第47話 銀髪弓使いは切断から
――誰かいる。
真後ろから音が聞こえた事にアルーセは直ぐに気づいた。
周囲にはスキルで作成した使い魔を徘徊させているために本来ならそこまで警戒する必要性は皆無であった。
しかしフィールドにて銀髪の弓矢使いの少女と始めて出会った際にゴブリンからの不意打ちでHPを空っぽにされた事もあって慢心せずに最低限の警戒は常にしていた。
――他のプレイヤー。
心内ではモンスターでないかもしれないと思っていながらアルーセは真後ろに振り向いた。
――ゴブリン。
しかし予想は外れる。草を掻き分けながら姿を現わしたのはモンスターであった。
――周りに飛ばしたのはホブゴブリンを相手に。
――それともHPが……。
ここでの会話をモンスターに邪魔させない為の対抗策を放っていたがそれは完全なものではない。
故にこの場所にゴブリンが姿を現わした理由の推測は直ぐに完了する。
「相手に」
しかし先と違い攻撃される前に気づけた。この状況ならゴブリン相手に遅れを取る事はないアルーセは壺を出そうとするが――刹那にその必要性が皆無となった。
――出る幕は無さそうだわ。
何故なら自身の目の前には弓を携えた紫の服装を纏ったセリニが立っている。
――任せるわ。
――わたしはその間に。
前に立つセリニの戦う様子を既に目撃していた故に信頼していたアルーセは奇襲を警戒しながら何も言わずにこれから起きる戦いには傍観に徹することにした。
「……」
一方でアルーセの前に出ていたセリニは――
――わたしは……何をすれば。
脳裏で困惑しており、思考が凍結しそうになっていた。
――見……見られて……。
その理由はアルーセからの視線であった。
刹那の感情の赴くままに動いたセリニであったが後先を考えずにしてしまった事を後悔する。
――意識して……戦うの……。
初対面である他のプレイヤーがいるのを意識――それを前提条件として戦うのは初めてであったセリニは自身の心臓が激しく脈動している事を強烈に認識する。
――ここから……撃つ……それとも……。
凍った思考を無理矢理動かそうとした故に散乱した部屋で明かりがないながらも物探しをするかのように自身が何をするべきか見失いそうになったセリニ。
然れどもその間にも時は平等に流れ続け――ゴブリンが弓に矢を番える。
「!」
自身も矢を得物としているためにその動きの意味を理解したその瞬間。
微睡みから覚醒する如く――途端に精神は落ち着きを取り戻しセリニの意識は目の前に状況に向いた。
――倒さないと!
意識は既に向いたが先制攻撃は相手に取られた為にその場から動くことは敢えてしない。
端から見ると変化が起きていないセリニに向けてゴブリンは番えた矢を放った。
――普通の攻撃。
自身に飛んでくる矢が仕掛けが無い通常の物だと判断セリニはその場に立ち続ける。
避ける事は容易いが状況は駄目であった。
――後ろにアルーセさんがいる。
それは今回は一人ではなく二人だからである。
レベルが20であると聞いていた為に一本の矢くらいなら当たっても問題ないかもしれない。
そう考えもしたが一撃を受けて倒される光景を一度目撃した為にアルーセに流れ弾が飛んでいかない方法で対処するとセリニは決める傍らに――矢は接近にしていた。
「……」
その事柄にも目を向けていたセリニは即時に携えた弓を薙いで矢を弾き飛ばした。
――次は……。
ゴブリンは続けざまに弓矢を使用するとセリニは想定。それは隙であり、一気に接近しようと動くが、微かに草が揺れる音が聞こえた為に少しだけ様子を見ることにしたその刹那――狼の咆吼が耳に届いた。
「二体」
淡々と呟いたセリニの言葉に乗じる様にゴブリンの隣に狼が姿を現すとそのまま前方に突撃する。
――あの手でいくかな。
ゴブリンと狼の組み合わせは既に見た事がある為に驚きはなかったセリニは倒し方を思いついた。
不動の姿勢を崩さない少女に向けて狼は跳躍しながら鋭い牙を覗かせた瞬間――冷たい声が森に響き渡る。
「【暗影流出・黒き浸透」
現出した暗き影が弓の全体を覆うと同時にセリニは横に薙いだ。
それが狼の顔面に直撃すると激しい音を伴いながら逆方向に吹き飛ばされる。
その軌道は突撃の跡を追うもの――ではなく微弱だが違っており、その先には静止したゴブリンが弓に新たな矢を番えていた。
――矢を用意する時も油断しないようにしないと。
その様子を自身の今後に活かすことを決めながらセリニがその場から動くと同時に吹き飛ばされた狼とゴブリンが激突した。
「!」
狼が粒子となって消滅する傍ら――衝突による衝撃で身体を大きく蹌踉めいたゴブリンは背後に生えていた木にぶつかるが矢庭に体勢を立て直そうとしたがその刹那――
――何もさせない。
数秒前の跳躍からの移動で急接近していたセリニの膝蹴りが頭部に直撃した。
――してもよさそうだけど。
木にぶつかりながらふらめいているゴブリンを見たセリニは着地しながら試したいある攻撃を仕掛けるべきか考える。
――足りないよね。
しかしまだ駄目だと考え直すとある状態異常になる事を期待しながらセリニは腕を動かして弓本体での直接攻撃を放つとゴブリンは仰け反り――顔を上に向ける無防備な姿となった。
――ショック状態!
相手が望んでいた状態異常になったのを確認したセリニはテンションが高まる。
「仕掛けていいよね!」
その気持ちを声で発散させたセリニは勢いそのままに回し蹴りを放つ。
しかしその軌跡の先にゴブリンはいない――触れるか触れないかのぎりぎりの位置に足先が到着したと同時に――
――現れて!
自身に命じるかの如く心の声を身体の内に拡散させた――その刹那にセリニは脚部に新たな部位が現れる感覚に捉われる。
――偽り黒羽の……時と……。
――これがフラグメント……を操る感覚……。
掴み取ったそれは自身が保有しているスキルの使用感と近いことに気づき、アルーセが口にした用語を思い返すその隙間に挟まるのは――変形した靴底より現れし鉄の短剣。
「!」
驚いたセリニであったがその間も身体は反射的に動き――足から連なる鋭利な刃はゴブリンに届き――その体を切断した。




