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第46話 銀髪弓使いは四本から

「そこまで落ち込まなくても……」


 セリニの反応が想定外と感じるほどの変化であったためにアルーセはとても慌てていた。


「あなたの動きなら初期武器でも高レベルモンスターにも通用するわ」


 故に底意より拾い上げたフォローの言葉を贈った。


 ――反省しないと……駄目だよね。

 ――いつ影を使う黒いゴブリンみたいな……簡単には倒せない強いモンスターと……戦う事になるのか解らない。

 しかしセリニは自戒しながら、強敵だったモンスターの事を思い返していた為にアルーセが何を言っていたのか把握できていない。

 然れども声は身体に届いていた為に意識を向ける。


「は……はい!」


 何を言われたのか把握していないセリニだがとりあえず返事をする。

 聞き返す事も一応考えていたがアルーセから飛んでくる返答に怯えていた為にそれはできなかった。


「本当なら弓矢も新調したほうがいいんだけど、手持ちに無いのよね」 


 そう口にしたアルーセにセリニは即時に言葉を返した。


「それは大丈夫です……自分で買います」


 自身の意思を伝えたセリニであったがふっとある疑問が過る。


「どうして二本も短剣を……」


 アルーセの武器は壺であった。そしてステータスは技巧力に全振りしていると話していた。

 そのステータスと短剣が噛み合わない事に矛盾を感じ取ったセリニは想像した事を紡いだ。


「もしかして……モンスターの気を逸らす為に……」


 それはゲームの中で飛び道具を利用して敵を欺いた経験があったために出た内容であった。


「そういう使い方もできるけど、そもそもわたしは短剣を装備できないわ」


 しかしその発想は否定される。

 それによって元々抱いていた疑問が肥大化したセリニにアルーセは更に困惑させる言葉を口にする。


「それと短剣はまだ二本あるわよ」


 言の葉が具現する如く、アルーセは手元に対となる短い刃が付いた得物を出現させる。

 そしてどちらにもオーラの様なものが放射されていた。


「まだ持ってたんですね……」 

 

 ――合計で……四本……。

 想像以上の数の短剣を持って いた呆気に取られたセリニに出現させた物を消したアルーセがその理由を話し始めた。


「本来ならアイテムに替えるつもりだったわ」


「アイ……テム?」


 どういうことなのかと思ったセリニ。


 ――あの時……言っていた。

 だが短剣を武器とは違う投擲専用の道具に変えられる。アルーセが話していた要旨を思い出した事で理解はできた。


 ――でも短剣のまま……だよね?

 しかしそれならば短剣のままで所持を続けることが不思議だとセリニは考えてしまった。 


 ――道具にする……素材が……足りないとか?

 ゲームの要素を足し算すると答えが浮かび上がったがそれは推測に過ぎない。

 それが正解なのか聞こうと考えたセリニであったがアルーセの声が聞こえた為に意識をそちらに向ける。


「だけどやめたのよ」


 自身の疑問の答えを口にしたアルーセ。

 しかし素朴な疑問が現れたセリニはそれを口にする。


「どうしてですか?」


「投擲用のアイテムに変える意味が無いのよ」


「意味が無い……ですか?」


「ええそうよ、上げたアイテムの効果を見ると解るわ」


 そう言われたセリニは渡された短剣の詳細を確認した。

 そこには基礎効果の他に効果が付加されている事が確認できる。


 ――強化段階は……効果が追加された武器の意味。

 それと同時に短剣を見た時から予想していた事が当たっていたのを確認したセリニは肝心な付加された内容を見た。


「攻撃時にMP回復……回復量はダメージの数値で変動……」


 声に出したセリニは感想を口にする。


「使える効果だと……思いますけど?」


 MPが回復する――戦闘があるゲームでそれが如何に重要なのかゲーム経験から十分に理解していたセリニはアルーセに疑念の問いを渡した。


「効果としたら確かに使えるわ、けど投擲アイテムとして使用するとその効果が消失するのよ」


「当ててもMPが回復しないのですね」


 アルーセの言葉の意を理解したセリニは渡されたの二本目の短剣に付加された二つの効果に目を向ける。


 ――一つは一本目と同じ……二つ目は……MP自動回復!

