第104話 銀髪弓使いのダンジョン探索 その10
「早速お出まし」
「――ですね」
地下水路に再び入ったセリニとシャール。
彼女達を歓迎するように姿を現わしたのはスケルトンとマウスによる混成集団であり、その数は目算で十体は確認できた。
――いきなりにしては……多いのかな。
ダンジョンの入り口に出現する総数とは思えないことに対する所感を抱いたセリニ。
――今は……二人……なら問題ないですね。
とはいえパーティーを組んでいる状況ならそれはそれで面白いと思って笑みを浮かべたセリニが弓矢を出現させる傍らで――シャールは鞘から装飾されて刀身が透明な短剣を引き抜いた。
「この数なら――今回はわたしがやるから周囲の警戒よろしく」
シャールに初めて話しかけられた最中に現れたモンスター達はセリニが全て倒していた。
――あの時の……ことですね。
そしてその借りを次の時に返すと言われてたことを覚えていたセリニがその言い分を把握した合間にシャールの声がダンジョンに響いた。
「出番だよ! シュヴァル」
シャールの短剣が宙を切り裂き――白い線が宙に刻まれたその瞬間に発光――光が消え去ると入れ替わるように現れたのは――大型な二輪の車輪が取り付けられた木製の荷台に繋げられた全身が茶色の毛で覆われた黒目の駿馬であった。
「行くよ!」
跳躍して荷台に乗ったシャールは既に握っていた手綱を振るとシュヴァルは疾駆する。
――戦車。
――人が荷台に乗って馬と共に戦う武器。
シャールと初めて出会ったときに隣に控える姿を見て既に驚いていたこともあってセリニにこの場での驚きはなかった。
「サブ武装の……召喚短剣で呼び出せる」
戦車をセリニが初めて見た最中にシャールが言っていたことを口にする最中に――戦いの狼煙となる詠唱が耳に届いた。
「【隣滅魔術・結晶】」
シャールの周囲に結晶が現出すると同時に戦車が突撃――モンスター達を蹴散らすと同時に降り注いだ結晶が追撃を加えるとその身体は粒子となって飛び散っる。
――見ていて……爽快です。
殲滅する姿を見てそんなことを思ったセリニだが――その最中にも周囲を警戒すると――シャールの行動範囲外に敵がいることに気づいた。
「上に……」
人の身長程度の高さの段差の先に弓矢を装備した三体のスケルトンが立っていた。
――あれはわたしが!
自身に出番が回ってきたと思うと同時にセリニは跳躍しながら矢を放つとスケルトンの頭部に直撃――霧散する。
――もう一体も。
そのまま二体目のスケルトンに接近したセリニは弓本体を振り下ろすと頭部に直撃し消滅した。
――最……。
着地するとそのまま三体目のスケルトンが立つ方向に向いたその瞬間――
「【ドラゴン・バレット】」
声が届くと同時に白龍の弾丸が頭部を喰らい尽くして場からスケルトンは消え去る。
「シャールさん」
下を見たセリニの目の先を疾走するのはプレイヤーを乗せた戦車。
――普通の攻撃魔法も……使えるのですね。
特殊な魔法以外も使用できると把握しながらセリニはシャール側の戦況を確認する。
――援護は……不要ですか。
敵対するモンスター達はシャールが操る戦車の動きに追いつけていないと判断したセリニの耳に届くのは――硬い何かが動く音。
「?」
シャールの状況は圧倒なこともあって気になった方向を確認することにしたセリニは音が鳴った側に身体を向けた。
「小さい……キネシス・パゴス……大きい以外のもいる」
視界に映るのは一部が小規模な氷で覆われた広場と既に戦って倒したモンスターの小型な個体であった。
――あの広場と繋がってる。
現在もシャールが駆け巡っている場所と通路を通して直結していることを確認したセリニ。
――気になるのもあるから……倒していいよね。
何かあってもすぐに戻れるのであれば問題ないだろうとして跳躍すると瞬く間にキネシス・パゴスに接近しながら足を振り下ろしたその須臾に淡々とスキルを口にする。
「【暗影流出・黒き浸透】」
黒を纏う蹴りがキネシス・パゴスを襲うがそれを耐える――しかしそれはセリニにとって想定内であり、着地した後に続けて放たれた仕込み短剣の刃で切り裂かれるとまっぷたつとなって砕け散る。
