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第56話 銀髪弓使いはログインから

 空の色はすっかりと黒に染まっていた。それは今の時間が夜の流れに沿っている事を示唆している。漂うは月の形状は三日月――降り注ぐ月光は地を照らす。

 その一部分に位置する巨岩を中心とした広場。

 その地点は静寂に満たされ停滞していた。

 だが突如現れた粒子がある形になると流動が始まる――その合図は心配の色彩で塗られた少女の声だ。

 

「二度目のログインは……ちゃんとできたよね」


 白銀色の髪に二人静の衣服を身に纏う少女セリニは現れたと同時におどおどと周囲に目を向けていた。


 ――選択肢は二つあったけど。

 用事を済ませた後にツインファンタジーワールドを意気揚々と再開したセリニであったが始めようとした際に町に戻る選択が現れた。

 予想外であり驚いた拍子にパネルを誤って操作してしまった結果どちらの選択を選んだのか解らないままにゲームが開始されてしまった。


「大丈夫みたい」


 しかし今いる場所は目的地である森の中であると判断した事でセリニは一気に落ち着きを取り戻した。


「それにしても……」


 思考が正常になった事で周囲を俯瞰して見られるようになったセリニはある感情を抱くと即時に口にする。


「綺麗」


 ログアウト前と同じ場所に立ち、未だに移動していない。

 故に代わり映えしない光景だと考えていたセリニだが――周囲に立ち並ぶものに視界を向けると明確な変化に気づいてそれは覆されていた。


「キラキラしてる」


 相も変わらずに囲う様に生えている木々――その中の数本の内側から白い輝きが放たれ周囲を照らしている。


 ――夜だけど……昼と同じくらい見える。

 輝く木によって夜の闇が緩和されており、暗闇によってゲームでの動きが阻害されないと思えた。

 その景色は街灯に照らされる町を連想させるものであったが――セリニが感じたのはそれだけではない。


 ――それに幻想的……

 夜の闇と独特な光の源が織り成すその光景は現実とは乖離しており、セリニは心を奪われていた。


「アルーセさんが言っていたとおり……ファンタジーな光景」


 数時間前にフレンドになったプレイヤーが話していた言葉がそのまま形になった光景であると納得していたセリニの耳に唐突――それは違った。


 ――夜でも現れるよね。

 響くのは草が揺れる音と歩行音――その正体は狼型モンスタールプスであり、セリニの真正面に現れると――跳びかかった。


「……」


 モンスターに強襲されたセリニであるがここが戦闘可能なフィールドである以上に驚きはない――その両手には既に弓と矢が握られている。

 手早く弓矢を構えて近づくヴォルフに向けたその刹那――


「【弓術きゅうじゅつ拡射かくしゃ】」

 

 静かな色合いでセリニが紡ぐスキルの名。

 それに呼応するように放たれた矢は輝きを放つと勢いをそのままに無数に分裂――天から降る雨の如くヴォルフの肉体に衝突した。

 

 ――まだ!

 追撃を加える事を事前に決めていたセリニは矢が出現すると同時に番えて撃ったが――


「倒せた」


 弓術・拡射を浴びたヴォルフはHPが尽きた事で既に消失している。

 標的を失った矢は木に突き刺さった後に消滅した。


 ――ゴブリンと一緒のは一撃で倒せたけど……単独の狼は……今迄一撃で……。

 想定していない結果であった故に驚きを感じたセリニだが少し考えるとおのずとその理由を察した。


「弓を……新調したんだ」


 外見こそ始まりの弓矢であるがその中身はゴブリンの弓矢である。

 武器によって攻撃力が上がった故の結果。単調であるがもう一つの理由があるとセリニは思った。


 ――今のスキルは当てた対象が一体なら二倍のダメージになる……だった。

 レベルが5になってステータスポイントを割り当て終えたと同時にレベルが5で弓矢を武器に選んだ事を条件にセリニが習得していた武器スキルの一つ――弓術・拡射。

 その効果は射程距離が四分の一になる代わりに前方広範囲を攻撃する。

 ダメージの量は一体なら二倍、二体なら一倍。三体なら四分の二。四体以降は四分の一と攻撃が当たった対象の数で変化する。

 

「面白いね」


 単体の敵に初めて弓術・拡散を当てたセリニは楽しいそうな声色で言った。

 だか気にするべき点があった。


 ――けど……やっぱり……使った時……身体が硬直した。

 以前から感じていたスキルを使用したときの感覚を思い出したセリニ。

 

 ――攻撃を受けるステータスなら問題ないかもしれないけど。

 ――わたしのステータスだとそれは無理。

 自身にとって停滞する刹那は致命的であると誰に言われる事も無く把握したセリニ。


「カバーする手段はあるかもしれないけど注意しないと」


 今後も気をつける事を決めたセリニは弓矢を消してその感触が身体を伝った瞬間――


「それにしても」


 VR空間から現実に戻り――現実からVR空間に潜った事で気づいたある感覚を強く実感した。


 ――現実……普通の場所……どっちかな。

 今迄生活していた世界のことをどう言葉として表わせばいいのか分からずに――独りで困惑するセリニ。


 ――とにかく……戻った時は忘れた感覚なのに普通に出来た。

 VR空間では息を吸うと同様に簡単に可能であったが現実では一切できない――当然のことながらもその差が何なのかとセリニは感じており、総身が見えないもやもやな霧のような何か包まれている心境であった。


「モンスターに襲われる可能性が低い場所は……」


 その心境の解決を試みべく動こうとしたセリニだがその矢先――空間を揺らす音が右耳に届いた。


「……」

 

 音が鳴った方向に立つのは両手で持つ大型の斧を携えたゴブリン――セリニの視界に入ると同時に跳躍する。


 ――手早く終わらせよう。

 見たと同時に瞬時に倒す事を決めたセリニも動いており、巨岩とは正反対な方向に少し跳ぶ、宙にいる僅かな間に弓矢を取り出して着地したと同時に一矢を撃った後に構え直した刹那――落ち着いた声でスキル名を口にする。


「【暗影流出・黒き浸透しんとう】」


 スキルの使用を宣言すると髪飾りから溢れる黒き影。

 それは矢に集い瞬く間に黒に塗り替えると矢の主であるセリニが解き放つ、その先には大斧を振り下ろすゴブリン。

 攻撃に夢中で一矢を浴びながらも自身が攻撃されている事実に気づくのに遅れたその身体に影で覆われた矢が直撃した刹那――衝撃音と共に黒き影がゴブリンを襲いその身は霧散する。


 ――黒き浸透しんとう

 ――直接攻撃でも良いけど……矢でも良いね。

 その光景を見ながらそんな感想を呟いたセリニがいるのは空中であった。

 何故そんな所にいるのか――その理由を知るのは本人だけであった。

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