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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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73/186

第73話 ▶ごめんね

 あらすじ:雑魚狩り狩りの躍進

「大江戸醍醐氏、ここでダウンー! 破竹の勢いを見せた男も後一歩及びませんでしたな」


 Cランクの応援席から歓声が沸く。すでに二人を倒しているとはいえ、まさか醍醐が蹂躙されるとは思わなかった。

 人間大砲、恐るべしである。


「ぐっ……すまねえな、テメェら」

 担架を断った醍醐は、自らの足で仮設テントまで戻ってくる。悔しそうに歯を食いしばっていた。


 そんな醍醐を最初に労ったのは、意外にも天地だった。そっぽを向きつつも口元は弛んでいる。

「フン……まずまずの活躍だったぞ。三人目であるあのガキのタネも割れた。後は俺様たちに任せろ」

「だからおめーは控えだろうが。……だけど、まあそうだよな。使用からくりが二つともわかっているってのは結構なアドバンテージだ。後は真津璃が何とかしてくれるさ」

「あんたもしれっと人任せだな。無論、私は負けないが」


 そう言ってすっくと立ちあがる真津璃。キレる眼差し、腰元の刀。なんだかんだ頼りにしてるぞ。


「真津璃さん」

「なんだろうか、月尊さん」

「あの殿方……京太郎さんは、もしかして過去に」

「ああ。私もそう思う」


 おいおい、なに二人だけで話進んでんだよ? 出陣する真津璃にそれとなく訊いてみる。

 やつは、自嘲気味に笑った。

「これではあの男と同類だな」


 ▶▶▶


 あの子は私とおんなじだ。ちょっと目を見ればすぐにわかる。

 あれは、鬼への復讐を誓った者の瞳だ。


「Dランク二人目は、我孫子真津璃氏! 縦横無尽の人間大砲をどう攻略するのですかな?」


 だが、妙ね。鬼への復讐心なんて桃神郷に来ている者は皆一様に──あの馬鹿は例外として、持っているはずだ。

 どうして、今、京太郎君はあんなに憎しみをさらけ出している? 鬼に向けるそれと同様の怒りを宿しているなんて、よほど彼には許せないことなのかしら。考えられる線は……。


 何者かの陰謀ってことね。


「レディー……ファイッ!」

 確証は無い。いつ、どこで、誰が、どうやって、なんのために、京太郎君を仕向けているのかなんて。わからない、が……。


「ま、真津璃さんでしたね。あなたに恨みはありません。けれども、これは僕にとっての聖戦なのです。全力で行かせていただきます」

「ふん……どうぞご自由に」

 私にはまるで敵意を向けない。醍醐に限定された悪意、ってことかしら。


 なるほどね。

 あのデカブツを快く思っていない誰かが、一矢報いるためにさっきの盤面を用意したのだ。……他でもない、京太郎君を(つか)って。


「では、いきます、よっ――」

「おおっと! 京太郎氏、またしてもジェットパックを活かした人間大砲ですな。弾丸と化した彼が休む間もなく真津璃氏に襲いかかりますぞ!」


 自分の手は汚さず、虎の威を借りて果たすような浅い復讐。それはもちろん腹立たしいけど、目下後回しよ。

 私が今やるべきことは、好き放題しているこの子に灸を据える……これに尽きるわ。さっきから全身に石頭ぶつけられまくっているから結構本気でキレそうなのよね。


「真津璃氏、なすすべ無し! 予測不可能な頭突き攻撃を一方的に食らい続けていますぞー!」

「た、大したことないですね……悪人退治の方がよっぽど面倒でしたよ」


 Dランクの仮設テントから耳障りな声がする。

「真津璃ー! 完璧な戦法なんざ存在しねえ! って月尊ちゃんが言ってるぞ! だからじっくり考えるんだっ。お前なら、なんとか突破口を見いだせるはずだぜ!」


 ……無責任なやつね。けれど、悪い気はしないわ。

 すう、と深呼吸をする。ぶち当たってくる肉塊はスルーだ。


「……突破口、ね。言われなくたって見せてやるわよ」

 私はポケットから『幻影塗料』を取り出すと、中のクリームを手で掬って顔に塗ったくる。迷いを断ち切るように。

 ゆっくりと目を開く。少し集中できたお陰か、やけに視界がクリアに感じる。頭も冴えている。


 今なら見えるはずだ。

 四方八方から迫る、人間大砲の軌道も。

 この方角、このタイミングだ。


「なッ!!?」

 驚愕の表情を浮かべる京太郎君がスローモーションで視界に飛び込んでくる。さぞ驚いていることだろう。


『幻影塗料』。塗った対象を、自分が念じたものに見せることができる代物だ。

 塗った対象……つまり私に対し、私が見えるよう念じたのは、『京太郎君の母親』の姿だった。


 一瞬。

 ほんのわずかな隙だったが、ジェットパックの勢いが弱まる。その一瞬で十分だった。


「ごめんね。……『虹ノ刻』」

 種も仕掛けもないシンプルな居合だ。


 随分と心配されているみたいだけど、私とて策がないわけじゃない。一回きり、だけどとびっきりの宴会芸がある。それが、この作戦。

 じわじわと罪悪感がシミみたいに広がる。


「くっ……い、今、確かにお母さんが……」

「走馬灯でも見えたんじゃないか」


 勝つためには手段を選ばない。

 どこかの誰かさんと一緒だな、これでは。


 まったく。

 個人的に、真津璃のモノローグは男口調がしっくりくるのですが、唯人のそれと被ると判断し、思い切って女性っぽく仕上げてみました。

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