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第100話 銀髪弓使いのダンジョン探索 その9

「美味しかった……です」


 流氷の上での食事を終えたセリニは立ち上がると身体を伸ばしながら前を見る。


「――丁度いいね」


 パネルを呼び出してマップを見るその傍らの視界に広がるのは地下水路の陸路であった。

 

 ――水からだと……上がるのに時間が掛かる。

 ――水面で跳べるようにならないかな?

 ――そしたら……早く上がれる。

 泳いで向かっても問題ないがそれを介せずに渡れるならばそれでいいとしたセリニは手元に弓矢を出現させた刹那に――後ろに跳躍して着地すると疾走――その勢いのまま流氷の端に到達したと同時に水面の上に飛び出した。


「届い……」


 自身の脚力によって陸路に到達して安心したセリニであったが――続くのは驚愕であった。


 ――マウス!

 確認するは――着地地点の付近にモンスターが出現していた事実であった。

 一匹ぐらいならば軽く退けるセリニだが――そう簡単に終わらせられる数ではない。


 ――六体も。

 その数は地下水路で見た中では最大のモンスター数であった――だがしかし跳躍で陸路に戻ると決めた時から着地予定付近にモンスターが現れた場合どう対処するか思案していたセリニの敵ではなかった。


 ――あの方法で。

 跳躍する際に縦方向に力を向けていた為に弓に矢を番えて狙う時間が十分あったセリニは目標の地点に目を向けた一弾指いちだんし――スキルを言い放つ。


「【弓術きゅうじゅつ拡射かくしゃ】」


 放たれた矢は白い輝きを放ちながら分裂。

 六体のマウスは降り注ぐ矢の雨を浴びるが――全員健在だ。

 弓術きゅうじゅつ拡射かくしゃは当たった対象が少なければ威力が上がり――当たった対象が多ければ多いほどに威力が下がるスキル。

 それはスキルの発動者であるセリニも把握している――それ故に続け様にスキルを冷淡な色合いで唱えた。


「【暗影流出・潜穿侵泥せんせんしんど】」


 空間に圧が込められた声が届くと同時にセリニの身を包むは流れ出た黒き影が変化した漆黒の泥――それを全身に纏いながら地面に到達すると同時に泥は地を融解すると銀髪の少女共々地中に沈むと刻印のように黒い点を地表に残す。

 その間にもマウス達は自身に矢を向けた降りてくる獲物プレイヤーに近づいていた。

 だが漆黒の泥と一緒に姿を消すと獲物を見失い周囲に目を向けたその刹那――地表に刻まれた刻印が黒色の妖光を放つと同時に数多の影を噴出――()()のマウスが黒き濁流に呑まれると瞬く間に命《HP》が尽き果て消滅する。

 運よくその濁流から逃れたマウスが二体存在したが――


「――」


 黒き濁流が地に墜ちて消え去る過程の中で現れた銀髪の弓使いが放った矢が突き刺さって――一体が四体の後を追う。

 残された一体が敵を感知して動こうとした矢先にセリニは跳躍して接近すると身体を前の方向に回転しながら靴に仕込まれた短剣を展開――そのまま振り下ろされた刃に切り裂かれて最後の一体も粒子となって消滅した。

 

「戻った場所が鼠だらけ」


 そんなことを言いながら短剣を靴の内側に戻したセリニは先のスキルの使用感を独りでに語る。


「ゲージを二個使うけど……やっぱりいいね潜穿侵泥せんせんしんど


 暗影流出・潜穿侵泥せんせんしんど

 影が変化した泥を纏いその状態で地に接すると十秒の間地中に潜れるスキル。

 地中に潜っている間も移動可能であるが通常の疾走力と比べると四分の一まで下がる。

 そして十秒経過――もしくは使用者の意思によって地上に復帰する際に使用者の攻撃力分の貫通ダメージを与える影を噴出する。


「攻撃を回避するのには使えるけど……最後の影を止めるのは無理だから隠れるには使えないね」


 スキルに関してそんな所感を口にしたセリニにある疑問が過る。


 ――地中にいるときにものが見えたり……移動できるのは……どうしてなんだろう?

