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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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第78話 ▶我慢大会

 あらすじ:心理戦から肉弾戦へ

「おおっと、ここに来て試合が大きく動き出しましたな! 天地氏、その手には目立った特徴もない普通の乾電池。怪しげな勧誘こそ打ち破ったものの、力では根負けしているこの現状っ。果たして、起死回生の一手となるのですかなっ!?」


「なる、のですかなぁ……」

「ちょっと不安になるんじゃない。心配するな、唯人。天地なりに策を講じているはずだ」

 真津璃は膝に手を置いてじっと見守っている。

 だといいんだが……。


 肉弾戦では勝てないと判断したのか、天地は『バリ乾電池』を手にした。からくりに頼るのはまだいい。けれど、『魔銃』や『ロビンフッドの悠弓』のような遠距離系でないのは失敗だ。


「『バリ乾電池』って、要は脱法スタンガンだろ? 近距離戦を強いられることは変わらないんじゃないのか」

「投擲物にもならねえこたぁねえが……」

「うう、気張りどころですよ。天地さんっ」


 月尊ちゃんは祈るように視線を向ける。女神の期待を一心に背負うのだ。生半可な策だったら許されないからな。頼むぞ、天地……!


「フッ。見せてやろう、俺様の圧倒的作戦を!」


 威勢よく口火を切ったはいいものの、天地がとった行動は真っ正面からの突撃。本日何回目の絵面だろうか。もはやツッコミの台詞さえ出てこない。


「ふうん、からくりを持った状態での突貫……。キミも芸がないねぇ。これじゃあさっきの二の舞だ。同じ結末を辿るだけだよ」

「ハンッ、事前に俺様は言ったであろう。それが本当かどうかは己自身の目で判断しろとな!」


 ハッタリか。それとも、本当に策があるのか。

 蛇乃眼は一瞬迷ったように見えたが、結局やつが選んだのはシンプルな迎撃。


 地を蹴り、拳を握る。

「場外まで吹っ飛ばしてやるよ!」


 重力感のあるパンチが天地に襲いかかる。

 まさに、その刹那。


「お前は俺様をみくびった。策があろうが問題ないと、咄嗟に判断を下してしまった。その選択はお前を殺す。盛大に悔いて散るがいいっ!」


 一見すると不可解な行動。けれど、真意は間もなくして明らかになる。


 天地は手にした『バリ乾電池』を、()()()()に押し当てたのだ。


「なにッ──」

 タッチの差で拳が追従。蛇乃眼もろとも電撃の餌食となる。

「我慢大会の開幕だああああっ!」


 バリバリバリッ!


 当然エフェクトも効果音もない。が、それを感じさせるほどの臨場感溢れる衝撃だった。


 天地と蛇乃眼。

 前者がとった自傷行為により、結果的に二人仲良く痺れることとなる。


 道連れ上等の心意気で、天地は自らに『バリ乾電池』を振るったのだ。


 そりゃもう、フィールドは阿鼻叫喚の地獄絵図である。


「ワハハハハ! これこそ、俺様の編み出した超絶秘技、『バリ感電()』だぁああ!!」

「ぐぬぬぬぬ! し、痺れて身体の自由がががが」


 身も蓋もない言い方をすれば、誰も得しない我慢大会。

 周囲の反応はドン引きだった。戦術が非難されたわけではない。絵面があまりにアレだったのだ。うるさいほどに饒舌なあのゴシップさえだんまりである。おい、お前はしっかり実況しろよ。


 ビシリ、と蛇乃眼は震える指を天地に向ける。

「あ、あ、頭おかしいのか貴様っ! オレはなぁ……痛いのが大ッッッ嫌いなんだよぉおお!」


 生まれたての小鹿みたいな足取りで距離を取る蛇乃眼。もはや別人だ。

 その証拠と言わんばかりに、さっきまで身に着けていた片眼鏡が――


 ペタペタと蛇乃眼は自身の薄い顔に触れた。

 ただでさえ血色の悪いそれが、みるみるうちに蒼白に変わっていく。

「な、無いっ! 『女王の片眼鏡』が……ハッ、まさか」

「そのまさかだっ」


 天地が今日一番の笑みを浮かべる。その右手には、確かに銀縁の片眼鏡が握られていた。さっきの我慢大会の際、どさくさに紛れてちょうだいしていたようだ。やるじゃねえか。


「…………解せぬ」

「あ? なにか不満でもあるのかよ、醍醐?」


 あえて煽るように訊いてみる。やつはしばし複雑そうな顔をしていたが、やがて吹っ切れたように破顔した。

「ダぁメだ。俺の負けだよ。あれだけ余裕ぶってた蛇乃眼の仮面を、まさか天地のやつがぶち壊すとはな」

「ある意味、あいつにしかできない芸当だぜ。ちゃっかり片眼鏡パクってるしな」

「すごい、すごいですよ! このままの勢いで押しきれますよ!」


 ウキウキと喜ぶ月尊ちゃんに対し、しかし、と真津璃が釘をさす。

「形勢は逆転したかもしれない。だが、ここからどうやって攻めに転じるんだ? あの男……蛇乃眼はフィジカル面においても隙が無い。我慢大会をしようにも、近づくのを拒否されてしまったら……」


「蛇乃眼藪彦よ」

「な。なんだ。寄るな、ボク、オレに寄るんじゃねえっ」

「Dランク頂点に君臨する俺様が、直々に、お前に命じる」

「……お、おい。貴様、なぜ『女王の片眼鏡』をかけている? や、やめろ。貴様ごときに扱えるからくりでは……」


「動くな」


 瞬間。

 痺れと震えのダブルパンチを食らっていた蛇乃眼の身体が、石にでもなったかのようにピシリと固まってしまった。

 先日、余裕ぶっこいて早く投稿したと思ったらこの有様だよ!

 遅れようが毎日投稿は続けていきますので温かい目でお付き合いいただけると幸いです。

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