第98話 ▶違う角度から戦おう
「ビドゥ、いきなりなによっ!?」
鬼の子アンジュは苛立たしげに視線をやる。
先ほどの作戦会議によると、ビドゥは今頃Dランクの代表と拳を交えているはずだ。それなのに、彼は助けを求めてきた。
まさかピンチとでも言うつもりか。アンジュは不満げにそちらを見る。
「なっ……!」
否。ビドゥはピンピンしている。イレギュラーが発生したのは、依然意識を失っている唯人だ。隙を突いたのだろう、月尊は彼の肩に手を回して立たせている。ビドゥの元からの撤退を試みているようだ。
ぷんぷんとアンジュは眉を吊りあげる。
「この馬鹿! 唯人の護衛はどうしたのよっ」
「すまねえ、お嬢さん。戦いに夢中でダァトの野郎を守るのを忘れちまってたぜ」
平謝りするビドゥを見て、アンジュはますます機嫌を害していく。
「もういいわよっ。いいから、さっさとアタシのダァトを取り返すのよ! これは最優先事項だから!」
「へいへい、お嬢さんの気の向くままに」
アンジュはビドゥと合流し、唯人の奪還に向けて動く。ぽつんと取り残されたジョーたちは互いの顔を見て、気まずくなって顔を背けた。
そんな彼らの元に、紅色と藍色の着物少女がやってくる。
「あんたら全員無事かっ!?」
「つ、つ、ついて来てください。わたしたちが案内致します、のでっ」
団四姉妹の二人、鳥子と風音である。二人は今回の異常事態を受け、高みの見物に興じていた語り手とマスターから指示を仰いだ。そのお告げをみんなに伝えるべく、こうして戦場の前に現れたのだ。
紅色の着物を纏う幼女こと鳥子は、今一つ状況を掴めていない生徒たちをキビキビと動かしていく。
「はいはい! 健康なやつは怪我人を背負って、一秒でも早く下山するわよっ。この鳥子お姉様についてきなさい!」
「ま、待ってくれよ!」
ヤンキー風の坊主頭……ジョーは納得できないようである。
「お、オレたちはまだ戦えらぁ。だって、そうだろ。オレたちよりずっとキツい思いをしてきた唯人たちが、今も戦場のど真ん中にいるんだぜっ? ……見捨てておけるかよ」
「このドアホがっ!」
ジョーの抱く悲痛な思いを、鳥子はあっさり一蹴した。
「格好つけんじゃないわよっ。あいつらにはあいつらの、あんたらにはあんたらの役割があんのよ! ほら風音、あんたからも何か言ってやりなさい」
そう言って鳥子は、猫背の少女、風音の背をバシンと叩く。あがり症の当人からしたら堪ったものではない。が、姉の言わんとすることは彼女にもなんとなくわかった。
口をモゴモゴさせながらも、風音はゆっくり言葉を紡ぐ。
「つ、つまりお姉ちゃんはこう言いたいのだと思います。……違う角度から戦おう、と」
その場にいる生徒らの視線が風音に向けられ、続けて鳥子に集まる。彼女はばつが悪そうに頭を掻いた。
「……あー、もうっ。作戦の概要を言うわよ。名づけて、超弩級の大作戦っ!」




