第83話 ▶使命とプライド
『な、なんとっ。真津璃氏、腰元に差してあったストラップから刀身を召喚しましたぞー!』
召喚。現実離れしたそのワードに思わず笑みがこぼれてしまう。
『即席の刀』は、その名の通りボタン一つで刀身が生える奇襲用アイテムだ。
即席だからと侮るなかれ。その強度は修学旅行御用達の木刀に匹敵する。断つことより叩くことに特化しているという点では、事前に配布された模造刀と一致しているか。
ゴシップはタネをわかっていながらも熱血な実況に務める。
『まさかまさかの二刀流! これには、先ほどまで余裕だった拓郎氏もびっくり仰天ですぞ』
「できることなら、こんな卑怯な真似はしたくなかった! けれど、これはDランクの皆の思いを載せた闘いっ。私一人の闘いじゃないんだ。それでもなおプライドにしがみつくほど、私は自分のことを誇らしく思っていないんだよ!」
「ぐぅうっ!」
真津璃の悲痛な声が響く。その鬼気迫る感情は、劣勢である拓郎が霞むほどだ。
一度崩しさえすれば、後は簡単だ。真津璃は畳みかけるように日本の刀を振りかざす。メインサブ制度の実施により、いまや拓郎の手の内は完全に晒された状態だ。
『ロビンフッドの悠弓』と『紫毒塗料』。いわゆる奥の手がある可能性が無い以上、思う存分拓郎に刀を振るえる。
醍醐が口を開いた。
「おい、これって……」
「フッ、間違いないな」
天地はニヤリと口角をあげ、月尊ちゃんも次第に瞳孔が開いていく。
真津璃の戦法は、拓郎を10カウントで倒すことじゃない。後退する拓郎の背にフィールドの端が迫る。
「押し出し、ですかっ」
フィールド外に相手を追いやること。それが、真津璃の選択だった。
ただの押し出しじゃない。隅に追いやることによって、逃げ道を塞いでいる。拓郎自身そのことには気づいているだろう。しかし、二刀流を難なくこなす真津璃を対処できず、だんだんと追い詰められるのだ。
やるじゃねえか、真津璃。
「これで終わりだ……っ」
「させない!」
後一振りで場外、というところで拓郎は決死の行動に出る。それまで盾代わりに使っていた弓を構え直し、敗北上等の一発を放ったのだ。
痺れ毒を含んだ矢は二刀の間をすり抜け真津璃の頬をかすめる。が、刀の勢いは止まらない。
「っ……! 『虹ノ刻・双』!」
力任せの突貫に拓郎は弾き飛ばされ、ついにフィールドの線から外に出る。真津璃の頬から血が流れているのを確認すると、拓郎は満足げに後ろへ尻もちをついた。決着である。
「真津璃氏、二本の刀で拓郎氏を押し出しですぞー! さあさあ、Aランクはついに大将である備然氏が出陣ですな。真津璃氏に備然氏といえば、この二人、船上で行われたエキシビションで一度闘ったことがありますぞ。真津璃氏はこの勢いを維持できるか見ものですな!」
真津璃が肩で息をしているところに、拓郎は去り際こう言った。
「キミは備然を嫌っているそうだな。はっきり言うが、今のキミでは備然を超えることは到底できない。……だが、矜持と使命を折檻できるようになれば、あるいは、とだけ助言しておこう」
「上からなのは相変わらずだな。……あんたはいったい私の敵なのか、味方なのか?」
「さてな。ただ、僕は意志が強い人間に惚れっぽいだけだ」
拓郎は弓を宙で揺らすと、今度こそ仮設テントへと消えていった。
真津璃は右頬のかすり傷を指でなぞり、気に食わなさそうに顔をしかめた。




