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第45話 銀髪弓使いは二本から

「――仕込み短剣・脚部きゃくぶに使う短剣を一本の為に街に戻ろうと……してます……」


 アルーセに向けて自身がフィールドから街に戻る理由の説明を終えたセリニの内面は――不安な感情で形成された霧で覆われていた。


 ――ちゃんと話せたよね。

 ――もし……駄目だったら。

 他の人に自身の身に起きた経験を話した経験がセリニにはあまりない。

 その為に後ろ向きな気持ちに身体の中に入り込んでいた――だがそんな暗鬱とした気持ちを払うように明るい女性の声が場に響いた。

 

「だから街に戻る必要があるのね」


 ――ちゃんと……伝わってた。

 ――本当に……よかった……。

 アルーセの言によって心配は不要だったと心底安心したセリニが次に浮かんだ事は得られたスキルに関してある。


「では……街に……」


 二本目の短剣を購入して早く仕込み短剣・脚部きゃくぶを試したいと思っているセリニは早々に伝え始めたその刹那――アルーセは横槍を入れる。


「手元にあるわ、短剣」


「え――」


 いきなりな言葉を聞いたセリニはその中身に気づくと身体が硬直していた。


 ――どうして?

 短剣が欲しいと思った刃先に出会ったプレイヤーであるアルーセ。

 そんな彼女が短剣を保有しているとはつゆも考えていなかったセリニは驚嘆する。 


「間違いないはず」


 状況の把握が困難なセリニとは裏腹にパネルを操作していたアルーセ。


「これよ」


 パネルが消えると同時にアルーセの手元に現れるのは一本の短剣であった。


「短剣ですね」


その形を目にしたセリニはアルーセが本当に保有している誠に改めて驚いた。

 それと同時に――


 ――あれ……わたしやゴブリンの武器と違う?

 アルーセの手元にある短剣からは微かにだがオーラの様なものが溢れている事にも気づいた。


 ――エフェクト?

 ――それとも……。

 色々な可能性が脳裏を駆け巡る傍らにセリニの耳にはアルーセの声が届いた。


「そうよ」


 それはセリニの言に対する解――だが声の色は楽しそうであると一言で気づかせるもの。


「?」


 声の調子に気づいて疑問が浮かぶその最中。

 アルーセは短剣を握った腕を無造作に動かすと――短剣を投擲する。

 解き放たれた刃の先にはセリニが立っていた。


「――!」


 突然の出来事に驚くセリニ。

 だが驚いたのはアルーセの突然な動き――短剣が自身に飛来する。そんな事態に感じる事は殆どない。

 強いて表すなら風で舞う木の葉が突如視界に現れた程度の驚きならあった。


 ――もうゴブリンに何度も……。

 抜き身の刃が迫る状況で平然していられる。その理由はフィールドに出てからの連戦であり、今の状況に慣れがしょうじる。

 故に思考は雑音はなく、今の状況をどうするべきか――セリニはそれだけを考える。


 ――せっかくなら。

 投擲された短剣には勢いは殆どなく、緩やかに下降している事を確認したセリニは横に移動。

 程なく短剣が隣を過ぎ去りそうになった場面を目撃したその瞬間――手を伸ばして短剣の柄を掴んだ。


 ――できた。

 飛来する武器を掴む。それをいずれ試したいと思っていたセリニの内に喜びが表れる――しかし即座に別の感情に塗り替えられた。


「あれ……わたしの物に」


 掴無と同時に短剣が自分のアイテムに変化した――自分の脳にそう刻まれたとセリニは感じて、同時に驚いていた。


「渡すわね、その短剣」


 事を起こしたアルーセはその状況を見抜いている様子であった。

 何が起きているのか掴みきれないセリニはそんな女性に疑問を向ける。


「あの……どういうことですか?」


「わたしのアイテムを上げたのよ」


 ――確かに……そうですけど……。

 アルーセの言は僅かな間に起きた事柄と一致していた。

 しかし突然過ぎる為に疑問は解決されていない――そう抱く最中に自身の身に微かな変化があった事にセリニは気づいた。


「あれ……」


 手に持ち続けていた短剣が何時の間にかに消失していた。


「あ……あの……」


 渡されたアイテムだが元々はアルーセの短剣であった為に無くすのは駄目だと思ったセリニは焦りの声色と表情を見せる。


「インベントリを見るといいわ」


 そんな少女に笑みを浮かべながら支持の言葉をアルーセは向ける。

 それを聞いたセリニの反応に応じる形でパネルが出現すると性急に自身のアイテム欄に目を通した。


「ありました」


 アイテム欄には先に投擲された短剣。【鉄の短剣(()()()()1)】が出現していた。それに目を通したセリニはようやくくアルーセの意図を察して疑問が一瞬で氷解する。


「人同士のアイテム交換は……投げ渡す事で可能なのですね」


「ええそうよ、けど――」


 言葉を切ったアルーセの前にパネルが出現するとそのまま操作を始めた。


「通知……」


 セリニのパネルに新たな知らせが届いた。

 何も言われていないがアルーセが関わっているのは場の流れから判断できた為にその中身を見る。


「アイテム?」


 パネルにはアルーセからの届け物があったことが表記されており、受け取るべきかの選択肢が出現したが――操作を止めたセリニは相手の意図を尋ねた。


「このアイテムは……何ですか?」


「もう一本の短剣。確認できるわよ」


 そう言われたセリニはパネルを操作すると、詳細な情報が現れる。


「鉄の短剣……強化段階……2()?」


 目を通したセリニであるが疑問が解消された訳でない――立ちどころに増加の一途を辿っていた。


「あの……どうしてですか……一本あれば……そもそもどうして短剣を……」


 混乱が続いているためにおろおろとしながら言葉の順番が滅茶苦茶になったセリニに対してアルーセは対照的に落ち着いた色合いの声を向ける。


「短剣を上げたのは助けてくれたお礼よ、だから代金は不要よ」


「そ……そうですか」


 アルーセと知り合りとなった切っ掛けが短剣を渡す事に繋がる。

 それを聞いた瞬間にやっと状況に目を向けるセリニ。


 ――けど……二本もどうして……。

 しかし一本だけ追加すれば問題ない事は既に伝えている筈であった。

 だが渡された数は一本多い為にそれに関して聞こうとしたセリニであったが、アルーセの声が聞こえ始めた為に口を塞いで聞く事に徹した。


「一本多く渡したのは――多分だけど、いまセリニちゃんが持っている短剣は始まりの短剣よね?」


「はい……そうです」


 ツインファンタジーワールド始めたばかりであった。それを既に当てられた為に保有している短剣の名前を言われたことに多少の驚きだけで済んだセリニにアルーセは言葉を続ける。


「だからよ」


「?」


「初期装備のままこの先にいる相手と戦うのは心許こころもとない、装備は更新できる時に更新した方がいいわよ」


 指摘が耳に届いたその瞬間にセリニはアルーセの意図に気づいた。


 ――そういえば……そうですね。

 いつもの自分なら強い武器に新調してからレベル上げをしているがツインファンタジーワールドを始めてからは一度もしていない――考えた事さえなかった。

 初めてのVRMMOに夢中になっていたばかりに基本的な事が頭から抜け落ちていた。

 アルーセからのアドバイスによってその事をセリニは気づいた。


「――アルーセさんの……言うとうり……です」


 自身の非があり言われるのは当然。それを強く自覚したセリニはアルーセに反省を滲ませた声色でその事を直接的に伝えた。

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