第92話 ▶宣戦布告
唯人が意識を手放すと同時に、その場にいる全員が理解した。突如フィールドに降り立ち、決勝戦に水を差した何某の正体に。
「鬼だ」「鬼?」「なんで鬼が」
「演出?」「馬鹿な」「でもそれじゃあ……」
観客席を中心にざわめきが広がる。ざわめきは次第にどよめきへと変わり、怪訝な視線がフィールドに集中する。
「お、おっ……と? これはいったい何事ですかな。唯人氏のダウンで決着かと思われた決勝戦、見慣れぬ三人組が闖入してきましたぞ……?」
イレギュラーが発生してなお実況を続けるゴシップ。そんな彼の方に顔を向ける者がいた。三人組の一人、白い髪を肩まで伸ばした細目の青年。
鬼だった。
「な、なんですかなっ? なにゆえ小生を睨むのでしょうかっ」
「マイクを寄越せ」
眉目秀麗な青年は、ゴシップのマイクを奪い取ると流れるように口を開いた。
「催事気分の愚か者どもよ、心して聞け。我々は遠き地、"鬼ヶ島"より参った……王の使い、三連星である」
ピタリ、とそれまで騒がしかった空間に沈黙が降りる。要良を初めとした教員や、運営に扮した忍者も相手を刺激させまいと唇を噛んだ。
その様を見て機嫌をよくしたらしい、トロアの語気が心なしか強まる。
「私たちの目的はただ一つ。新入りの桃太郎を狩り尽くし、桃神郷の戦力を凋落させること。これは我らが繁栄のための──殲滅だ」
その言葉を合図に二人の鬼が動きだす。
命を賭けた戦いが、前触れもなく始まった。
▶▶▶
鬼の襲来に慄いたのは上層部もまた同様だった。桃神郷を攻め込んでくる者は少なからずいるが、その多くは監視員である忍者によって未然に撃退される。問題視されることなく鎮圧されるのだ。
しかし、桃栗祭だけは事情が違った。
「なぜ、よりにもよって今日なんじゃ!」
フィールドを一望できる崖に二人。からくりマスターは顔をくしゃっと丸めた。
年に一度の祭典、桃栗祭。
開催目的は学生のガス抜きやモチベーションの向上など様々だが、重要なことはただ一つ。普段はセキュリティに徹している忍者が、露天商や裏方に回されるということ。
すなわち。
この一日だけは、必然的に防御体制が手薄になるのだ。
激情するマスターの隣で気難しい顔をしている老人、語り手は静かに顎を引く。
「……偶然とは思えませんね。桃栗祭自体は毎年行われている行事ですが、日程に規則性はありません」
「情報漏洩じゃな。幹部級を揃えてきたことから見て間違いまるまい。しかし、乗船前には持ち物検査をしていたはずじゃろう。いったいどうやって……」
「ともかく、起きてしまったことは仕方ありません。事態の収拾に向かいましょう」
「簡単に言ってくれるわい」
「あるではないですか、こういう時のためのからくりが」
マスターは渋そうな顔で髭を掻いた。
「……超弩級からくり、『王ノ主玉』じゃな」




