第71話 ▶進撃の醍醐
あらすじ:筋肉は正義
「決まりましたな! 勝者、大江戸醍醐! 格上のCランクを相手に、破竹の勢いで二勝をもぎ取りましたぞーっ」
「フン。口ほどにもねぇ」
醍醐は強かった。
いや、それは以前からわかっていたけれども。こうして実戦を間近で見ると、いかにやつがシンプルにイカれているかがよくわかる。
醍醐の恵まれた体格を後押しする『マッスルスーツ』。そのスピードに、そしてパワーに相手が追いつけないのだ。まさに鬼に金棒な代物である。
元Aランクだから、で括るのは些か野暮だが、それでも醍醐の進撃は見ていて爽快だった。ガタイよしな桑畑、肥満男増岡をほぼノーダメージで続けて撃破していく。動きも必要最小限。稽古の際、やつはなにかに囚われるかのように特訓していたが……それほどに雑魚狩り狩りが憎いのか?
妙な違和感を覚えつつも、醍醐は十二分な余力を残した状態で大将様と相見える。雑魚狩り狩り。リュックサックを背負ったままの登壇である。
「さてさて、Cランクは早くも大将を残すのみとなりましたな。対するDランクはまだ余力を残しておりますぞ。まさに波乱の展開っ。どうなる次回!」
えらく張り切ってやがるなゴシップ。地味めな隠密戦を盛りあげてくれるのはありがたいけども。
Cランク三人目。前に出るのは、もちろん10歳の眼鏡小僧。不安そうな、陰鬱とした顔でおずおずとフィールドを見渡している。突然ジャングルに投げ込まれた小鹿みたいな絵面だ。
「はてさて。筆舌に尽くしがたい体格差ですが、ここから奇跡の大逆転なるか? Cランク大将、御影京太郎ーっ! 『智』のトップがまさかの参戦。その意地に注目ですぞ!」
俺は胡座をかいて誰ともなしにボヤく。
「わっかんねえな。どう見てもその辺のガキじゃねえか」
「ですが、風音お姉ちゃんがチームの大将に選んだ殿方です。油断は禁物ですよ」
月尊ちゃんは正座をしたまま顔を強ばらせている。圧倒的有利なこの状況でも驕らないとは、ううむ。やはり健気で可愛いな。そうだろう、真津璃?
「いつまで月尊さんを観察しているんだ、アホめ」
「してねぇし。お前も二番手なら醍醐を応援しろ」
「二番手言うな。あんたに言われると無性にイライラする」
「まあまあ、お二人とも……」
月尊ちゃんに押さえられながら、俺たちは視線を前へやる。油断は禁物と言っていたが、はてさてどう出るのやら。
「それでは、レディー……ファイッ!」
醍醐はセオリー通り隠密行動に出る……かと思えば、ノーガードでずんずんと京太郎に近づいていくではないか。
「おいおい、少し大胆すぎやしねえか?」
「いや……相手の出方をうかがう意味では悪くない」
「俺様にはやられに行くようにしか見えねえけどなぁ」
「醍醐さん、油断は禁物ですよーっ!」
各々好き勝手言っていると、間もなくして事態が進展する。拳を握った醍醐が走り出したのだ。距離はおよそ10メートル。にも関わらず、京太郎はまるで動く様子がない。
「醍醐氏、スピードをあげて接近! しかし、京太郎氏は突っ立ったままですぞっ。なにか手があるのですかな?」
ない訳がない。
わかっていても、目の前で起きた事実に俺は驚愕した。
「……断罪」
京太郎がわずかに腰を折ると、次の瞬間にはロケットみたいに自身を射出。その身が醍醐の腹を捉えていた。
「ばぐぁっ!?」
思わず呻く醍醐。なんの予備動作もなく、人型の弾丸が打ち込まれたのだ。きっと、まだ理解が追いついていないだろう。
これには実況兼解説も動揺を隠せない。
「な、なんですかな今の破壊力はっ。人間大砲、炸裂ですぞー!」
人間大砲。
待て待て、なに当たり前みたいに人外じみた技を許容しているんだ。そんなこと可能なのか?
「おい真津璃」
「私に訊くな。……だが、今さっき彼のリュックサックから衝撃が放たれていた。タネはあの背負ったモノだろう」
「慧眼をお持ちで」
天地も興奮しながら真津璃に続く。
「ジェットなブースターだ! あの小物、なかなか男のロマンをわかっているではないか!」
「ううん……。衝撃を噴出するからくりは少なくありませんが、背負うタイプのモノなんてあったでしょうか……」
その場にいる者たちが見守る中、腹を押さえて木陰に隠れる醍醐に京太郎が近づいていく。
追う者と追われる者。先程とは立場が逆転した。たった一撃で、盤面が変わってしまった。
「……お、驚きましたか? ふ、ふふっ」
「テメェ……なにしやがった」
大木を挟んで向こう側。醍醐がグッと唇を噛む。その焦っている様に気をよくしたのか、京太郎は血色の悪い顔を不器用に歪める。
「『空駆リの靴』……靴底から噴射するインパクトによってわずかに滞空することができるからくりです」
「靴だァ?! テメェ、どんな使い方したらそれで人間大砲が出来上がるんだっ」
フゥ、と京太郎は眼鏡のブリッジを押さえる。
「す、少しは考えてくださいよ。お得意の悪巧みはなんのために存在するんですか……?」
「なんだよ……。ガキだと思ったら、ええ? ずいぶん言ってくれるじゃねえか。いいぜ、教えてくれよ。あいにく俺には悪巧みする頭が無いんでね」
京太郎は、自身の背負っているそれを指した。
「リュックサックに組み込んだんですよ。『空駆リの靴』……それも、二足分をね」
①:なんか知らない間に公開になっていたのであげ直しました。
②:今更ですけどフィールドがテニスコートくらいって結構狭いですよね。どこかで修正入るかもです。