 スキルを発動して潜っている間は視界は見上げる形に固定されるが良好で身体も地上での活動よりも鈍くなるが自由に動かすことが可能であった。


 ――その時の……あいだのわたしはどんな姿かな?

 視界が固定されている状況もあって、外から見た自身の姿が解らないセリニは一抹の不安感を抱く――しかしこれまでの戦いで繰り出した使用したスキルの感覚を思い出すと気にしなくてもいい事と感じた。


 ――羽を生やしたり……靴から……舌を出すみたいに短剣を出せる時点で……。

 無造作に仕込み短剣を出現させながらセリニは冷静になる。


「楽しむほうが良いよね」


 そのような変化も今遊んでいるVRゲームの特徴と思案したセリニはマップを見たときに決めていた目的地に向かおうとするが――それを阻む者達が現れた。


 ――スケルトンに……マウス。

 最早セリニにとっては慣れてきた相手が殆どだが奥にいる個体は初めて見る――()()()だった。


 ――巨大なのもいる。

 そのマウスは小型の自動車に匹敵する大きさであった。

 然れども同じモンスターでも個体によって大きさが違うゲームはセリニにとって馴染み故に驚きはない――驚きは別の方向である。


「六体倒したのに――十五体いる」


 現れた個体数はセリニの想像を超えていた。


 ――イベントでもあったの……かな?

 普通でない状況だと予想したセリニであるがその予想は的中している。

 通知が届かない地点でマウスが大量に出現するイベントが発生しており、遭遇したモンスター達はその残党であった。


「悪くない……かな」


 とはいえこの状況を楽しいと思えて笑みを浮かべたセリニが思案するのは――どう戦うかであった。


 ――あのスキル達を……習得する時に現れてくれたら……良かったのに。

 ちょっとした理由から溜息を吐いたセリニに二体のマウスが迫り――迎撃するために銀髪の少女が弓を構えたその刹那――別の少女の声が場に響いた。


「【突撃する戦車アサルト・チャリオット】」

  

 セリニの目の前を疾風の如き勢いで過ぎ去るのは――四足歩行の生き物に曳かれた荷台であり、一人のプレイヤーが乗っていることを確認できた。

 その突撃を受けた二匹のマウスは消滅する。


「な!」


 乱入者が現れるとは思っていなかったセリニが驚く最中に乱入した存在は見事な動きで迂回してモンスター達の群れに急接近した瞬間――魔法を詠唱する。


「【隣滅魔術りんめつまじゅついかづち】」


 乱入者の周囲を迸るは無数の雷撃――突撃と同時にそれを浴びたモンスター達は――二体を除いて蹂躙される。


 ――あのマウスはまだ……。

 突撃だけを受けて仰け反っていた大型の個体は健在であり、それを確認したセリニはスキルを口にする。


「【瞬迅】」


 一度姿を消したセリニが現れた場所は大きなマウスの前であった。

 仰け反りから回復したマウスは目の前の標的に牙を向こうとするが――それ無為とするは弓本体による一撃――それに続くスキルを現わす冷ややかな声色を伴う追撃。

 

「【暗影流出・黒き浸透しんとう】」


 黒い影が集うと同時に横薙ぎに振られた弓の直撃を受けた大型のマウスは消滅する。

 だが戦いは続く。最後のマウスがセリニに接近するが――振り向きながら対処するは応戦の言葉スキル


「【弓術・強撃きょうげき】」


 白き光る矢に貫かれたマウスは粒子となって消滅――場に残るはセリニ――そして。


「あの時からそうだけど戦いの冴え――すごいね」

 

 乱入してきた一人の少女――場の変化はそれだけだが――その変化はセリニに衝撃を与えるには充分であった。


 ――あ……あの……あの時?

 聞いた事がないプレイヤーの声を聞いた刹那に緊張感に身体を支配されて硬直したセリニに――少女は自ずから自己紹介を始めた。


「わたしはシャール――いきなりだと思うけどよろしくね、銀髪の弓使いさん」

ここまで読んでいただいてありがとうございます。

明日も更新予定です。

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