第91話 ▶内なる獣を乗りこなせ
「どういうことですかな? 唯人氏、突然桁違いのパワーを発揮しましたぞ!」
理屈はわからない。ただひとつ確かなのは、なにやら凄い力を手に入れたということだ。そそまでは備然に遊ばれていたが……。
「勝負だ、備然!」
「かかってこい、唯人!」
俺は地を蹴り刀を振るう。『ガンダーラの如意棒』に防がれるが、備然の表情は真剣だった。ようやく、やつと同じスタートラインに立てたらしい。
俺は『磁力バット』を腰元に提げ、空いた左手をポケットに突っ込む。取り出したのは、『魔銃』だ。
バン
撃ちだす弾丸はバレーボールサイズ。先の一点集中型だが、つば競り合いのこの状況では絶大なプレッシャーを生み出す。
「チィッ!」
弾丸を脅威に感じたのか、備然は如意棒を縮めて屈んでみせた。恐るべき身体能力だ。
だが。
気を高めて再び弾丸へと換える。放つのは散弾。戯岩島での追いかけっこと同じだ。いくら俺の心が読めようと、広範囲の攻撃はかわせまい。
「まだまだぁっ!」
間髪入れず、左手を銃からバットに切り替える。『磁力バット』の先端が示すのは、備然の足元。ノータイムで跳躍、オンオフをスイッチして攻撃に転じる。
「的確に……人の嫌なところをついてくるね、キミは」
「勝負ってそういうもんだろ? いかに相手の好きにさせないか。お前風に言うなら、勝ちゃいいんだよ」
酷い言葉だな、と我ながら思う。真津璃が葛藤していた理由も今ならわかる気がする。もちろんその両方が本音だ。本音であり、詭弁だ。
フフッ、と備然は軽快な笑みをこぼす。嫌味でも自嘲でもない、腹の底から出た笑みであるように俺には思えた。驕りだろうか?
「……悪くない答えだ」
備然は耳元の『第三の目』をちょいと触って腰を落とし、『ガンダーラの如意棒』を振りかぶる。
俺も刀と『磁力バット』をぎゅっと握り、腰元の『魔銃』にも意識を向けた。
ふと、決着の時が近いことを俺は悟る。このままみんなの声援に囲われながら、いつまでもこいつと闘っていたい。そんなこそばゆい感情が芽生えた。
負けたくない。だが、この闘いが終わってほしくもない。あまりにも贅沢な二律背反。それでも、やっぱり、その時は必ずやって来てしまう。
「ッ……」
からくりを交えた激しい攻防が続く中、突如として備然の身体が前に傾いた。
終わりだ。俺は刀を握りしめ、備然に向かって振り下ろす。
──間際、やつは胸元から何かを取り出そうとして。
背中に激痛が走った。
俺は備然と仲良くその場で倒れる。訳がわからず悶えていると、三つの声が降ってきた。
『おいおい、トロア。ずいぶん優しいエネルギー弾じゃねえか』
『当然だ。私たちの目的は同士討ちじゃない。この場にいる桃太郎共を殲滅するまでの間、彼には眠っていてもらうだけだ』
『ダァト、アタシ……会いたかったんだからね!』
遠のく意識の中、俺は仰向けになって、見た。
黒い翼を生やした三人組を。




