性に気づいた事で感情が後ろ側に傾きそうにセリニ。


 ――だけど……わたしに対して秘密にして欲しいと話してくれたのは本当だよね。

 だがそれでも一部分に関しては紛れない事実だと認識できたセリニはその感情を振り払った。


「信じよう!」


 そう口にした刹那――自身の声に紛れて背後から別の音が現れたとセリニは察する。


「!」


 即時に立ち上がったセリニは弓矢を出現させながら背後に目を配る。


 ――何もいない。

 遙か上空は夜の闇に包まれている。しかし月の輝きと木々から放たれる光によって大地は照らされており、その明暗は昼と大差ない。

 故に闇に隠れ潜んでいる可能性は無いとセリニは考えた。


 ――気のせい?

 ――だけど音がしたような。

 夜の静寂が味方をしたのか疑いを持たないセリニは視界の中の状況からある考えが浮かび上がる。


 ――木の裏に隠れている。

 木々の太さは区々(まちまち)であるが何かが隠れるには申し分ないとセリニは思えた。


 ――それとも……もういない?

 そもそも音を鳴ったのはこの場から離れる為。

 その可能性も頭に浮かび上がったセリニの耳には微かな音が背後から届いた――並行して何らかの気配を察知する。


 ――いる。

 心の内で呟きながら背後を見るセリニだがその傍ら。

 

 ――こっちだと気配に気づける。

 現実とは異なる感覚をあっさりと受け入れている自身は何だろう? と思ったセリニだが現れたの者の視認が先であった。


 ――ゴブリン。

 広場に現れたのはモンスター。

 それは想定の範囲内であったセリニであったが――少しだけ驚きを感じていた。


 ――短剣の……。

 現れたゴブリンはフードで全身を隠すタイプであった。


 ――わたしには……気づいていない。

 何かを探している訳でなく彷徨うろついていた。


 ――奇襲……できる。

 チャンスだと気づいたセリニはその場で留まると――ゴブリンが真下に到着したその瞬間――


 ――弓で。

 僅かに動いて枝から落下――それと同時に振り下ろした弓がゴブリンに直撃。


「――」


 着地と同時に確認したセリニはそのまま蹴りを放つ――だがゴブリンにダメージを与えたのは足先より出現した短剣であった。


 ――次で。

 斬撃音が耳に届いたセリニは体勢を立て直しながら弓矢を構え――視界にゴブリンが入ると同時に放つ。


「倒せた」


 矢が突き刺さり、吹っ飛ぶと同時に消滅したゴブリンを一瞥したセリニは続いて足を見た。


「うまくできた」


 その先にはアルーセから貰った短剣が仕込まれていた。


 ――問題なく使える。

 VRMMOに潜った直後から現実で不可能な動作を手足の如く扱える。

 そう思ったセリニだが先までと違い感情に困惑は生じない――あるのは純粋な面白さであった。


 ――楽しんだ方がいいよね……きっと。

 仕込み短剣を再び使って攻撃した瞬間にセリニが感じたのは得難い感覚であり、現実では絶対に体感できないと断言できた。


「うん……そうしよう」


 身体を覆う言葉にしがたい奇妙な感覚よりも――セリニは明確に分かる楽しさに身を委ねる事とした。

 

「それにしても」


 心の整頓が付くと同時に先にゴブリンを倒した時の動きを思い返した。


 ――奇襲攻撃……。

 自身が散々された側な事もあり、意識外からの一撃の厄介さは既に身に染みているセリニだが自身がする側になると別の側面も感じていた。


 ――隠れて攻撃するのも……面白いね。

 ――HPが少ないわたしとも……相性がいいよね。

 相手に一切反撃の隙を与えず倒せた事をとても楽しいと思えていた。


 ――状況によって有効なのは覚えておこう。

 今後のゲームで役に立つと思いながらセリニは他の事に目を向ける。


 ――次にするのは……。

 悩みが晴れて新たな事を覚えて気分が良くなり、この場から動く気となったセリニが考え始めた。


 ――レベルを……1《じゅ》……。

 具体的な内容が脳裏に姿を見せたがその刹那――その身に届くのは何かが弾ける音であった。


「!」


 周囲を警戒をしていた為に気づいたセリニは周囲に目を向ける。

 しかし周りの光景に変化は起きていない。


 ――雨みたいな音だったけど。

 ――気のせい?

 自身が想像できる範囲の想像をしたセリニであったが場に変化は起きない。

 だが――突如背後から爆発音が鳴り響いた。


「!」


 警戒していない場所で発生した故に反射的に振り返りそうになったセリニだが寸前にその動きを留めた。


 ――近くじゃない。

 爆発音はそこまで大きくなかった――自身の意思で距離を縮めなければ対岸の火事で済むのがセリニの見解であった。

  

「けど……急いで移動した方がいいね」


 しかし戦いの炎が自身に降りかかる可能性を考えたセリニは動くことにした。


 ――レベルを10にするには……できれば誰にいない場所で。

 これからセリニがするのはレベル上げであった。

 それをする際の効率を上げるために他のプレイヤーが現れる場所を避けるべき――爽陽から言われたオンラインゲームで役に立つ知識の一つであった。

 この場から移動すると決めたセリニは周囲に目を向ける。


「――こっちかな」


 レベル上げが終わった後の目的地も倒すべき目標も既に決まっているがそれがどの場所にあるかまだ分からない。

 故にセリニはアバウトに移動先を決める。


 ――ボスモンスターに対抗できるように……。

 ――素早く動けるようにならないと!


「いまのわたしの……最速で!!」


 今後の戦いのための心構えを決心した色合いで口にするのと並行してその場から跳躍したセリニは――瞬く間に広場から姿を消し去った。


 場に人影が失せた事で場に残るのは静寂――ではない。

 銀髪の少女の叫びが呼び水となって一体のルプス。

 そして大型の黄緑色の人型モンスターホブゴブリンが姿を現わすとその存在を知らしめるかの様が雄叫びが森林に響き渡った。

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