第69話 ▶バトル・フェスティバル
あらすじ:桃栗祭、はじまる。
清々しい朝だった。
空は文句なしの秋晴れで、まさにお祭り日和である。そういえば地元だとお祭りの日は毎年必ず晴れていたっけな。そんなことを今になって思い出す。
朝食をとり、すぐさまツクヨミ荘を後へ。校舎前のどデカい広場はフライドポテトだの綿あめだのの屋台で包囲されていた。昨日の時点で仮設こそされていたが、実際に建てられているのを見ると壮観である。
九時過ぎには開会式が体育館にて行われる。時間までまだ一時間近くある。にも関わらず、広場はすでにお祭り感覚の生徒が結構な数立ち入っていた。今日は授業がないというのにみんな早起きである。ワクワクして夜も眠れなかったに違いない。
桃栗祭が始まるのだ。
▶▶▶
といっても、俺たちに屋台を回る暇などない。「そこの焼きそばキビダンゴ3枚だってよ!」「マジかよぼったくりじゃん!」みたいな会話を、若干羨ましいと思いながらも受け流し、ひたすら身体を動かす。今日まで頑張ってきたんだ、あと少しくらいストイックに行こうぜ。
本番直前だからか、あまり激しい運動をさせられることはなかった。軽くランニングを終えるとすぐに月尊ちゃんは俺たちをツクヨミ荘一階の食堂に集める。四人掛けのテーブルにつかせると、彼女は一人立ったまま最後のミーティングを始めた。
「……いよいよですね。皆さん、コンディションの程は?」
「ばっちりだ。昨日は早めに寝たからな」
「俺様も絶好調だぞ。これは、"貰った"な」
「テメェは控えだろうが」
「全員元気みたいだな、月尊さん」
真津璃の総括に月尊ちゃんは満足げに頷く。
「なによりです! では、手短に連絡を済ませましょう」
ランク対抗戦の開始時刻、開始場所。及び各ランク出場者の対策について最終の打ち合わせを行う。まだ公に出場者は公開されていないが、どこから辿ったのか。ゴシップのやつがリーク情報を掴んでくれた。普段はアレだが、こういう時には頼りになる。
一通りの連絡を言い終えるや否や、月尊ちゃんは「円陣を組みませんか」と提案しだした。こういうスポーツ系のノリが好きなのだろう。俺も、嫌いではない。
右手を月尊ちゃん、左手を真津璃の肩に載せて腰を落とす。
「では、皆さんお一人ずつ抱負をお願いします」
「また急だな、月尊ちゃん。……まあ、言うもでもねえか。Aランクをぶっ倒して優勝してやろうぜ」
「俺様の力を世に知らしめる。それだけだ!」
「……テメェらの出番はねえ。俺が根こそぎぶっ潰すからな」
「あんたら、えらく血気盛んだな……普段通りいこう」
相変わらずのてんでばらばら。むしろ安心するよ。で、それらをまとめるのはやっぱりこの人。
「皆さん素敵です! 私も精一杯フォローします、絶対に優勝しましょうね!」
その一声で、全員の想いがまとまるというものだ。思わず武者震いする。勝ちたい、という漠然とした願望が確固としたものとなる。
目指すは優勝。
一番だ。
▶▶▶
「それでは、これより桃栗祭を始めます。……他に先生から連絡はありますか?」
俺がこの世で最も嫌いな開会式は、わずか五分ほどで終了した。語り手は学生の内心を実にわかっていると思う。
開会式が終わると、その場でランク対抗戦のくじ引きが行われた。『どのランクとどのランクが、どのフィールドで闘うのか』がここで決まるという。
体育館の壇上に団四姉妹が勢ぞろいする。
「わぁ〜、なんか緊張するわぁ」
京美人にして備然の本懐。
Aランク監督、花歌さん。
「はっ! これだけ多くの人を見下せるなんて爽快だわー!」
どう見てもお子様だが、俺より年上らしいぞ。
Bランク監督、鳥子。
「みっ、みんなが見てる……す、すみません。わたしなんかが……」
キョロキョロびくびくと忙しない長髪さん。
Cランク監督、風音。
「みんなー! 盛りあがってるかぁーっ!」
「うおおおーーーーーっ!!!!」
そして我らが勝利の女神。
Dランク監督、月尊ちゃん。
4人が出揃ったところで、中央に置かれた箱から一人ずつ紙切れを引いていく。こればかりは時の運だ。
「えいやっ」
果たして、月尊ちゃん渾身の引きにより俺たちDランク初戦の相手はCランクに決まった。ゴシップの情報によれば、雑魚狩り狩りの天才少年 君が所属するチームらしい。
Aランク対Bランク、Cランク対Dランク。
対戦カードが決まると、続いて『決闘』のためのフィールドだ。対象は、桃神郷における『力』の全フィールド。語り手がダーツボードに矢を投じ、俺たちの闘う場所が次々に確定していく。
「……まあ、無難なところね」
真津璃がポツリと呟く。
初戦に選ばれたのは、森林のフィールド。広さ自体はテニスコートくらいだが、樹木や背の高い草が生い茂る天然のバトルフィールドだ。
開始時刻は、今からおよそ一時間後。さっそく作戦会議だな。どうやって試合を組み立てていくか考えるのだ。
くじ引き終了後、その手のことに精通しているゴシップを頼ろうと思ったが、なぜだかそのままふらりと消えてしまった。肝心な時にいないんだよな、あいつ。
仕方ないので、指定の森林フィールドに向かう道中、作戦会議を行うことにした。鬱蒼とした森の中を一列に進む。
相手は、醍醐が目の敵にして……いるかは微妙だが、とにかく雑魚狩り狩りのいるCランクだ。
最初の議題はチーム編成。まず、誰が先鋒として出るか。
開口一番、当の醍醐が高らかに宣言した。
「俺が行く」
お祭りがはじまる前の、あの独特な空気感を描写するのが苦手です。お祭りは好きです。わりと。
※ 今回より19:00 ▶ 21:00更新となります。
さすがに限界を感じました。すみません。




