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第52話 銀髪弓使いは壺から

「倒せば領域転移が手に入るボスモンスターはパーティーの数が増えると逆に厄介になる。なんて言っている人もいるわ」


 アルーセの声が身体を通り過ぎたセリニはその先にある答えを察して口にする。


「それらが理由で……領域転移の入手方法をへん……追加したのですか?」


「ええ、沢山のプレイヤーの声を受けた結果、ベータテスト版の途中から領域転移の入手手段が追加されたらしいわ」


 新たな方法は既に教えられているために聞く必要性は無かった。

 しかし先から気になる点があったセリニは聞いた。


「あの……変更ではなくて……追加なんですよ」


 それはアルーセが領域転移の新たな入手方法を口にする時の言い回しあり、セリニはそこにある可能性を見いだしていた。


「なら……今もそのボスモンスターを倒す事でも領域転移を入手できるんですか?」


 セリニのその問いにアルーセは明るい声色で反応する。


「可能よ、あくまで別の方法が追加されただけで製品版でもボスモンスターを倒すと同じように入手できるわ」


「それは……よかったです」


 強敵と戦える機会を失ったわけでない事を知ったセリニは楽しい気持ちとなったが――それと並行してある一抹の疑問が脳裏に出現した。


「あの……ならヘイス・ピュルゴスで領域転移を使えるようになった後にそのボスモンスターを倒したらどうなるんですか?」


 強いモンスター戦闘できることに価値があると思えたセリニだがそれはそれとして気になる部分であった。


「ちゃんと報酬があるわ」


「あるんですね」


「そのボス固有の報酬としてステータス関連のスキルを一つ選択できるみたいよ、どんな風に手に入るのかまで知らないけど」


 その話を聞いたセリニはアルーセの現状に関して察する事となった。


「アルーセさんは……まだボスモンスターを攻略していないんですね」


「そうよ、手に入るスキルには興味はあるけど、そもそもわたしは生産がメインだから」


「あ……そうでしたね」


「行くとしたらわたしを含めて三人は必要だと思うわ」


 ――三人……揃える自信は……無い。

 そんな話を耳にしたがどんな基準で人数を決めたのか分からなかった為に言葉を介さずに心の内で言葉を出しながらも表面上は黙々と聞いていたセリニにアルーセは別の事を話し始めた。


「ところでセリ二ちゃんは領域転移はボスモンスターを倒して入手するつもりなのよね?」


「え……」


 アルーセが話したそれは心の内で決めていた事を口にはしていない為にセリニは驚いた。

 

 ――戦えるかどうか……聞いたから?

 しかし自身が口にした言葉を反芻はんすうすると思い当たる節が浮かび上がったセリニは納得する事となった。


「はい! そのつもりです」


 故にセリニはアルーセの言葉を肯定した。


「なら丁度いいわね」


「丁度……いい……ですか?」


 相手の言葉を復唱しながらも話の意図が読めないセリニにアルーセは自身の意図を明かした。


「この近辺に倒すと領域転移とスキル一つを落とすボスモンスターが潜む洞窟があるのよ」


「そ……そうなんですか!」


 戦いたいと思っていたモンスターが近くにいる事を知ったセリニは底意から嬉しく思えたが――同時に不安が現れた。


 ――まだわたしはレベル8。

 ――一桁のわたし……そもそも倒せるの?

 ――他の人が……苦戦しているのに。

 ――そんなモンスターと……戦っていいのかな。

 他のプレイヤーが苦戦する程のモンスターである事を既に知らされていた故に気の赴ままに挑んで大丈夫なのかとセリニは思い――それは表情に出ている。

 故にアルーセからはそれを踏まえて言葉が出てきた。


「ベータテストとは状況が違うから多分いけるわ」 


「状況……ですか?」


「そう、ベータテストの時は街の近くの洞窟に潜んでいたのよ、だからスキルが殆ど無い状態でも挑めたのよ」


 今いる地点は川を越えた先であり、洞窟の場所が全く異なる事にセリニは即時に気づいた。


「気軽に挑めるから、苦戦の声が多かったんじゃないかしら」


 ――それは……そうですね。

 場違いな強さな敵に適性外なレベルの時に勝負を挑んで倒される。

 ゲームの中でそのような経験を何度かした事があるセリニはその光景が脳裏を過り理解できた。


「それに一回で倒せたプレイヤーも少数ながらいたみたいよ」


「いるんですね」


「だからスキルを既に持っていて、それを使いこなすあなたならクリア可能だと思うわよ」


「わたしなら……倒せる」


 諭されるように言われた事でセリニは気持ちが落ち着きを取り戻す――そして自身を見つめ直した。


 ――そうだよね……戦わないと……どうなるのか分からない。

 ――考えるなら……倒す方法……だよね。

 後ろ向きな考えではなく――前向きに考えようとセリニは決めた。


「とりあえず……挑んでみます」


 これからする事をアルーセに表明したセリニは言葉を重ねる。


「あの……そのモンスターがいる洞窟はどの方角に……」


 思考の末に大まかな位置だけを聞いて後は自力で探そうと考えたセリニにアルーセは――


「その事で役に立つスキルがあるのよね」


 心底楽しそうな様子で言葉を返した。


「ス……スキル……」


 今の話の流れからゲーム要素が現れるとは想定していなかったセリニは面を食らう。


 ――どんな……スキルなんだろう。

 ――見てみたい。

 しかしその要素が織り成す事で起きる事柄にセリニは興味をそそられた。


「その……お願いしていいでしょうか」


 故にその言葉に甘えることにした。

 それが届いたアルーセは笑みで応じる。


「じゃあやるわね」


 そう言いながらアルーセはいきなり歩み始める。その速度はゆっくりであった。


「?」


 どんなスキルを使用するのか知らないセリニは疑問を抱く最中にアルーセは歩みを止める。


「ここが一番安全」


 状況と関わり無さそうな事を言いながら止まった地点は今二人がいる広場の中心点にそびえ立つ巨岩の前であった。


 ――何を?

 状況に流されていたセリニは何をどうすればいいのか考え始めたその矢先に――巨岩を背にしたアルーセは手元に壺を出現させる。


「壺……」


 アルーセの武器が壺である事は既に知っていたセリニに驚きはない――寧ろ納得できていた。


 ――ならアイテムを作成?

 壺から小鳥が現れた光景を明瞭に今でも思い返せるセリニは心躍る気持ちとなった刹那にアルーセは落ち着いた声でスキルの使用を宣告する。


「【壺秘術・工房創造アトリエ・クレアシオン】」


 響いた言葉に応じる様にアルーセの手元から離れて宙を浮いた壺に大きな変化が発生する。

 その変化はセリニの視界に映り込み――即座に現れたのは驚きの声。


「壺が……大きくなった!」


 それは状況を示す記号として周囲に広がった。

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