第70話 ▶意地、意固地。
あらすじ:vs.Cランク。誰が最初に出る?
「醍醐……お前、先鋒でいいのか?」
「なんだ、唯人。俺では不満か」
「そうじゃねえよ。けどさ、お前あの雑魚狩り狩りと闘いたいんだろ? もし、あいつが大将だったらどうする。余分な体力を使っちまうし、下手をすればそこまでに負けちまうかもしれねえ」
「俺は、負けん」
あああ、なんだこいつ。なんなんだこいつは。
「おい、真津璃からもなんとか言ってやってくれ」
「私は肯定も否定もしない。己が先鋒として立ちたいのであれば、その意志を尊重するまでだ」
「フッ……諦めるがいい、唯人。この男はきっと自分一人で三人抜きするくらいの心持ちだぞ」
むちゃくちゃだ。天地の言い分を理解できないでいると、醍醐は大きく息を吐いた。
「……まあ、そういうことだ。唯人。テメェはあのガキが大将である可能性を挙げたが、案外先鋒っつーこともあるかもしれねえ。だったら確実に闘れる方を俺は選ぶ」
どこからその自信が湧いてくるのか。と思ったが、醍醐は元Aランク。あいつにも意地があるのだろう。
月尊ちゃんは大きく頷いた。
「結構です。先鋒、醍醐さんで行ってみましょうか。その後ろに真津璃さん、唯人さんということで」
「テメェらの出番はねぇけどな」
「はいはい」
森が開ける。それまでの薄暗い風景から一変、人工的に切り開かれた自然のフィールドが姿を表した。アウトライン周りの草木は刈られてスッキリしているのに対し、当のフィールド内だけは一切人間の手が加えられていない。そのためかなり狭さが目立つ。闘いどころでは無さそうだが……。
「よぉーっ! 頑張れDランク〜!」
「おれたちがついてるぞーっ!」
驚いたことに、観客席はすでにギャラリーが埋めつくしていた。率いているのは坊主頭の応援団長、ジョー。漆黒のジャンパーも相まってわりとそれっぽい。なんだろう、こう、込み上げてくるものがある。
からくりの最終調整を行い、迫る大一番に備える。サラッと俺が大将に据えられていたが、逆に考えろ。醍醐と真津璃が健闘してくれたら俺の出る幕はない。きっとそういう采配なのだろう。
マジな話、Dランク代表といっても内二人はAランク相当の実力者だ。俺は大舟に乗ったつもりで応援に務めよう。
▶▶▶
定刻通り。
ガガ……というノイズの後、音響からハイテンションな声が聞こえてきた。
「あーあー、マイクテスッマイクテスッ。テステスですぞ」
聞き覚えのある声だった。
「さあ、やって参りました桃栗祭名物、ランク対抗戦! 同時進行となる初戦ですが、これより始まるのはCランク対Dランクの『決闘』っ。実況、解説はわたくし、五四二一三の提供でお送りしますぞ!」
お前かよ。
……お前かよ!
「四つのランクが拳を交わす、通称バトルフェスティバル。優勝したチームには、弩級からくりである『ゲニウスの守護神』が授与されますぞ!」
饒舌に司会進行を務めるゴシップ。妙にイキイキしてやがる。
「では、小生の長話もアレですし、さっそく試合に参りましょう! 両チーム、先鋒は前へお願いしますぞ」
ゴシップのせいでいまいち緊張感に欠けるが、これも重要な闘いだ。宣言通り前へ出る醍醐を鼓舞する。
「かっ飛ばせ、醍醐ーっ!!」
「今すぐにでも俺様と交代してもよいのだぞーっ?」
「あんたたち……」
フィールドから少し離れた仮設テントから応援。息子の運動会を見守る親の気分だ。頑張れうちの醍醐ちゃん。『マッスルスーツ』が唸りに唸る。
Cランクの先鋒は、醍醐ほどではないが筋肉の素敵な大男。
「さぁて、フィールドに躍り出るのは大江戸醍醐と桑畑純! 共にパワー系のファイターですな。大江戸は、元Aランクにして多くの舎弟を。桑畑は多くの賞状に囲まれた男。果たしてどちらが勝負を制するのか、いきなり注目の一戦ですぞーっ!」
ぬう。賞状常連とは、それほど格闘技に明るいのか。まだやつの本命である京太郎は出てきていない。最初くらいは景気よく勝ちたいものだが……。
ちょうどテニスの審判席あたりに居城を構えるゴシップ。やかんの水をラッパ飲みすると、興奮気味にマイクを鳴らす。
「両者、出揃いましたな! それでは参ります。メインサブ制度により、使用できるからくりは二つのみ。勝利条件は、10カウントか、相手をフィールド外に追いやることっ」
いよいよ始まる。
バトルフェスティバル、その初戦。
「レディー……? ファイッ!」
火蓋が切って落とされる。
開戦の合図にあわせ、両者同時に手近な大木に身を寄せた。不必要に動くことは体力の消耗を招く。
一進一退。
ひたすら地味な絵面が続くが、醍醐が無策に突っ込むような脳筋野郎じゃなくて助かった。綿あめ食ってる応援団を物欲しそうな目で見ていると、急速にフィールドの戦況が変わる。
「オラッ」
「なっ……?!」
突然、醍醐が自身の隠れていた木をなぎ倒したのだ。いきなりのことに相手は動揺を隠せない。その際に一瞬生まれた隙を縫うように、醍醐は桑畑純に突貫。無防備な土手っ腹に正拳突きを食らわせた。
「うがぁっ……!?」
「重いだろ……? 『マッスルスーツ』の一撃だ。その身で存分に味わいやがれっ!」
続けざまに裏拳を放つ。相手は咄嗟に防御の構えを取るも、強化された筋肉の前では無意味。間に合わずその勢いのまま背の高い木にぶち当たる。素のスペックが高いとはいえ、凄まじいパワーだ。
「いい調子ですっ!」
「いけぇ、醍醐ー!」
Dランクサイドに歓声が沸く。バトルフェスティバルはまだ始まったばかりだ。
はい。遅れました。




