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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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75/186

第75話 ▶蛇の眼を持つ男

 あらすじ:醍醐の負傷に天地が立ちあがる

 それは、決勝戦が始まる少し前へと遡る。


 ▶▶▶


 醍醐が負傷してから数十分後。俺たちは山の中腹にある開けたフィールドへやってきた。


「岩肌の地形……戯岩島を思い出すな」

 真津璃は近くの石ころを拾って弄ぶ。


 ちなみに、襲ってきた連中は俺たちの頼みで無罪放免となった。悪いのは彼らじゃない。彼らを煽って仕向けた黒幕、蛇乃眼(じゃのめ)だ。


 一応彼らの話を聞いてみるも、やっぱり首を傾げたくなるような言い分ばかりだった。

 Bランク代表の動きが鈍かったのはDランクに脅されていたからだ、とか、打ち負かしたCランクを俺たちが雑魚集団と言い回っていた、とか。


 嘘自体は大したことないのだが、そこは集団心理ゆえか。ひとえの情を伝播させ、お互いを焚きつけあっていったらしい。


「心理操作、か……」

「おい唯人」

 天地が俺の脇腹を小突く。


「先客だったみたいだな、やつらめ」

 視線の先には二つの仮設テント。手前が俺たちDランクの本拠地で、奥に建てられているのはAランクが控えるそれだ。


 その中から、二人の人間が顔を出す。備然と拓郎だ。ひとたびこちらの存在に気づくと、彼らはフィールドの線に沿って近づいてきた。


 醍醐をテントで休むよう指示し、俺たちもそちらにゆっくりと向かう。ちょうど中央のライン付近でかち合った。


「よお。備然、拓郎」

「……話は聞いている。あのクズが迷惑をかけたようだな」

「わかってんなら、ちょっとばかしハンデってやつを」

「本当に望むのか」

「そう怖い顔すんなよ、冗談の通じねえやつだな。……だが、今回だけは勝たせてもらうぜ」


 備然は貼り付けられた能面でこちらを見下ろす。今に見てろ、そのポーカーフェイスを破り捨ててやるからな。


 天地が前に乗り出す。

「おい、蛇乃眼薮彦の姿が見えないが?」

「……彼は気まぐれでね。僕たちにも居場所はわからない」


 拓郎はグッとこめかみに手を当てる。確か前会った時も二人しかいなかったよな。蛇乃眼という男には、こいつらも相当参っているらしかった。


「あらあら、これまたぎょーさんやね」

「花歌お姉ちゃん!」

「マドモアゼルっ」

 備然が口を押さえる。その呼び方どうにかならんのか。

 花歌さんはコロコロとお上品に笑う。


「風音んとこに勝ったんやろ? やるやないの、月尊。でも、優勝だけは渡さんで」

「わ、私たちだって負けないからっ」


 長髪ロングのお姉さんバーサス我らが月尊ちゃんというわけだ。しかし、花歌さん。相変わらず独特な雰囲気の持ち主である。さっきまでのピリピリとした殺気が嘘みたいだ。


 Aランクとの挨拶を終えた俺たちは、ひとまず自分たちのテントに戻ることにした。登山と交戦での疲れを少しでも回復しておきたい。


 テントに戻ると、醍醐がヒョロヒョロの男の胸ぐらを掴んでいた。


「おまっ……なにやってんだよっ?! というか、誰だそいつ。Dランクのやつ……ではないよな」

「この男は蛇乃眼薮彦だ!」


 醍醐は声を荒らげる。

対して、フード付きのパーカーに身を包んだ男はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。今ひとつ表情が読めず、目の下にはクマを作っている。気持ち悪いやつだな。


「暴力はよしてくれ、醍醐クン。ボクはキミへの贖罪を果たすためここへ来たんだよ」

「黙れ! テメェのその薄っぺらい戯言に、どれだけの人間が苦しんだと思ってやがるっ」


「蛇乃眼と言ったな。一つ訊いてもいいだろうか」

 真津璃は醍醐の隣に立つ。その目は決して笑っていない。


「なにかな、美少年クン?」

「京太郎君を──襲撃者を煽ったのはあんたか」

「そうかもしれないね」

「そうか」


 ドスの効いた低い声に、思わず背筋が凍る。珍しくめちゃくちゃ怖いぞ。

「あんたが何を吹き込んだのかは知らない。知りたくもない。だけど、少なくとも京太郎君はそれを信じていた。あんたの勝手な私利私欲のために、感情を弄ばれたんだ!」


 本気で怒る真津璃に、蛇乃眼はあくまで飄々と返す。

「悪かったよ。だけど、あれはキミたちを思ってのことだったんだ。許してほしい」

「なに……?」


「耳を貸すんじゃねえ! こいつの吐きだす一言一句は、そのすべてが蛇みてえにうねってやがるんだ。隙を見せたら一瞬で食われちまうぞ」

「人を悪人みたいに言うんだねぇ、醍醐。心外だよ」

「だ、まれ……ッ」


 醍醐はギリギリと歯を軋ませる。相当蛇乃眼に恨みがあるらしい。自身を陥れた張本人なのだ、無理もないか。


「まあ、ここまで這いあがってきたことは褒めてあげるよ。毒虫並の生命力だ。……もっとも、キミは戦力外通告を受けちゃったみたいだけど」


「御託はもう、いい。自分以外の人間をゲームのキャラクターとでも思ってるクソ野郎に教えてやる。テメェみたいなやつは必ず報いを受けるってな」


「はは、そりゃ楽しみだ」

 蛇乃眼は醍醐の腕をあっさり解くと、気さくに笑いながら出ていった。当人と醍醐を除く全員がその馬鹿力に驚く。その細腕からは見当もつかないパワーだ。


「……テメェら、気をつけろよ。あいつはあれでも『心』のトップだ。心理操作なんてからくりを使うまでもねえ」


 息を呑む。

 Aランク出身だからもしやと思っていたが……ううむ。それほどの強者だったのか。


 募る不安をかき消すように、天地はフン、と息を吐いてみせた。

「くだらん。人を言葉で操るだと? そんなことができるわけないだろう。仮にできたとして、俺様にそんな術は効かぬ」


 ……大丈夫だろうか。

 掴みどころのない男、蛇乃眼 登場です。

 桃栗祭の開始時からずっと書きたかったキャラクターなので頑張ります。

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