第96話 ▶備然、復活ののろし
時は少し遡る。
トロアが桃神郷に宣戦布告をしたことで、あちこちで戦いが始まった。勃発する人間対鬼。
(……さて。余興はこんなものだろう)
アンジュとビドゥがそれぞれの持ち場についたことで、トロアも狩りの体勢に入る。ポイとゴシップから奪ったマイクを放り投げた。
その時である。
トロアの眼前で大爆発が起こったのだ。
彼は推測する。ダイナマイトや爆弾といった類いは見られなかった。と、なると考えられるのは何かしらのからくり。
問題は、誰が使ったのかだ。爆発系のからくりならば、京太郎の『ジェットシューズ』か、ゴーマンの『ミサイル砲台』辺りが候補にあがる。
「……ほう?」
粉塵の向こうに立っていたのは、力を使い果たしたはずの備然。黒コートを後方にはためかせ、手にしたカードを手品みたいにくるくると弄ぶ。
「独守備然……妙だな。今、お前が身につけているのは『第三の目』と『ガンダーラの如意棒』だけだろう。規則違反とはいただけないな」
「黙れ。鬼ごときに善悪を説かれてたまるか」
備然は露骨に顔をしかめる。そこには、普段取り繕っている柔らかな口調などなかった。
「……そんなことより。なぜ、テメェはメインサブ制度を……からくりのことを知っている?」
トロアがこの地に舞い降りたのは、決勝戦の最後の最後。からくりの名前など知っているはずがないのだ。
トロアは優越感に浸るかのように、髪を後ろに掻きあげた。
「決まっているだろう。この目で『視た』のだ。お前たちの闘いも、戦闘スタイルも。最初からずっとな」
「……逐一、桃神郷の情報を送る、内通者でもいるかのような口ぶりだな」
「さて、どうだろう。私が馬鹿正直に話すと思うか?」
トロアはわざとらしく肩をすくめる。わかり切ったレスポンスとはいえ、備然もまた露骨に舌打ちをした。
「今はせいぜい勿体ぶっていろ。もとより、鬼と会話が成立するなどと思ってはいない。……手段は選ばない主義だからな。テメェをぶっ倒し、情報を引きずり出すまでだ」
「フッ……そう来なくてはな。結局、いつの時代も力こそが正義。──そうだろう、独守一族のはぐれ者?」
「ッ!」
それは、備然に対する最大の禁句。文字通りの不意打ちだった。
なぜ、目の前の鬼がそんなことを知っているのか。備然の乱れた思考回路を嗤うかのように、トロアは歪に口元の端を吊りあげた。
「言っただろう。最初からずっと見てきた、と」