 自身が使えるスキルの特性からその効果は喉から手が出る程に求めていたものであった為にセリニは驚きと興奮に包まれる。


「い……いいんですか! こんな効果の武器を!」


「問題ないわ、貴女の戦い方と相性がいいでしょ?」


 今後MPを大量消費する予定であるためにアルーセの言は至当に値するもの。

 聞こえた瞬間に「はい!」とセリニは返事をする。


 ――だけど。

 口にすると同時に興奮が治まったセリニは不可解な点に気づけた。


「あの……投擲用のアイテムと相性が悪いのなら……どうしてその効果を短剣に?」


「気になるわよね」


 セリニの問いに笑みを浮かべたアルーセはその理由を明かした。


「武器や防具の強化手段は今のところは二つあるのよ、一つは付けたい効果を確実に付ける方法、もう一つは付けたい効果がそれなりの確率で付けられるけど、他の効果が付いてしまう方法。

 因みにだけど、武器の出来上がりの良さで付けられる効果数は変わるわ、今の最大は四つまでよ」


「そうですか」


 話を聞いたセリニは納得する。

 手に入れた装備の効果がランダムになるゲームや高品質な装備を作ると沢山の効果を付けられるゲームを遊んだ事があった為であった。


「そして確実に付けるのは、数値が固定されているのよね、対して他の効果が付く可能性がある方は、数字が固定されていないけど、低い数値になるかもしれないけど、高い数値になる可能性もあるわ」


「つまり……ここにある四本の短剣は……欲しい効果が付かなかった短剣なんですね」


 話の総括を淡々と口にするセリニにアルーセは頷いた。


「そういう事よ、だから遠慮なく使っていいわ」


 朗らかな色合いで言い切られたセリニは相手の意思を汲み取り、言葉を返した。


「はい、解りました」


「そういえばこっちの短剣も見るかしら? 今なら変えてもいいわよ」


 そう言いながらアルーセの右手には短剣が出現すると腕を動かし始める。

 それを見て何をするのか察したセリニは両手を振りながら声を上げる。


「投げなくても大丈夫です……それと今の短剣で大丈夫……です」


 今の武器で十分である事をアルーセに語る。


「ならいいわ」


 それを承諾したアルーセは動きを止めると同時に手元から短剣を消失させる。

 それを見たセリニはこの場で短剣を初めて見せた後の動きは何だったのか尋ねてみた。


「あの……一本目の短剣を渡すときに投げたのは……どうしてです?」


 プレイヤー同士のアイテムの受け渡し手段が投げ渡しだけであったのなら別段気にしないセリニだがパネルを通してアイテムを受け渡す事が可能と知った事で疑問として現れた。

 それに対してアルーセは颯爽と答える。


「アニメやゲームみたいでお洒落だからよ」


「え……え……」


 すると想定外の言葉の羅列が飛んできた故にセリニは驚きの顔と声を出した。


「ここはVRMMOだからゲームの世界だけどね」


 続けてそう話したアルーセに「そうですね」とセリニは返した。

 

 ――分からなくはないです。

 ――かっこいい……と思います。

 しかしそういった普段は出来ない細かな動作に心がくすぐられる事に共感できた為にセリニは心の中で同意の言葉を重ねる。


「けど今後の戦いで役に立つから……なんて意味もあるわ」


「役に立つ……ですか?」


 アイテムを投げ渡されることがどんな風に戦いと関係するのか直ぐに思いつかなかったセリニにアルーセはその理由を話した。


「二本目の短剣を渡した方法は戦闘中には使えないのよ」


「それは……分かります」


 戦いの中でパネルを操作してアイテムを整理整頓したり他者に渡したりする。それがどれだけ困難なのかは細かいことを言われずともセリニは理解できる。


「だけどアイテムの投げ渡す事は可能、そういう事よ」


 そこまでアルーセの話を聞いたセリニは相手が何を言いたいのか概ね把握する。


「戦っているときにアイテムが無くなっても他の人が投げたアイテムを受け取れば補充できるんですね」


「ええ、けど投げたアイテムを取り損ねるとアイテムを使えるモンスターが相手だと、そのアイテムを使われるから気をつける必要があるわ」


「モンスターもアイテムを使えるんですね」


 それを聞いたセリニは行動のバリエーションの多さを面白いと思い楽しそうに所懐しょかいを口にする。


「使うわ、それに敵モンスターがアイテムを最初から持っている場合もあるわね」


「最初から……ですか」


 アルーセが何気なく口にした存在――セリニは覚えがあった。


 ――爆発する石を投げてきた……鎧のゴブリンもそう……かな?

