第105話 銀髪弓使いは三等分から
「すぐに戻るから」
シャールがそう言うと同時に床の一部と一緒に上昇を開始する。
その動きの根幹は地上に上がる螺旋階段で囲まれた広場の中央を設置されたリフトによるものであった。
その隣には地下水路の大氷塊を積んだ荷台を運んでいたシュヴァルが並んでいた。
その光景をセリニとペットのオウル。
そして少し離れた位置に立つ黒髪の少女が淡々と見ていた。
――そう……利用するのですね。
螺旋階段を降りた後にリフトがあることに気づいていたセリニであったが自分達プレイヤーはマップからの転移を使うことで瞬時に移動が可能である。
それ故にリフトはどんな意図があって設置されているのかよく解らなかったのだが――目の前で起きた光景を見てその疑問は氷解する。
――入手できないアイテムを回収するのに……使用する。
――あの大きさなら……馬車も運べるよね。
運ぶ装置があるならば運ぶべき対象もあると考えるべきだったと思いながらもセリニは同じ場所に留まっているプレイヤーに目を向ける。
そこには黒髪の少女が立っていた。
――何を……話せば。
ここに来るまでの間にシャールと会話している姿は目撃していたセリニであったが自身は話していないことやそもそも名前さえ知らない関係故に話をする糸口さえ浮かばない為にどうするべきかと思った最中に――清らかな声が聞こえた。
「先程は――慌ててしまい申し訳ありません」
それは黒髪の少女の言葉であり、そのことを察したと同時に数分前に関する言い分が届いたセリニは慌てながら対応する。
「あ……い……いいえ……大丈夫です……はい……」
突如大きな声を聞いたことに驚きの感情を抱いたのは間違いなかったセリニ。
――気持ちは……とても解ります。
だが現れた何かに驚愕して叫び声を上げることは――強面なNPCを相手にセリニもしたこともあって共感できた。
「そういう事も……ありますよね」
それを直接セリニは口にした。
「はい、以後気をつけます」
言葉を返した黒髪の少女。
一度話したことで緊張感が薄れたセリニは自身の疑問を向けた。
「あの……どうしてあの時……余計なこととか言ったのですか?」
「あ……あれは――」
声が届くと同時に微かに赤面した黒髪の少女。
先の自身の行動に恥として思い出したかの挙動であった。
――い……言わない……方が……。
その様子を自身の言動を反省したセリニに黒髪の少女は言葉を向ける。
「セリニさん達に」
自身の名前が聞こえたためにセリニは反射的に反応する。
「はい……わたしは……セリニで――」
しかしその途中で驚きを感じて言葉を打ち止めにして別の反応に塗り替えられた。
「え!」
「!」
その声に反応するのは黒髪の少女であり、セリニはそれを把握すると声を出した理由を語った。
「いえ……その……わたし……まだ名前を言っていないので……驚きました……はい……」
それを聞いた黒髪の少女は「そうでしたね」と理解した様子を見せた後にその理由を語る。
「もう一人の人が呼んでいたのを聞きましたから」
――言われて……みたら……そうですね。
シャールに名前を呼ばれた記憶があったセリニは納得した。
「シャールさんが……言ってましたね」
「戦車使いがシャールさん――」
セリニの言葉の中に出会ったプレイヤーの名前があることを口にした黒髪の少女。その最中に何かを察したのか言葉を不自然なタイミングで止めた。
「?」
それを見てどうしたのかと思ったセリニであったが、黒髪の少女はその理由を自身の口から明かした。
「あたしの名前をまだ言っていない」
「あ……」
言われて気づいたセリニを尻目に黒髪の少女は自身の名を明かした。
「リオです、よろしくお願いします」
「は……はい……よろしくお願いします」
リオの言葉に返事を返したセリニであったがその最中にあることを察した。
――話が脱線……してますね。
自身のプレイヤー名を聞いたことが切っ掛けとなって会話の流れが初めて出会ったプレイヤーの名前に向かったことに気づいたセリニ。
それも知るべき内容であったが、本来聞こうとしたことに関してリオが話そうとしている言い回しであったこともあり、話題をそちらに戻そうと思った矢先――いつの間にかリフトが元の場所に戻っていたことに気づいた。
――誰か……くる?
更にリフトの前に光が出現すると瞬く間に人型になる。それが知らないプレイヤーが現れる可能性となることをこの出入りを利用する別のプレイヤーを一回見た為に思案したセリニは身構えるが、現れたのは見覚えがあるプレイヤーだった。
「シャールさん」
現れたのは現在セリニとパーティーを組んでいる人物であった。
「よかった、どっちもいるね」
セリニとリオの姿を確認したシャールに早速声が届いた。
「あたしはリオです、よろしくお願いします」
自身の名を明かしたリオに「わたしはシャール」とプレイヤー名を返したシャールはパネルを出現させて操作しながら言葉を紡いだ。
「これがさっきの報酬」
シャールがそう言った途端に目の前にパネルが出現、セリニはそれを読んだ。
「地下水路の大氷塊三個」
「合計で九個を三等分、口だけじゃなくてログでも確認できるけどする?」
「大丈夫です」
シャールを信じたセリニは文字での把握をしなくても問題ないと判断した途端にリオの驚きの声が場に響いた。
「あたしにもでしょうか!」
リオの前にもパネルが出現していた――そしてその言い回しから自身と同じ事が書かれているパネルが出現しているのだろうとセリニは想像した最中にシャールは驚きに対する解を口にした。
「リオが入り口前にいるモンスターを一掃してくれたお陰で楽をして無事に辿り着けた、だから分けるのは当然でしょ」
そう断言したシャール。
「はい……わたしもそう思います」
それを耳にしたセリニも全く同じ意見であり、同意の言を口にする。
「では――貰います」
その言を受け入れたリオは恥ずかしそうな挙動をパネルを閉じる。
そして自身の体勢を整える動きをした後に――場にいる二人に目を向けた。




