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第101話 銀髪弓使いは手遅れから

「やっぱりフィールドよりもここが落ち着く」


 そう言いながら歩みを止めたシャールが振り返った先に立つのは周囲を見るセリニであった。


「は……はい」


 視線を感じたセリニはシャールへ返事をするも心の中では周りのことを考えていた。


 ――螺旋……階段。

 二人の少女が立つ地点を囲う建物の中身にセリニは覚えがあった。


 ――あの出入り口と……同じ。

 その構造は自身が地下水路に向かうのに使用した建物と同一であるとセリニは察した


 ――街と地下水路を繋ぐ出入り口は……複数あるんだ。

 今いる場所は自身が初めて地下水路に挑むために経由した地点とは異なるとマップを見て気づいたセリニは思考を目の前のプレイヤーに向ける。


 ――シャールさんは……どうして……わたしを?

 目の前の少女はいきなり現れるとモンスターを蹴散らした後に自己紹介をした。

 それにセリニも応じると「折角だから話をしない?」と唐突に言ってきた。


 ――断る……わけには……いかないよね。

 前振りもなくそんなことを言われて驚いたセリニだが――出入り口に戻る以外の予定はなかった為にその提案を受け入れたがその話をしている最中にモンスターが再び襲来する――しかし少し前に起きた結果を再現するに至るとシャールは「安全な場所でしましょう」と言って移動を始めてそれに付いていって今に至る。


 シャールとの出会いの事を思い返しながら前を見たセリニが感じとるのは甘い香りだった。


 ――パンケーキ?

 その匂いの大元はシャールが手元に呼び出した紙袋で包まれた食べ物であり、既に食べ始めていた。


「食べたい?」


 セリニの視線に気づくと同時にシャールの手元にもう一つのパンケーキが出現する。


「え……い……いいのですか?」


「三桁は備蓄してあるから大丈夫」


「さ……三桁」


 軽い調子で多量の数保有していることを話したシャールに驚いたセリニであったがその間にパンケーキを渡される。


「い……いただきます」


 折角貰ったのならば食べないと駄目――それと同時に純粋に食べたい気持ちがあったセリニは一口食べる。


「あ……甘くてふんわりして美味しいです」


 現実では感じた事がない食感に感動したセリニはそのまま完食する。

 

「蜂蜜がたっぷり入っているよ」


 そう言いながらパンケーキを食べ始めるシャール。


「ふ……二つ目……ですか」


 その形は食べかけではなく、新品を食べていることを察して思わず口にしたセリニに対してシャールはパンケーキを瞬く間に完食してから応えた。


「ゲームだからどれだけ食べても現実あっちの身体に影響はないからね」


「だから食べたいだけ食べる」


 心底楽しそうに語るシャール。


「わ……解ります」


 セリニは即座にその言葉に同意した。


 ――わたしも……沢山食べてます。

 二日目になってそこそこ時間が経過しているセリニだが既に食事を五回もしていてどれも美味しかった事もあり、その楽しさを心から理解できた。


 しかしそれはそれとしてシャールが自身をこの場に連れてきてまで話したい事がなんなのか気になっていたセリニはその事を――恐る恐る尋ねた。


「その……シャールさんが……話したいことは……何なのでしょうか?」


「とりあえず、昨日の時に考えていたのはもう果たした」


「え?」


 そう語ったシャールにセリニは驚いた。


「昨日……からですか?」


 前日から自身に用事があるとは全く想定をしていないセリニは怯えながら声を出した。


「その……わたし……知らない間に……駄目なことでも……」


 昨日はフィールドを縦横無尽に駆け巡っていた。その間に何かあったかもしれない――失礼なことをしていたかもしれないと考えたセリニの総身は不安で包まれそうになったがシャールは「そういう事じゃない」と穏便な色で語る。


「別にあなたに因縁があるわけじゃなくて、わたしが一方的に興味をもっただけ」


 それを聞いたセリニは安心しながら少し思案――すると昨日の経験からある可能性を推測する。


 ――違うかもしれないけど。

 それは予想で異なるかもしれないと思えたセリニだが――それ以外ないとしてシャールに聞いた。


「あの……もしかして……前日……わたしを見たのでしょうか?」


 口にしたのは昨日、フレンドになったプレイヤー達が共通して自身に話していた内容だった。

 いつもの月影だったら自画自賛な考えだとして思いつくことは決してなかったが――セリニとしてゲームを遊んでいるときに似たような流れが知らない間に起きているかもしれないと脳に過ったことで思い至る。


 ――けど……間違っていたら……。

 しかしながらそんなことがあるのか? そのような疑問も口にしたと同時に頭に現れて――一人で困惑しそうになったセリニにシャールは応える。

 

「そういう事」


 セリニの耳に届いたの自身の言を肯定するものであり、シャールはそのまま言葉を繋げる。


「昨日は三回見た、今日はろ……五回ね、五回目でやっと接触できた」


「ごぉ……五か……五回もですか!」


 見られていた予想はしていたがそこまでの回数とは想像していなかったセリニは目を見開いて驚愕の声を上げる。


「とは言ってもわたしが勝手に見ていただけだから、セリニが気にすることじゃないよ」


 フォローする様子で話したシャールであったがセリニの驚きは治まることはなかった。


 ――ど……どうして……そんなに……。

 自身が二日間でそこまで他者に目撃されているとは想起さえできなかったセリニはどういうことなのかと考えたが――それは無駄足であった。


 ――ぜ……全然……解らない。

 友達である爽陽さやがゲームを遊んでいる所を見て参考にしたりした経験こそあった月影であるが――知らないゲームプレイヤーがゲームをしている場面に遭遇したことは殆どなかった。

 故に見る側の心境を理解するのは推測すら困難であったセリニ。


 ――それにしても……アルーセさんが……話していた通り……ですね。

 然れども――ヘイス・ピュルゴスの中でフレンドから言われた事は紛れもない事実だったと思い知らされるには――剴切がいせつな状況だとセリニは強く認識させられた。


 ――目立たないで……ツインファンタジーワールドを遊ぶのは……もう無理ですね。

 ――わたしは……本当に。

 ――手遅れみたい……です。

 目の前のシャールが知る由もない個人的な事情であったが――セリニは痛感で満たされた色彩の声を――声として出すこともなく身体の中に響かせていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

明日も投稿予定です。

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