第49話 銀髪弓使いは不具合から
「その……聞きたいことがあるんですけど」
「何かしら?」
「先程……ゴブリンと狼が現れましたけど……何かあったのでしょうか?」
会話の邪魔をされない対策としてアルーセは周囲に使い魔を放っていると聞いていた。
だがこの広場にもモンスターが姿が現れた。そこから予期せぬ事態が起きたのではと考えたセリニの言葉に対する回答はあっさりとした色合いで瞬く間に返ってくる。
「HPが無くなったのよ」
アルーセが話したのはゲームであるなら起こり得る内容であった。
予想できる範囲の話だった故に感情の変動が発生しなかったセリニはそのまま言葉の成り行きに乗ることにした。
「継続して使い続けるにはMPが必要だけど、それとは別に使い魔にはHPがあるのよ、それが無くなるとわたしにMPがあっても消えてしまうわ」
続けて聞こえた話の要点もゲーム経験から瞬間的に把握したセリニは「そういうことですね」と自身も理解した事をアルーセに伝えた。
――あれ……なら。
それと併用してある事を察したセリニは警戒心を強めながらそれをアルーセに話した。
「じゃあ……今は周囲に使い魔はいない」
アルーセの話した内容から先までと状況が変わったと思ったセリニであったがアルーセはそんな様子を一瞥した後に笑みを浮かべる。
「もう新しいのは出してるから心配しなくていいわよ」
「そうなんですか」
アルーセが動いていることに気づかなかったセリニは何時動いたのかと思案するとあるタイミングが浮かび上がった。
「もしかして……わたしが戦っていた時ですか?」
「正解よ、セリニちゃんが引き寄せてくれたから、簡単にできたわ」
したり顔を浮かべながら語ったアルーセ。
その様子を見ながら状況を整理したセリニの身体の内にはある単語が浮かび上がっていた。
――協力……だよね……多分。
言葉は一切交わしていないが状況からそう判断できたセリニは楽しさを抱き始めたが――前触れもなくパネルが出現した。
「?」
モンスター関連の表示にしてはありえないタイミングであった為に知らせの内容が解らないセリニであったがとりあえずパネルを進めようとしたその瞬間。
「ゴブリンからのドロップアイテムね……内容は装備アイテムよ」
アルーセはパネルの内容を予知するような言い回しをする。
それを聞きながらセリニはパネルを操作すると――
「本当に……」
表示されたのはゴブリンから入手した装備アイテムに関する情報――数秒前にアルーセから聞こえた言葉が現実となって姿を見せた事実にセリニは驚いた。
――どうして?
些細な事であったがとても気になり、声として出そうと思ったがそれよりも先にアルーセが話し始める。
「何故わたしが分かったのかと考えているでしょうけど、その理由はゲームの不具合よ」
そう言われたセリニは今迄のゲームを遊んでいた最中にそのような事を経験した覚えがない為に不思議に思えたがとりあえずアルーセに聞き返した。
「不具合ですか?」
「モンスターから装備アイテムがドロップするときに表示されるまでの時間が掛かってしまう不具合。希に発生するみたいね、次のアップデートで直るみたい」
「だから今表示されたんですね」
起きた状況からアルーセが話したことが本当だとセリニは理解した。
「それで手に入った装備は何かしら?」
興味の色合いで満たされた声で聞かれたセリニは間違いが無いか確認するためにパネルを一瞥した後に応えた。
「ゴブリンの弓矢です」
「弓矢……丁度いいタイミングじゃない」
アルーセから聞こえる声は心底楽しそうな色彩だとセリニは感じ取る。
「そ……そうですね」
武器を新調しようとした矢先であったために手に入れたセリニも嬉しく思えていた。
しかしアルーセが楽しそうな様子である事に対して驚きもあった。
「なら早速装備した方がいいわよ、いつ戦闘になるか分からないから」
先に強襲された故にその言葉は全面的に同意であったセリニはパネルを操作して装備をゴブリンの弓矢に変更する。
――感覚は変わらない。
装備を変更したセリニであったが少し前に脚部に短剣を仕込んだときと違い身体に変化は起らない。
――武器を出すまで変わらないのかな?
そんな推測をする最中にアルーセが何かを言い出しそうな動きを見せた為にセリニは思考を止めてそちらに意識を集中することにした。
「ところでセリニちゃんもチュートリアルをスキップしたのねよ?」
念押しするかの様な声色で問いかけをしたアルーセ。
それが唐突に耳朶に入り込んでいたセリニは驚くが即座に答えられる内容であった為に落ち着いて返答した。
「そうですけど……」
とはいえ今問う理由が思い至らないセリニの声には疑問の雫が落ちていた。
その思案を前提条件としていていたのか、アルーセは疑問に対する答えを出し始める。
「なら領域転移も詳しくは知らないって事かしら?」
自身が露知らずなことを想定した問い――それは当たっていると頷いて肯定する。
それと同時にセリニはアルーセが話した単語が琴線に触れる。
――領域転移……どんなのかな。
既にアルーセが話していたものだがセリニは使えないために詳しくは知らない。
どのような要素なのか単語の意味から様々な想像こそ可能だが明瞭な絵図は浮かび上がらない。
――面白そう。
しかし想像を超えられない故の情景がセリニの心を揺さぶる事となる――故に好奇心によって突き動かされた銀髪の少女の心に恐怖は消え去っており、アルーセに詳しく聞く事を躊躇しなかった。




