第76話 ▶決勝戦! vs.Aランク
あらすじ:決勝戦、まもなくスタート!
「さぁ、やって参りましたな! 桃栗祭・バトルフェスティバル、早くも決勝戦。AランクバーサスDランクの闘いが始まりますぞー!」
ゴシップの実況に会場が沸く。
桃神郷の中央にそびえる禿山。中腹に開かれた見渡しのいい平地に、決戦のフィールドは広がっている。
足元が少し砂利っぽいこと以外は特筆すべき点もない、至ってオーソドックスな地形だ。
仮設テントの下、俺はありきたりな感想を口走る。
「……しっかし、すごい人数だな。マジでこの島の全員が集まってるんじゃないのか」
「そうですねぇ。両チームの応援団に加え、敗退したランクの皆さんも駆けつけてくれていますから」
月尊ちゃんは内心のワクワクを隠しきれない様子だ。根っからのお祭り好きなのだろう。後でりんご飴でも奢ってあげよう。
「なるほど……全ランクが注目しているわけか。Cランクのためにも負けられないな」
「ええ。これは、とても重要な一戦です。勝てば全校生徒の前で強さを誇示できますし、弩級からくりも手にできます。だから……」
「つ、月尊ちゃん?」
彼女は手の甲を前に突き出した。そのアクションが示す意味は、俺でもわかる。真津璃と天地、醍醐に目配せすると、月尊ちゃんのそれに被せるように右手を載せた。
小恥ずかしくなるような、体育会系のノリだ。嫌いじゃない。目をつぶって、月尊ちゃんの言葉に耳を傾ける。
「ここまで来たんです。皆さんなら、Aランクであろうと、花歌お姉ちゃんであろうと絶対に乗り越えられるはずですっ。勝ちましょう、あと少しなんですから!」
「おおー!」
▶▶▶
「それでは、運命の決勝戦……先鋒は前へお願いしますな!」
ゴシップの号令で前に出る二人。こちらは醍醐に代わって天地で、相手は憎き蛇乃眼薮彦。ゴボウと呼ぶにふさわしいヒョロヒョロ具合だ。
「ん?」
「どうかしたのか、唯人?」
「いや……あいつ、さっきまであんなモンつけてたっけか」
俺は蛇乃眼の血色の悪い顔を指さす。
やつの右目には、どこぞの怪盗が付けるような片眼鏡がかけられてあったのだ。銀縁で目立った意匠もない代物だが……ただのオシャレじゃないよな、絶対。
真津璃は俺の心を読むかのように言葉を紡ぐ。
「あの片眼鏡、からくりだろうな」
「やっぱり、そうだよなぁ……」
頼むぞ、天地。俺はお前の勘を信じるからな。
ともあれ、幸か不幸か、いきなり弔い合戦開幕である。かたきを討つんだ、天地白夜。醍醐死んでねえけど。
二人が前に出揃うと、観客席からざわめきが起こる。なんだなんだ。と思う間もなく、あちこちから引っ込めコールが湧きあがる。
ブーイングだ。
「なんで醍醐じゃなくて天地が出てんだよ!」
「口先だけのお前が、サシでAランクに勝てるわけねぇだろ!」
「控えは控えらしく日陰で控えてろ!」
批判の矛先は、実力不足を指摘される天地。醍醐が先の試合で大活躍だったために、代打が天地では納得できないのだろう。
やつが以前所属していたCランクの連中はもちろん、同じDランク内からも不満が漏れ出ている。罵詈雑言が飛び交う嵐の中、二人は定位置へと着いた。
天地に向けて、蛇乃眼は嫌らしく目を細める。
「あまり歓迎されていないみたいだね?」
「ううむ、そうだな。さすがに俺様も同情するぞ」
同情。
到底本人の口から出るはずのない言葉に、蛇乃眼は頬を掻いて苦笑い。
「……いや、これ、キミに対するブーイングなんじゃ……」
「んん? 俺様はDランクの頂点に立つ男だぞ。なぜ、俺様が批判を浴びにゃならんのだ。これはお前に対してのシュ……シュポ……」
「シュプレヒコール」
「そう、それ!」
「……調子狂うなぁ、キミさぁ」
まだ試合が始まってもいないのにすでにしんどそうだ。たぶん、これはこれでいい番外戦術なのかもしれない。
真津璃は正座の姿勢で腕を組む。
「……別に、シュプレヒコールではなくないか」
「そこかよ」
まあ、なんだ。とりあえず天地が平常運転で安心したよ。
「さてさて、波乱の幕開けになりそうですな。それでは、バトルフェスティバル決勝戦! 予測不可能な男、天地白夜バーサス……『心』のトップ、蛇乃眼薮彦っ。レディー……」
ゴシップがひとたび口を開くと、首都圏かってくらい騒がしかった声がピタリと止む。静まり返った山の中腹に、開戦ののろしがあがった。
「ファイッ!」
天地が全速力で走り出した。策も何もない、無謀な突貫である。それを、蛇乃眼は言葉だけで止めた。
「まあまあ、天地クン。ボクはキミとお話がしたいんだよ」
「話だと? 俺様の華麗なるサクセスストーリーをか」
「いや、そうじゃなくて」
蛇乃眼は人差し指でモノクルをちょいとあげる。
「……単刀直入に言おう。ボクはね、できることならこの闘いを話し合いだけで終わらせたいんだ」
「ばっ……」
「馬鹿馬鹿しいと思うだろう? けれど、ボクは本気だ。もし醍醐クンが相手なら遠慮なく拳を振るっていた。けれど、キミとボクとが闘う理由なんてどこにもないじゃないか。そうだろう?」
「……始めやがったな」
「なにがだ、醍醐?」
醍醐は殴られた後頭部をタオルで押さえ、顔をしかめる。
「相手を没入させるにつれ、身体の自由を奪っていく……『女王の片眼鏡』。口八丁にしか扱えない……裏を返せば一番蛇乃眼に渡してはいけないからくりだ」
身体の自由を奪う、だと?
テント組が揃いも揃って超視力&超聴力なのは突っ込まないでやってください




