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第55話 銀髪弓使いはログアウトから

「え……ログアウトは……どうやって」


 パネルにはログアウトの文字が無い――どうしてなのかと困惑しそうになったセリニの脳裏に――


『今迄お疲れ様でした――貴女はログアウト可能となりました――ログアウトしますか?』


 突如幼い少女の声が全身を覆うように響き渡った。

 それと同時に目の前に『はい』と『いいえ』の選択肢がセリニの前に現れたが――


「――――!」


 得体の知れない存在から一方的に言葉を贈られた事で恐怖の感情に支配されたセリニは物を蹴散らすかのような感覚で選択肢をかき消した。


 ――な……なに……。

 よく分からない事が起きて、その感覚から未だに覚めないセリニに――


「少し悪趣味よね」


 新たな声が届いた。


「!!」


 驚愕したセリニはそこから離れる為に反射的に跳躍して巨岩の上に着地した。


 ――今の声は……アルーセさん。

 だが数秒後に今聞こえた声は聞いた事がある人物によるものだと気づいたセリニは地面に戻ると謝罪をした。


「す……すみません」

 

「わたしも配慮していなかったわ……いきなり知らない声が届いて驚いていた時に」


 自身の事情を一切話していないのにそれを汲み取る様な事をアルーセは口にする。

 それに気づいたセリニは急激に感情を揺さぶられた事で未だに鳴る心臓の鼓動を感じながら今の疑問を向ける。


「もしかして……今聞こえた声が聞こえたんですか?」


 自身だけに向けられた音ではない可能性を考えたセリニ。


「そうじゃないわ」


 しかしそれは否定される。


「初めてログアウトしようとすると起る……イベントみたいなものよ」


「イベ……イベントですか」


「そうよ、もうパネルからログアウトできるわ」


 と、言われたセリニはパネルを目の前に呼び出した――するとアルーセが明かした事が本当であった事が証明される。


「……ありますね」


 それを聞いたアルーセは「でしょ」と言ったが何でそんな事になっているのか疑念を抱いたセリニは言葉を返した。


「あの……どうして……最初から普通にログアウトできないのでしょうか」


 ――あ……聞いても……。

 しかしアルーセが詳しく知らない可能性があった事。

 それを言葉にした直後に気づくと同時に身体の震えをセリニは感じる――だが。


「不具合みたいよ」


 思案する様子も無いままにアルーセはあっさりとセリニの疑問に応じる。


 ――分かるんですね。

 それを聞いた事によって心の内側で安心したセリニは不具合に関して詳しく聞いてみた。


「あの……今回の不具合はどういう事ですか?」 


「それがまたベータテストまで遡るのよ」


 肩を竦めながらアルーセは言う。


「そこまで……ですか」


 問題の根の深さを知ったセリニは黙々とその話を聞く事にした。


「その時はパネルにログアウトの文字が今みたいに表示されなかったそうよ」


「――――えっ」


 さらりとアルーセが明かした当時の状況。

 それはVRMMO初心者であるセリニから見ても重大な欠陥であると断定できるもの――耳に届いた少女は目を見開いた。


「だ……大丈夫だったんですか……それ」


 驚きの色彩を伴いながら即時に出たセリニの疑問にアルーセは直ぐに応じた。


「特に問題は無いわ」


 その声色ははっきりしていてとても落ち着いていた。


「そもそもソフト関係なしにパネルを使わなくてもゲーム機の電源を切るみたいにいつでも現実に戻る事ができるわ」


「そ……そんな事ができるんですか」


「可能よ、ログアウトしたいと思うだけで出来るから今試してみたら?」


 そう言われたセリニは好奇心が沸いたが――


「また声を……」


 いきなり聞こえた声に対する驚愕が消えることも無く今も頭の中に住み着いて離れないセリニは再びその声と対峙するかもしれないと怯えていた。


「声なら関係ないわ」


 そんなセリニの心配の種にアルーセは触れる。


「貴女に声が届いたのはツインファンタジーワールドで起る事、今話したのはゲームハードの機能だけで終わるわ」


「そう……ですか」


 色々と話していたが殆どが同様によって頭に入らなかったセリニはアルーセが言った事をとにかく信じることにすると早速思脳裏に言葉を浮かべる。


 ――ログアウトしたい……です。

 思考した瞬間――セリニの目の前にログアウトをするかどうかの選択肢が現れる。


 ――これって……。

 その選択肢の雰囲気に覚えがあったセリニは記憶の中を覗き込むと既視感の正体に気づけた。


 ――初めてオンラインに繋げたときの。

 ツインファンタジーワールドを始める直前の時に起きた出来事をスキップする際に表示される場面と同じであった。


「現れたでしょ」


「はい……これならなんとかなりそうですね」


 VRMMOを始めたばかりの自身がやれるのであれば全てのプレイヤーが可能なことなのだろうと納得する。

 しかしそれでもセリニは嫌な感覚を拭えなかった。


「ですけど……ログアウト可能な事が目に見えないと不安になりますね」


 そんなセリニにアルーセは同意の言葉を向ける。


