第102話 銀髪弓使いは名残から
「でも最初に聞いた時は別人かと思ったんだけどね」
周囲が螺旋階段で覆われた空間にシャールの声が響き渡る。
「別人……ですか?」
――わたしじゃない……人だと……思ったのですか?
アルーセから言われたことが事実であったとシャールを通して気づいたセリニは心臓に刃が突き刺さった心境となっていながらもその声に応えて考える傍らで――別の事にも思考を向けていた。
――わたしを見るの……どうしてなのか……全然解らない。
幾度考えてもツインファンタジーワールドを始めて以降、頻繁に他のプレイヤーの視線が自身に向けられる理由の推測で現れるセリニの結論は――毎回同じであった。
――だけど……見る気持ちは……解る気はする。
他者に興味を持つ事はセリニにも経験があり、それを完全に否定するのは無理なことである。
――ですけど……駄目なことばかりでは……ないです。
だが現時点ではゲームを遊んでいる自身に悪影響を与えていない――それどころかそれが縁となってフレンドが増える事に繋がっている事実もあった。
――だから……気にしすぎるのは……駄目だよね。
そんな事情もある故にそういったこともあると割り切れるように努力しようと思ったセリニは――一先ず目の前にいるシャールとの会話に意識を傾けることにした。
「昨日見た時と髪飾りは同じだけど服装が違っていたから」
「服装……」
言われたことを強く意識したその刹那――
「!」
シャールが何を言いたいのか把握したセリニの顔は真っ赤に染まった。
「あの……その……これは……」
昨日とは全く異なる服装を着ていることは子細を言われずとも把握していたセリニ――なのだがそれを他者から指摘される状況は想定しておらず、目に見える形で慌てる事となった。
その様子を見ると笑みを浮かべたシャールは自身の感想を口にする。
「似合っていると思うけど?」
「え……えーと……」
言われたことに驚いたセリニは恥ずかしさを感じていた。
しかしセリニはアルーセから貰った紺青ウールコートセットをとても気に入っていた。
その為に服と相応しいと言われた事実は嬉しく感じていた。
「その……ありがとうございます……」
言葉尻の音量を小さくしながらお礼を口にするセリニにシャールは話題を振る。
「その服は他では見かけないからプレイヤーのオリジナルデザインでしょ? セリニが作成したの? それとも知り合い?」
「は……はい!」
思考を混乱させながらセリニは声を出すが――それだけでは正しくシャールに伝わらないと察したと同時に冷静になると訂正することにした。
「ご……ごめんなさい……知り合いから……貰いました」
「へえ、そうなんだ」
その内容を聞いたシャールは感心する様子で頷いた。
「寒い地域で着るのに応しい暖かそうな衣装ね」
続いて聞こえたのは説明口調で確信した色彩の声だと間近にいたセリニは思った。
「寒い地域なんですね……ここは……普通の場所かと……」
服装を変える前も変えた後も体感温度に変化を感じないセリニは意外だと思えた。
「そう感じるのはわたし達が憑き人であるお陰」
「憑き人の……お陰?」
プレイヤーの正体である存在の名を聞いて疑問を口にしたセリニにシャールは続きを口にする。
「憑き人は大抵の環境には適応できるみたい、だから暑さや寒さを程よい感じで済まされる、流石にエラ呼吸は出来ないから溺れたりするけど」
「そうなんですか」
――だから……流氷に触っても……冷たくないのかな?
説明されたその内容は地下水路に突入してから感じていた疑問に対する答えになっているとセリニは思った最中にシャールは言葉を向ける。
「地域に合わせた雰囲気――センスがいいみたい、セリニの知り合いは」
――雰囲気……。
――このゲームの世界に?
