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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
77/186

第77話 ▶馬鹿

 あらすじ:vs心理操作のエース

「あいつは、わかっていても厄介な野郎だ」


 醍醐は、戦場にも関わらずペラペラと喋る蛇乃眼を忌々しげに睨みつける。


「……やり手の政治家やリーダーってのは、演説だけで聴いている人間を()()へと引きずり込むことができる。考え方を操作できるってこった。もちろん、本人はそのことに気づけねえ。軌道修正された道を、自分の意思で歩いていると信じ込んでいるからな」


 聞いたことがある。

 自分は絶対騙されない、と豪語している人ほど詐欺に引っかかりやすいのだとか。それと似たような理屈だろう。正直、よくわかんねえけど。


「身も蓋もない言い方をすれば、"説得力"だな。ムカつく話、蛇乃眼を心理的な面で打ち勝つのは不可能に近い。『心』の『決闘』では負け無しだそうだぞ。それも、からくりを使わずにだ」


「や、やべぇやつじゃねえか」

 もしその話が本当なら、『第三の目』を持つ備然でさえ敵わないということになる。幸い今回のジャンルは『力』だが……。


「……やれるよな、天地?」

 募っていく不安を払いつつ、俺は視界をフィールドに移す。

 相変わらず蛇乃眼は饒舌に語り続けていた。


「ボクたちは桃太郎になるためこの島に来た。みんな立派だよ。いつまでも過去に囚われず、前を向いて復讐に努めている。天地クン。キミのひたむきさに救われた人も、少なからずいるはずだ。……だけど、おかしくないかい? ボクたちはみな、鬼を討ち滅ぼす使命を背負ってこの場に立っている。人間同士で闘うためじゃない。そうだろう」


 なるほどな、蛇乃眼の策が読めてきた。やつは天地の戦意を削ごうとしている。闘いから降りようが降りまいが関係ない。


 会話の主導権を握るつもりなんだ。


「キミも薄々気づいているんだろう? これは、仕組まれた闘いだ。ボクたちが争う必要なんてないんだよ。……正直、無意味に人が傷つくなんてまっぴらだ。もう、終わらせようよ。ボクたちの手で……!」


 蛇乃眼の片眼鏡がぎらりと光る。『女王の片眼鏡(モノクル)』と言ったか。あのレンズ越しに目を合わせながら喋ると、相手の身体を自由に操れてしまうらしい。


 効力は相手の没入感に左右されると言うが、それが本当ならちと不味いぞ。蛇乃眼の話術は本物だ。荒唐無稽なように見えて、納得させるだけの妙な説得力がある。


「さあ、天地クン……」

 引かれちゃダメだ。


「ボクと一緒に行こうじゃないか……!」

 わかっているのに、耳が言葉を拾いあげてしまう。蛇がチロリと舌を出すのが見えた。


 天地……っ!


「さっきから、お前は何を言っているんだ?」


 ……天地?

 やつは困惑したように首を傾げている。


「蛇乃眼薮彦。お前、いきなりどうしたんだ? 俺様たちはバトルフェスティバルの代表っ。闘うことは、もはや抗えぬ宿命なのだ!」

「……あー、えっと。天地クン」


「フッ……皆まで言うな。俺様はいま感動しているんだ。嫌味なやつだと思っていたお前が、まさかそれほど殊勝な考えを持っていたとは。言われるまで気づかなかった。すまない」

「いや、だから。オ……ボクは別に」


「ああ、わかっているとも。お前が闘いたくないことも全部な。けれど、賽はすでに投げられた。もはやその運命を変えるすべはない……。さあ、俺様と闘えっ!」


 ああ、こいつ、馬鹿なんだ。

 そんな絶望的な表情を蛇乃眼は浮かべる。もとより自分本位な天地にとって、やつの心理操作は通用しないらしかった。訳がわからない。が、一番パニックを起こしているのは蛇乃眼本人だ。頭を掻きむしってイライラを募らせているように見える。気持ちはわかるぞ。


 喋るのをやめた蛇乃眼を見て、何を勘違いしたのか。天地は声のトーンを二つほどあげて相手を煽る。

「どうしたどうした! 動かないのであれば、こちらから行くぞ!」

「……もういいや」


 蛇乃眼は吹っ切れたように吐き出すと、軽くその場でストレッチを始める。心理操作は諦めたみたいだな。

 最悪の事態は免れた。とはいえ、蛇乃眼のパワーは先ほども目にした通りだ。下手に突っ込んでやられたら洒落にならない。


「天地、ここは慎重に……」

「うおおおお、覚悟おおおおおおっ!」

 聞いちゃいねえ。ちくしょう、今回はその自分勝手さが表に出たから文句は言えないのがもどかしい。


「キミはさあ、ボクを馬鹿にしているのかい?」

 無策で突撃する天地を、蛇乃眼は羽虫でも払うかのように一蹴。当然の結果だ。


「や、やるではないか……お前」

「ボクはAランクで、キミはDランク。身体の作りからして違うんだよっ!」


 ぐぬぬ、と立ちあがる天地に向けて、蹴りが追撃で入る。冗談みたいな勢いで吹っ飛ばされた天地は、ニッと挑戦的な笑みを浮かべた。

「お前は一つ、盛大に勘違いをしている」

「……なにが?」

「フッ。Aランクだかなんだか知らないが……俺様はDランクの、頂点、なんだよな。前提からして負けるビジョンが見えないのだよ」

「……もうそのハッタリは聞き飽きたんだけど」


 見るからに苛ついている蛇乃眼。やつの切り札、『女王の片眼鏡』を図らずも突破したんだ。内心めちゃくちゃ焦っているに違いない。だったら、攻めるなら今だ。


 天地はお手本みたいな高笑いをあげると、人差し指の先を蛇乃眼のしかめっ面にビシリと向けた。


「さぁてさて。ハッタリかどうかは、その目で確かめることだ!」

 天地がおもむろにポケットに触れると、蛇乃眼は咄嗟に後退する。

 やつが中から取り出したのは、手のひらサイズの単一乾電池。『バリ乾電池』だった。


「その身に教えてやろうじゃないか。Dランク最強が、誰なのかを!」

 77話。唯人の鉢巻と同じ数字ですね。

 もはや死に設定ですけど一応覚えています。

 別に覚えなくてもいいです。

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