第68話 ▶「戦場で」
あらすじ:醍醐、雑魚狩り狩りに迫る!
「見つけたぞ、ガキ。探すのに手間取らせやがって」
「……誰ですか、あなた?」
「テメェに名乗る筋合いはねぇ。が、いずれ拳をぶつける仲だ。特別に教えてやる。俺は醍醐。さっきはゲンが世話になったな」
「……さっきの、怖いお兄さんのお仲間ですね?」
「まあそんなところだ。なに、喧嘩しにきたわけじゃねえ。テメェに話しておこうと思ってな」
「ぼ、僕に話したいこと、ですか? ごめんなさい。ちょっとなんのことか……」
「演じる必要はねえよ。テメェ、対抗戦に出るんだろ? だから挨拶に来たんだ。雑魚狩り狩りを狩ってやるってな」
「……そうですか」
「個人的な恨みはねえよ。ゲンの敵討ちでもない。これは、宣戦布告だ。……戦場で会おうじゃねえか」
醍醐は踵を返すと、すたすたとその場を去る。
…………本当に話し合いだけで済ませちゃったよ。黙って見てたが、いつ胸ぐら掴みにかかるかヒヤヒヤしてたのに。わりと理性的なんだな。
さて、いつまでもストーカーしているわけにはいかない。俺たちは、表向きには特訓を続けている手はずなのだ。月尊ちゃんにバレて怒られる前に退散するとしますか。
ずいぶん遠くまで来てしまった。駆け足気味に先を急ぐ。
他のランクはどんな風に稽古してんのかな、とぼんやり考えていると突然後方を走る真津璃に押し倒された。意味がわからず、俺は声をあげる。
「な、なんだよお前急に」
「あれを見ろ。私が止めなきゃあんたは今頃情けない悲鳴をあげていたぞ」
真津璃に指された方を見る。十メートルほど先の地面に一本の矢が刺さっていた。致命傷にはならなかっただろうが、万一当たった時のことを考えるとぞっとしない。
「どこからこんな物が……」
「天啓だな! 一寸先は闇、と神は言っているのだろう」
天地の適当な返しにイラッとしながら、矢の飛んできたであろう方向に目をやる。背の高い男が青ざめた顔で走ってきた。
「だ、大丈夫か! 怪我人は……ってキミたちだったか」
遠距離攻撃型からくり、『悠弓のロビンフッド』を手にした真面目ちゃん、拓郎である。矢の時点で薄々そんな気はしていたよ。
どっこいしょ、と俺は真津璃の肩を借りながら立ちあがる。
「怪我人はいねえよ。気にすんな」
「そうか、ならよかった……。彼と模擬戦をやっていたのだが、流れ弾が出てしまってな」
「彼?」
誰ともなしに返事をしていると、彼が、いや、やつがやってきた。黒いコートをはためかせ、濃淡のない無機質な表情。独守備然。
「ふむ、戯岩島で弩級片手に逃げ回っていた男だな」
天地がポンと手を鳴らす。悪意の塊みたいな言い回しだな。事実だし、もっと言ってやれ。
「ああ、備然。さっきの矢だけど彼らを掠めてしまったんだ」
「そうか。惜しかったな」
「ああん?」
「ちょっと、唯人」
備然は俺たちを一瞥する。
「さっさと戻るぞ、拓郎。これ以上は時間の無駄だ」
「へえへえ。言わせておけば。お前はそんなに有意義な時間を過ごしてんのかよ?」
「花歌のため、そして、自分のため。私もこう見えて必死なのだ。……それで、キミたちはこんなところでなに散歩を興じている? 残された時間は、一瞬たりとも無駄にはできないだろう」
「……そう、だな」
くそっ、ぐうの音も出ない。いきなりもっともな話をすんじゃねえ。嫌味を言え。お前は人を煽っている瞬間が一番輝いているんだからさ。
備然はフゥと息を吐くと、翻って歩きだす。
「稽古を続けるぞ、拓郎。いつまでもだらけているとあのクズが伝染る」
「なっ、てめっ。いくらなんでもクズはねえだろ!」
「キミのことじゃない。それとも、自覚があったのか?」
「うっ……」
言葉を詰まらせていると、拓郎が「すまない」と頭を下げた。
「備然が言っているのは、僕たちの仲間のことだ。少し……いや、かなりちゃらんぽらんな人間でね。どうか気を悪くしないでやってくれ」
「喋りすぎだ。こいつらは、私たちの敵だということを忘れるな」
「はいはい。……では、僕たちはこれにて。本当にすまない」
拓郎の一礼を最後に、やつらは元きた道に消えていった。
間もなくして、宣戦布告を終え、帰ってきた月尊ちゃんに見つかりました。ぷんすか怒る姿も可愛らしい。横にいた醍醐には盛大に睨まれた。
わかってるよ。俺もちょっとばかし火がついた。真面目にやろう、後腐れのないように。
▶▶▶
その日からさらに厳しい特訓が始まった。サボっていたお仕置というわけではない。俺たちが自ら希望したのだ。真津璃も、醍醐も、……天地は微妙だが、賛同してくれた。そんなわけで自分たちを追い込んでいく。
朝練が決まった。
それまでの一時間前に起床、運動部ばりの早朝ランニングをこなす。眠い目をこすりながらなので非常に辛かったが、終わった後には月尊ちゃんお手製のおにぎりが差し入れられた。飴と鞭の使い分けをよく理解していらっしゃる。
助っ人が現れた。
誰って、ツクヨミ荘の胃袋を握る食堂のおばちゃん……オンバである。エプロンが浮き出るほどのムキムキぶりだが、それはけっ見掛け倒しではなかった。俊敏なステップ。剛腕の破壊力。人間をやめているとしか思えない。もうこの人に出場してもらった方がいいんじゃないかな。
決戦前夜。
験担ぎにと月尊ちゃんがカツ丼を奮ってくれた。Dランクの仲間からも応援の言葉がかけられる。絶対に優勝して、月尊ちゃんを喜ばせてやろうぜ。対抗戦壮行会は大いに盛りあがった。終わった後は身体を休めるべくすぐに床に就かされたけどな。
かくして。
桃栗祭がやってくる。
はじまりはじまり。




