第72話 ▶頭は使うものですよ
あらすじ:人間大砲
「チィッ、ようやく合点がいったぜ。馬鹿みてぇにパワーがあると思ったら……同じからくりを二つ持ちだと? 笑わせてくれるっ」
「い、いつまで笑っていられますかね。あなたみたいな悪人には、懺悔の相がお似合いです……」
予想外の事態になってきた。
雑魚狩り狩りと呼ばれたガキだ、無策でないことは想定済みである。
しかし、まさか。
メインサブ制度が敷かれたうえで同じからくりを被せてくるとは。それも、背負ったリュックサックの中に二つとも組み込むときた。
「そんなのアリかよ!」とは言わない。待ったがかからないということは、容認されているのだ。突っ込むだけ野暮である。
「そんなのアリかよ!」
けれども天地は突っ込んだ。正座中の月尊ちゃんは、可愛らしく唸って顎に手をやる。
「からくりを直接改造しなければ、なにも問題はありません。それよりあの威力です。『空駆リの靴』を加速装置として使うなんて……」
本来なら滞空できるっつー代物なんだったか。よくもまあそれを武器にしようと思ったものだ。いくら人間大砲と言えど、ぶち当たるぶん自分にもダメージは入る。些か捨て鉢すぎやしないか。
なんて思っている間にも人間大砲は止まらない。
「断罪」
「があっ! クソ、次から次へと……!」
ブースターを搭載したリュックサックにより、ジェットパックは縦横無尽に森林のフィールドを飛び回る。逃げても隠れても意味がない。
「に、逃げようとしたって無駄ですよ。悪人はその背に十字架を刻んで生きていくのです。いつまでも、どこまでも消えない深い十字架を……っ」
「だああ、鬱陶しい!」
京太郎の追跡は恐るべき精度を誇っていた。ずっと背負ったままのそれを、まるで自分の身体の一部みたいに操作する。かわしても、かわしても、瞬きの隙に迫ってくるのだ。
「断罪……悪人は、断罪!」
「なんなんだテメェ、さっきからやれ悪人だの断罪だの。人様に自慢できるような人間性じゃねえことはわかってるが、俺がいつ悪人になったってんだ!」
京太郎の瞳がギョロりと見開かれる。
「平気で仲間を売っておいて……よくそんな口を叩けますね!」
間隙を突くような鋭い頭突き。10歳男児の小さな頭が『マッスルスーツ』にめり込む。なんつう破壊力だ。
「テン……メェ。色んな意味で石頭だな。まだガキだってのに、お勉強しかできねぇのかよ?」
「頭は使うものですよ。ぼ、僕に頭で勝とうなんて百年早いです。早急に出直してきてください」
「ハッ……、馬鹿野郎に踊らされているやつがよく言うぜ」
「同じ馬鹿野郎なら踊らにゃ損損、でしょう?」
フィールドの真ん中で二人は語らう。遮蔽物はない。屈する醍醐に、それを見下ろす京太郎。勝負は決したかに見えた。
しかし。
「ああ、そうだな。力尽きるまで存分に踊りやがれ!」
醍醐はポケットから勢いよく布切れを取り出すと、広げてすっぽり全身を覆う。まるで即席のレインコートだ。
それを被ると、あら不思議。
「おーっと! 醍醐氏、姿が見えなくなりましたぞ。まだ奥の手を持っていたんですなっ」
ゴシップが貸してくれたんだろうか。と内心突っ込みながらもガッツポーズ。これで無闇に攻撃できまい。
『閉塞纏衣』。効果はシンプルながらも強力で、周囲から自分の姿を見えなくさせるというもの。
月尊ちゃんはしてやったりと口角をあげる。
「醍醐さんも、『マッスルスーツ』も攻撃特化ですからね。そこにからめ手を加えるだけでも、戦術の幅はグッと広がります!」
ご満悦だ。
が、その笑みは間もなくして瓦解する。
「姿を見せろ……この卑怯者がーッ!!」
京太郎が突如として激高したのである。演技ではない、痛々しいほどの叫び。声変わりもまだな甲高い咆哮が、ビリビリと空気を振動させる。なんだ。何に怒っているんだ、こいつは。
「く、くそっ……お前たちはいつもそうだ。都合が悪くなると途端に惨めったらしく保身に走る。お前みたいなクズは、自分も同じ目に遭わないとわからないんですよ!」
その場でぺこりとお辞儀をすると、京太郎は再び人間大砲を再会した。ドカンドカンとひっきりなしに空中で破裂音が鳴り響く。
「……嘘だろ、あいつ。こんな適当に飛び回っちまったら、自分の身体までっ」
見えなければ、当たるまで攻撃を続ければいい。単純明快ではあるが、『智』のトップにしては少し手段が乱暴すぎやしないか?
急に凶暴化したことも引っかかる。あいつ……過去になにかあったのか?
「断罪ッ」
「がはぁっ!」
不規則にフィールドを飛び回る人間大砲。回避に専念してたであろう醍醐も、とうとう負傷してしまう。おまけに、ヒットした衝撃で『閉塞纏衣』がめくれあがった。
「悪人……見っけ」
それつまり、死を意味する。
「クソッ、俺は負けねぇ! 訳のわからん難癖つけられたまま……やられてたまるかよ!」
「やられるのですよ悪人は!」
言い終わるよりも早く、ジェットパック京太郎は醍醐の腹を突いていた。コンパスの針を垂直に落とすような感覚。京太郎の頭突きが醍醐を捉え、そのままフリーフォールする。
ドォォォォン……。
宙から降ってきた二人は地響きを引き起こす。立っているのはただ一人。京太郎だ。醍醐は、地に伏している。
カウントを取るまでもなかった。