「そうね、ツインファンタジーワールドと関係ないけど……わたしもVRMMOを始めた当初はちゃんとログアウト可能なのか心配したわ」


「その気持ち……分かります」


 VRMMOを楽しみたい気持ちが既に大きくまさっているセリニは気にならないがその存在を知った当初は全く同じ事を考えていた。


「だけどここはゲームだけど現実よ、フィクションはフィクションよ」


 アルーセが言ったVRMMOに対する不安感の根幹はセリニと同様であった。


「そうですね」


 故に共感の言葉を直ぐにはっきりと言えたセリニだが別箇では疑問もあった。


 ――だけど……あの女の子の声。

 ――なんだろう……。

 パネルを見ながらログアウトのパネルを探している時に耳にした少女の声の正体が未だに分からないセリニは知っていそうなアルーセに聞いた。


「あの……パネルを開いた時に聞こえた声は……なんなんですか?」


「それはツインファンタジーワールドが発売してから始まったわ、理由はログアウトが可能になったのを知らせる為よ」


「知らせる」


 耳に入った言葉を口にすると同時に突如聞こえた声が話した内容を思い返したセリニ。


「ログアウト可能になったと……言ってましたね」


「そうでしょ? けどプレイヤー側からは不評なのよね」


 唐突な事を話し始めたアルーセであったがその内容の意味をセリニは瞬く間に理解できた。


「いきなり()()()()()が聞こえる……からですか」


 先程の経験は歩いていたら背後からいきなり見知らぬ人物が話しかけてきたものと同意であるとセリニは感じており、良い経験とは言えないものであった。


「そうよ、サプライズが好きな人からは好評みたいだけど、不評な方が多いわ。だからなのか、準備が整ったのかまでは分からないけど、次のアップデートで完全に廃止するみたいで他のゲームと同じく最初からパネルでログアウトが可能になるみたいよ」


「廃止に……なるんですね」


 言われた事を返したセリニであったがそれを聞いた後に再び話したアルーセの口から出たのは意外な言葉であった。


「けど知らない声なのかはプレイヤー個人によって異なるわ」


「え! そうなんですか」


 それが届いたセリニは驚くと自身の見解を話した。


「オンラインの世界に接続したときに聞こえた声なのかと」


 頭の中に声が響き渡る経験をうにしていたセリニはそれから派生したものかと思っていた。


「それと今回は違うわ」

 

 セリニの言い分を詳細を聞く事ないままに理解した様子のアルーセは言い切るとそのまま声の主の正体を明かした。


「聞こえたのはツインファンタジーワールドのマスコットのどれかよ」


「マスコットがいたんですね」


「そうよ、一目だと解りにくいけどゲームパッケージにも少し写っているわ」


 ――戻ったら……確認してみます。

 ゲーム内容ばかり目が向いており、詳しく見ていなかったセリニは現実に戻ったら目を向けると決める。


「ゲームにも密接に関わっているわ」


「そうなん……ですか?」


 ゲームの中でマスコットに該当しそうなものを見ていないセリニは意外だと思えた。


「ゲームのpvでも登場しているし、ヘイス・ピュルゴスでは困ったときの案内役としても登場するわ、メガロスクエストの進行役としても登場するみたい」


「色々としているんですね」


 セリニが聞いた感想を聞いた後にマスコットに関する話を止めたアルーセが次に口にしたのは――ツインファンタジーワールドの外側であった。


「それにしてもセリニちゃんもオンラインを始めた時に声……LODCちゃんの声が聞こえる場面に行ったのね」


 NEW WORLD2を初めてオンラインと繋げたときに一方的に話しかけてきた存在をアルーセが言及するとは想定の埒外であり、とても驚いた表情を見せたセリニは絶句した。


「――そう……ですけど……それがどうしたんですか?」


 一切の流れがよく解らないセリニであったがとりあえず相手の話に合わせるとアルーセはその理由を語り始めた。


「この話は知ってる? LODCちゃんと一切出会うことないままにオンラインと接続をした人がいることを」


 ――そもそもわたし……。

 ――LODCさんを知ったのは今日です。

 胸の内で知ってから日が浅い――では無く数時間しか経っていない為に数秒だけどう言葉を返せばいいのか困ったセリニ。


「初めて知りました」


 しかし初耳なのは間違い無いためにそうアルーセに語った。


「そうなのね」


 するとアルーセは納得した様子で頷いた。


「あの……LODCさんと会うことないって……どういう事ですか?」


 自身に向けた言葉の意味が気になったセリニはアルーセに聞き返した。


「貴女も体験したと思うけど、オンラインに繋がったと同時に身体を動かせない空間に入ったでしょ?」


「そうですね」


「あの空間に行かないでオンラインモードになった人がいるみたいなのよ」


「そういった……人もいるんですね」


 オンラインに向かう為の入り口のような印象があった為に知ったセリニは軽く驚いた。


「正確にはいるらしいのよね」


「らしい……ですか?」


「そうよ、インターネット上で変な空間に行く事なくすんなりオンラインモードが始まったってコメントを見かけるけど、わたしが知っている範囲ではそれを直接口にしている人はいないわ」


