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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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82/186

第82話 ▶誰のために闘うか

 足を止めたらおしまいだ。逃げる拓郎を追いかけつつ、真津璃は先程の言葉を繰り返した。


「備然のために闘う……」

「ああそうだ。彼は自分の生まれを……独守一族を捨てて闘っている。信念を持っている。その揺るぎない意志を見て、僕は心に決めた。この男の願いを叶えてやりたいと!」


 俺はAランクの仮設テントに目をやった。当然だが備然の姿、ましてやその表情など見えやしない。それなのに、なぜだろう。やつがうっすらと笑っているような気がしたのだ。


 備然と拓郎。こいつらは、俺の思っている以上に親密な関係なのかもしれない。


「いま一度、ハッキリさせておこう。これは友のための闘いだ。キミを、その礎にすることをどうか許してほしい」


 拓郎は己の心境を吐露し、ひたすら『ロビンフッドの悠弓』を引く。無限に発現する光の矢が真津璃に襲いかかった。


「くっ……なんとも殊勝な心がけだな! 私を踏み台扱いすることは……ハァ、いただけないけどなっ!」

 初めこそ退いたり跳んだりでかわしていたが、次第に疲労が溜まってきたのか、真津璃の顔色にも変化が見え始める。


「危なっ……!」

 キンッ


 避けきれない矢は刀で払い、必死に拓郎に食らいつく。無限に生成される矢+当たれば終了必至の痺れ毒だ。タネが割れている分、対応は困難を極める。このままじゃジリ貧だ。


 歯がゆい展開が続く中、真津璃は思わぬ一手に出る。しゃがみ込んで砂利を鷲掴み、先ゆく拓郎に撒き散らしたのだ。

「あああ、しゃらくさい!」


 一見するとヤケクソな手だが、これが意外な効力を発揮。拓郎は咄嗟に顔を覆う。手元が狂ったため、矢の軌道にも大きなズレが生じた。


「今だっ!」

 これをチャンスとみた真津璃はすぐさま攻撃の体勢に移行、突貫した末に刀を振るう。リーチの長さを活かした横薙ぎだ。


「くっ……。計算外の行動をしてくれる」

 弓を盾のようにして防御。直撃を免れた拓郎は、大人しく逃げることに専念する。


 距離が開くと再び弓矢に蹂躙されるはずだ。当然、それを許す真津璃ではない。身体を前に倒すと、全力疾走でフィールドを駆け回り始めた。

 追いかけっこラウンドツーである。


「私は備然が嫌いだ!」

「なっ……真津璃さん、キミは」

「嫌いなんだよ! 目的のために手段は選ばない、っていうあの根性がっ」


 拓郎が口を開こうとしたところで、真津璃は次の動きに出る。瞬きの間に、やつの顔が備然のものに見えたのだ。


「真津璃のからくりだな」

 醍醐が冷静に分析する。

 たぶん、真津璃は試合が始まる直前に『幻影塗料』を顔に塗って、いつでも幻影を見せられるようにしていたのだ。


 看破しさえすれば見え方は普通に戻る。が、その一瞬に気を取られるものもいた。拓郎だ。やつは軽くだが動揺してみせ、足取りに乱れが生じる。


「私は、気に食わないんだよ!」

「ぐっ……。妙な小細工を」


 真津璃はまくし立てるように言葉を吐く。


「だけど! Cランクとの試合を通して私は気づいた。顔の変化(こんなこと)でもしなければ、勝てない闘いがあるということにっ。敗北は信念に対する侮辱だ。だから、私は矜恃を捨てて勝利を取った!」


 間隙をついた真津璃の刀が……()()()の刀が、拓郎の懐を大きく薙いだ。


「桃神郷を訪れてからずっと痛感しているっ! 不意打ち(こんなこと)をしなければ勝てないほどに、私は弱い人間だったと!」


 真津璃のサブからくり、『即席の刀』であった。

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