 セリニの脳裏を過るのは離れた距離にいた自分自身に投擲で攻撃してきたモンスターの姿であった。


 ――なら……アイテムとして見つかる。

 様々な戦闘手段があるのなら是非とも活用したいと思えたセリニはこれから先の楽しみが一つ増えて爽快な気持ちとなり、それは言葉としても現れる。


「アイテムによっては色々……しそうですね」


「実際、アイテムを使って回復をしたりするみたいよ、対策はあるけど」


「対策ですか?」


「アイテムを持った瞬間に攻撃すればそのアイテムを落とすのよ」


「瞬間ですか」


 ――持ったときに質感はあった……。

 ――あのときに衝撃を受けたら……落とすね。

 戦闘の最中にアイテムを使用した経験があったセリニはアルーセの話を聞いて納得できた。


「それにそのアイテムを奪えば自身で使う事も可能よ」


「そんなことも可能なんですね」


 その戦い方も面白いと思ったセリニは好意的に受け止める。


「でもその戦闘が終われば消滅するから、持ち帰る事は()()()に不可能よ」


 その言葉の並びから例外的な場面があることを即時に把握したセリニは好奇心を表われるがそれを尋ねると話の道が別方向に進んでしまうと思ったために心の内に留めることにしたが――しかしある疑問が生じる。


 ――何の話を……してたっけ?

 どうして敵モンスターのアイテムに関わる事を会話しているのか、セリニはすっかりと忘れていた。


 ――けど……色々と知れていいかな。

 ――それに……雑談みたいです。

 とは言え、今後役に立ちそうな知識は頭の中に入っていると確信していた為に細かいことを気に留めないと流して今の状況を楽しんでいた――同時にそんな自身にセリニは感慨深いものを感じていた。


 ――少し前だったら……きっと逃げていた。

 中学に通っていた頃の自身がアルーセと出会っていたら、無理矢理会話を打ち切ってこの場から離れていたとセリニは自己分析した。


 ――爽陽さやちゃんには感謝しないと。

 だが高校に入学直後に友達ができたお陰で家族以外との会話することにも少しだけ慣れてきた為にそうはならなかった。


 ――けど……誘われていなかったら……最初からここにはいないかな。

 よく考えるとツインファンタジーワールドを遊ぶことになったのは爽陽に誘われたのが理由であった。

 そんな事を考え始めたセリニの耳にアルーセの声が届き始めると即座に意識を向ける。


「話が逸れたわ」


 話した内容はセリニも感じていたものであった故に黙してそのまま続きを聞いた。


「これでセリニちゃんは街に戻らずに済むわ」


「は……はい」


 それを言われたセリニはこの場に留まり続ける理由――そして武器を買いにフィールドから離れる理由が既に消失した事に気づいた。


「あ……あの……二本の短剣……本当に本当にありがとうございます」


 セリニは心の底からの感謝をアルーセに向ける。


「どういたしまして」


 アルーセはセリニの感謝を返すが――下流に繋がる川の流れの如く言葉を紡いだ。


「ところで一つお願いがあるんだけど」


 それは唐突な言葉であり、セリニは驚いた。


 ――無茶な事は……言われないよね。

 ――短剣を貰った……恩もありますけど。

 多少の警戒をしたセリニだがアルーセなら大丈夫だろうと、相手を信じることにした。


「はい……分かりました……出来ることならやります」


 セリニの言葉に反応して笑みを浮かべたアルーセは願いがなんなのか明かした。


「足に仕込んだ短剣がどう飛び出るのか見てみたいのよ」


 口にしたそれは分かりやすい事であり、セリニは即答する。


「それなら幾らでも」


 アルーセの願いはセリニも気になっていた事である。


 ――モンスターと戦う前に確認はするつもり……でした。

 面白そうだからと足に短剣を仕込むスキルを習得したセリニ。

 しかしそれはそれとして戦闘でもちゃんと活用したいと思っていてモンスターと遭遇する前に短剣がどんな風に姿を見せるのか試す予定であった。


 ――見られるのは恥ずかしいけど。

 慣れていないタイミングで他の人の前で披露することになるとは考えていなかったセリニは躊躇を感じる。


 ――今更……だよね。

 だがアルーセには既に戦う姿を目撃されている。

 それを思い返すと恥ずかしさは心から霧散する。


「装備します」


 それを気に一気に進めることにしたセリニはパネルを呼び出して短剣を脚部に装備する。


 ――あ……足が少しだけ重くな……。

 すると自身の身体に変化が起きた事に気づいたセリニだが――その変化と並行するもう一つの変化が起る。

 その起点は草々に揺れる森林の音色であった。


「――」


 その変化を瞬間的に感じ取った途端にセリニは同軌するように音を鳴らした存在を捉える。

 その場所は――アルーセの真後ろであった。


 ――弓の……ゴブリン。

 現われた敵の得物を把握したセリニ――真後ろに出現したそれに気づいた様子のアルーセは身体が動かし始めたその最中――


 ――なら……好都合だね。

 ――試すのに!

 状況の判断を終えたセリニは――心の奥底で満たされた水溜を愉悦の感情で沸騰させながらゴブリンを倒すために動き始めた。

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