しかしその言動に含まれた意味が解らずに困惑した。
「雰囲気……ですか?」
それを声としても出したセリニにシャールは反応した。
「セリニは今いる地域が昔はどんな名前で呼ばれていたのか知らないんだ?」
「知らない……です」
聞こえた内容は一切把握していないと瞬時に判断したセリニは素直に明かした。
それに対してシャールは話を続ける。
「知りたい? 自分の手で調べたいなら言わないけど」
と、言われたセリニは一瞬思案した後にシャールに質問をした。
「その……ツインファンタジーワールドのネタバレに……なるのですか?」
言ったと同時に相手を困惑させる可能性が脳裏を駆け巡ったセリニであったがシャールは即座に返答する。
「今とは関係ない昔話、本を読んで判明する裏設定みたいなものだから、ネタバレにならない」
そう言われた刹那に安心したセリニはシャールに自身の気持ちを伝える
「き……聞きたい……です」
するとシャールは含みある笑みを浮かべると同時にある単語を口にした。
「ここは南極」
「な……南極ですか!!」
聞いたことがない地名や大陸の名が聞こえると考えていたセリニは驚きの声を出した。
しかし自身が浮かべた地点とは異なるのではと思い、それを口に出した。
「あの……地球の南極とは……違う南極……ですよね」
「その南極」
シャールの口から現れたのは自身の言動を肯定するものだった。
そしてそこからセリニは今いる世界の土台となっている星の名にも気づかされた。
「でしたら……ここは……異世界とかが舞台じゃなくて……地球が舞台なのですか!!」
プレイヤーが剣や弓を持ち、魔法やスキルを使用してモンスターを退治する。
RPGゲームを頻繁に遊んでいたセリニにとって既に慣れ親しんでいるファンタジーな要素を根幹とした異世界だと思い込んでいた故に驚愕した。
「厳密には――幻想の世界だけど」
「幻想……ですか?」
更に理解に時間が掛かりそうな事を口にしたシャールにセリニは首を傾げる。
「それを話すと更に長くなるから抜きで」
シャールはそう自己完結をする。
――長くてもいいですけど……解りました。
これからの予定は特に決めていない故に別に良いと聞いたセリニは思ったがシャールを尊重することにして、何も言わなかった。
「本に載っている地図はわたし達の現実と同じもので星の名前も地球だけど、それ以外はかなり異なる歴史を歩んでいるみたい」
そう語ったシャールは一度言葉を切る。
そこまで聞いたセリニはある想像が脳裏に奔ると間違いないだろうとして表に出した。
「その……もしかして……何かが大変な現象が起きて……世界の常識が変わってしまった……もしくは滅茶苦茶になった……そのような設定ですか?」
口にした内容のゲームも遊んだことがあったセリニにシャールは言葉を返す。
「そういう設定だね、北極が発端となって、その後世界各地で謎の粒子……後に魔素と呼ばれるものが現れ――それを浴びた生物の姿が変化して巨大化や凶暴化。
その影響は人類側にもあって身体が強化されて魔法や剣みたいなファンタジーな戦いが出来るようになったみたい。
地球環境にも大きな変化を与えていて、その中でも最も大きな変化は南極の気温が急激に上がって人類が住める環境に整ったこと」
「だから……普通に暮らせるのですね」
南極の話を聞いたと同時に人が住むには過酷すぎる環境だと思ったセリニはその話を聞いた瞬間に納得できた。
「けどその名残としてなのか、この地下水路に流れる流氷が他の場所でも見られるらしい」
――だから流氷が……あるんですね。
――南極と……言えば……そうですよね。
ゲームだからと流していた事柄であったが――この世界の事情を聞くと納得できるとセリニは思った。
「名残と言えば、これも名残」
シャールがそう言うと同時に両手に出現するのは二つのパンケーキであった。
その色合いは先に食べた物とは異なる。
「チョコレート味……ですか?」
行動の唐突さよりもその味が気になったセリニに手元にある一つのパンケーキを渡したシャールは何を意味するのか応える。
「作れる料理や売ってる料理も全部、現実で見たことあるものばかりでしょ?」
「は……はい……それは……」
シャールに言われたのはセリニも気になっていたことであったが――話の流れを受け止めて熟思することで――疑問は氷解した。
「この世界が……地球だからですか?」
現実でも住んでいる星を舞台としているから、料理も知っているもので固められている。
考えてみればそれは当然な循環だとしたセリニの言葉にシャールは微笑みながら返す。
「だからだね」
言い終えると同時にシャールはパンケーキを食べ始めた。