――別の個体。
その戦いの最中に新たなキネシス・パゴスが現れたことに気づいたセリニ。
「どう倒そう……それとも……戻るべきかな」
色々とを呟きながらもセリニは弓矢の準備を始めたが――疾駆する音が鳴ると同時に援護攻撃を示す声が届いた。
「【イグニス・バレット】」
現れるのは赤き炎の弾丸――詠唱者がシャールだと気づいたセリニの眼前を通るとキネシス・パゴスに直撃――その身を構成していた氷は溶け崩れ去って消滅する。
――やっぱり……キネシス・パゴスの弱点は……炎。
自身の推測が当たったと思う最中にセリニの前に戦車に乗車したシャールが現れる。
「あ……もう終わったのですか?」
戦いの音を聞いてか他のモンスターも近寄っていたのも確認できた為に、少し調べたらシャールがいる場所に戻ろうと思っていたセリニは驚きながら聞いた。
「セリニの姿が見えなくなったから合流を優先にした」
「そ……そうだったのですか……すいません」
自身の行動が原因だったと気づいたセリニは謝る。
「大丈夫――それに良い物を見つけてくれた」
そう言いながらシャールはある方向を見ながら戦車を降り、セリニもその視線に合わせる。
その先には氷の床があり、その上に鎮座するのは両手で抱き抱えられる程に大きさな氷塊であった。
「見たときに……アイテムに近い感覚がありまして」
自身の直感を口にしたセリニにシャールは「その感覚はあってる」と肯定してその実を明かした。
「これは【地下水路の大氷塊】。砕くとドロップアイテムとして手に入る。」
「砕けば」
その話を聞いたセリニは弓に力を入れるがシャールは即座に「ちょっとまって」と口にする形でその動きを制する。
「砕かずに街に直接持っていけば質とアイテム量が増加する」
「そ……そうなのですか」
その話を聞いた直後にセリニはアルーセが言っていたことを思い出した。
「もしかして……木とかと……同じですか?」
木もそのままの形で街に持ち帰れば沢山のアイテムになると聞いていたセリニはその話を例として持ち出した。
「それと同じ」
是認したシャール。それを受けてこれからどんな流れになるのかセリニは察した。
「地下水路の出入り口に……この氷塊を持ち帰るのですね」
「ええ、折角近いんだしそうするべき」
その意見には同意できたセリニは頷いたが――どう運ぶのかと思ったが、その解はシャールが明かした。
「シュヴァルに運んで貰う」
そう言うと同時に嘶きが地下水路に届いた。
――荷台に……載せるのですね。
――だから……降りた。
シャールが歩き出した理由と合点ができたセリニは納得する。
「じゃあセリニも……」
何かを頼もうとしたシャールだが言葉が途中で止まる。
言われずともその理由をセリニは察した。
――モンスター。
後ろを見ると二体のマウスが二人の元に向かってきている。
「わたしが乗せている間に殲滅お願い」
そうシャールが言う最中に弓矢を番えていたセリニは冷静にスキルを口にする。
「暗影変異・黒之分体」
黒き影が地を這うと同時に矢を構えた黒き人に変貌――セリニが矢を放つと同時に黒き人影も矢を放つとその身は崩れる――だが矢は形を保つと接近していたマウスに直撃して倒した。
しかし本体が放った矢を受けた個体は生き残っていた――然れど見逃される道理はない。
「【暗影変異・命喰禍爪】」
運よく微かなHPを残したとしても――接近する最中に禍を齎す黒き爪を得た銀髪の少女によって黒い影に変換されて喰われて運命に変わるだけであった。
「昨日も見たけど……あらためて見ると中々にえぐい技」
その光景を目にしたシャールの言葉を受け止めたスキルの使用者であるセリニは即座に言葉を返す。
「は……はい……そうですね」
その感想は自分自身もとても自覚している事であったと思いながらシャールの方を見たセリニ。
「載ってますね」
地下水路の大氷塊の位置は荷台の上となっていて、紐によって固定されていた。
「じゃあ戻るけど、セリニは偵察してくれない?」
「偵察……」
唐突な言葉と思ったが――少し思案すると、シャールが自身にしてほしいことが何なのかセリニは把握できた。