「つまり……噂でしかないんですね」


「ええ、都市伝説の域をでないわ」


 ――そんな噂……あるんだ。

 ――爽陽ちゃんにも聞いてみようかな。

 現実に戻った後に話したい事が増えたセリニは楽しい気持ちとなって心に熱が入り始めた。


「ログアウトしたら」


 故に心の中で済ませようとした言葉の羅列がセリニの意図を尻目に表層に現れてしまう。

 それが耳にしたアルーセは反応を見せた。


「そういえばあなたはログアウトするところだった、引き留めてごめんね」


 そう言われたセリニだが不都合はなかった。


「いえ……色々と聞けて……良かったです」


 ログアウトが一時的に中断された事が要因となって様々な知る機会となった為にセリニは笑みを浮かべる。


「では今度こそ本当に失礼します」


「ええ、明日連絡するか、会いに行くわ」


 アルーセの声を聞きながらパネルのログアウトの項目に触れたセリニの身体は光となってその場から消え去った。


「街にどうやって戻るべきか」


 セリニのログアウトを見届けたアルーセはこれからの事を考え始める。


「領域転移は……一時間経っていないみたいね」


 長距離を移動することに適したスキルを口にしたアルーセだが、そもそもそのスキルを街に戻るときに使うのは勿体ない事を察する。


「一度ログアウトとすればいいだけだったわ」


 ツインファンタジーワールドではログインしたときに二つの選択肢が現れる。一つはログアウトした際にいた場所に戻る。もう一つはログアウトした場所から最も近い街に移動するである。

 街に戻るログイン方法を使用すると進行中のクエストが最初からやり直しになる。馬車を使用しているときであれば、中身が全て失う等のデメリットがあるが今のアルーセはどちらの状態でもない為に問題は無かった。


「素材を採取せずにここまで転移したから……採取しながら帰るのもありね」


 素材になるアイテムはどれだけあっても困ることはない為に寄り道感覚で歩くことを決めたアルーセの耳に何かが揺れる音が届くとその方向に身体を向ける。


「当然現れる」


 アルーセの前に立つのは弓矢を持つゴブリンであった。


「少し前のわたしみたいに倒されて戻る手もあるけど」


 セリニと本格的に関わる前に起きた出来事を自虐的に語るアルーセ――しかし口にした事を再現する気はないと壺を呼び出した。

 それを戦いの合図にするかの如くゴブリンは矢を放つ。


「【秘術ひじゅつ】」


 対してスキルで迎え撃とうとしたアルーセ――されどもそれは途中で停滞する。


「!」


 理由はあった――宙を飛ぶ矢が自身に当たらないと確信した為だ。


 ――な!

 同時にアルーセ自身の目を疑った。

 矢が届かなかった理由は矢が途中で折れて消滅した為。

 その方法は突如横から現れた矢が自身に向かう矢と衝突したからだ。


「!」


 驚きが冷めないアルーセだが場の変化は続いていた。

 第二の矢を番えていたゴブリンであったが突如現れた鎧を纏った黒馬によって踏み潰されて消滅する。


「……」


 その黒馬は単独ではない。プレイヤーが跨がっている。

 その身は漆黒の重鎧に包まれている。その手には長杖が握られている


「いきなりね」


 以前からVRMMOを遊んでいた為に戦闘可能なフィールド内で唐突に他のプレイヤーと遭遇する経験はそれなりにあったアルーセであったが、記憶に刻まれるような衝撃的な出会いは昨日までなかった。 


 ――セリニちゃんも……そうだったのに。

 しかし今日になって単独で複数のモンスターを蹴散らす銀髪の少女セリニを突如目撃したアルーセはその姿が脳裏に刻まれていた。

 そして同時にそのような出来事は簡単には遭遇できないと思っていたが――

 

 ――この人も。

 夕暮れの帳を突き破る様に颯爽とゴブリンを踏み潰しながら現れた黒い馬に乗る黒騎士。

 その風景はセリニと並んで脳裏に刻まれる事となった――その傍ら、黒い鎧を着込んだ者は頭を掻きながらアルーセに接近していた。


「あ――――その」


 甲高い男性の声が場に響いた。その色合いは戸惑いやきまりが悪いものに染まっている――だが何かを決意する手の動きを止めると同時に余裕がある色彩が含まれた言葉をアルーセに向けた。


「余計なお世話だったかい?」

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