「入り口の近くのモンスターですね」
ゲーム側から一切説明を受けていないのだが今の荷台はモンスターに襲われたらまずいことになるのは想像できたセリニは跳躍して段差に乗るとそのまま出入り口側にこっそりと近づいた。
「モンスター……いる」
――大きいマウスも。
視界の先には広場を埋めるモンスター達であり、その数は二十を超えていた。
――イベントが起きていたの……かな。
異常な数故にそんな想像をしたセリニが――その予想は当たっている。
地下水路は広大であり、一定のエリア毎にイベントクエストが発生するようになっており、現在いるエリアでモンスター大量出現イベントが発生していた。
――全員倒すのは……楽しそうだけど。
――今は……駄目ですよね。
戦闘が好きなセリニにとっては心が舞い上がる状況だが――今はパーティーを組んでいて、時間も掛かりそうだとしてその衝動を抑えると同時にシャールの元に戻ると状況を説明した。
「見てから決める」
通路を進む荷台と並行して歩んでいたシャールの意見を聞いたセリニは頷いて賛成を示すと歩行速度を合わせた。
――もしかしたら……移動しているかもしれないですよね。
水路で泳いでいるときにモンスターが集団で移動している場面を目撃していたセリニはその可能性を考えた。
――いたら……いたで……どう対応するのかな……。
自身にとってはどう転んでも楽しいことになりそうだと思ったセリニ。
そんな銀髪の少女に耳に唐突に届くのは――様々な音が混ざり合いながら集団が荒っぽい動きによって奏でられる雑音。
そして密かに紛れるのは――鋭利さに美麗さが合わさった斬撃音であった。
「え――」
突然な音色に驚いたセリニはシャールを見る。
「別の人?」
そうこうしている内に真っ直ぐ進めば広場が確認できる場所まで到達したセリニはこの先で起きたことが気になり「見てきます」とシャールに告げると跳躍して広場の前で着地する。
――モ……モンスターいない。
広場を埋めていたモンスター達はまるで最初から存在していなかったのように姿を消し去っていた。
それだけなら場から移動した可能性もあると思ったセリニだが――よく見るとそれはないと断言できた。
――粒子がある。
モンスターが形を失う際に噴出する残滓が微かに――そして広範囲に残っていることを確認できた為であった。
――なら……別の……。
それを受けて他のプレイヤーが近くにいると思ったセリニに――清らかな印象を与える少女の声が届いた。
「【剣舞・一閃】」
セリニは即時に声がした方向を見た――その先には大きいマウスが二振りの刀の斬撃で切り裂かれる光景が広がっていた。
「終わりました……後は離……」
独り言を呟いていた二振りの刀を携えた少女はその様子を観察するセリニの視線に気づいた挙動をするとゆっくりと身体の向きを変えるとその風貌が明らかとなった。
細身の体付きであり、身長はセリニより少しだけ低い。
着ている服装は動きやすそうな構造な長袖の装束であり、色合いは黒を主体に白を加えたもの。
髪色は艶やかな黒髪であり、腰に届く程の長髪。
目の色は黒。微かに色白な肌であり、顔立ちはとても整っているが――何処となく冷たくて暗い雰囲気を醸し出していた。
「見……」
――見?
とても話しかけられる様子でない。
そして相手側の事情と関係なく――セリニ自身も知らないプレイヤーが相手故に――どうすればいいのか解らなくなり、身体が硬直してしまう。
「――――」
「――――」
そんな膠着状態を打開するように現れたのはシュヴァルに地下水路の大氷塊を運ばせているシャールであった。
「あれ? モンスターが――」
軽く驚いた様子で広場を見たシャールが二振りの刀を持つ少女に気づいた刹那――場に強烈な変化が発生する。
「見!! 見られてしまいました!! 余計なことをしてしまってごめんなさい!!」
水流の音色で奏でられた空間に少女の叫び声が響き渡った。
「え……え……えぇ!」
突如の大声を伴う出来事に触れたセリニはあたふたと左右に顔を動かしながら強い当惑を――
「――――?」
シャールは首を傾げながら静な疑問を向ける事となった。




