第67話 ▶雑魚狩り狩り
あらすじ:アニキぃ
ハチと呼ばれた三下風の男は、金髪のモヒカンを撫でながら苦悶の表情を浮かべる。
「アニキぃっ……! そ、そこでゲンのやつがボコボコにされてたんすよっ」
「ゲンが? おいハチ、案内しろ」
待て待て。なに勝手に任侠ワールド展開してやがんだこいつら。シックスパックを惜しみなく見せつけてくるアニキとか嫌だよ。『マッスルスーツ』脱いで喋りやがれ。
特訓を中断されて困惑しているらしい、月尊ちゃんが任侠ワールドに待ったをかける。
「あの、どういう状況ですかこれは?」
「俺の仲間が襲撃にあったみたいでな。悪いが、少しばかり様子を見に行かせてもらうぞ」
「襲撃、ですか。桃神郷で暴力行為は禁止されているはずですけど……」
と、なると答えは一つだな。
「『決闘』に負けただけだろ、そいつ」
「と、とにかく来てくだせえ! あのゲンが……あんなやつに負けるはずねぇです」
モヒカンのハチは頑として譲らない。面倒なことになったが、とりあえず行ってみるしかなさそうだ。
「月尊、頼む」
「……わかりました。今回は特例ということにしておきましょう。ハチさん、案内してもらっても?」
「う、うっす!」
よしきた。
「真津璃、天地、俺たちも行くぞ」
「唯人さんたちは対人を続けてください」
「えっ」
緩急のない声でサラリと奈落に突き落としてくる月尊ちゃん。く、クレイジーだぜぇ……。
醍醐とハチは、月尊ちゃんを連れてツクヨミ荘の前の丘を下っていく。姿が見えなくなったところで、俺たちはそれぞれの顔を見る。
「……よし。じゃあ、追うか」
「唯人ならそう言うと思ったよ」
「フッ、無論だな。俺様の鉄拳がうずくぜ……」
正直言ってどうでもいい。だが、だからこそ気になってしまう野次馬根性だ。サボりたかったわけではない。断じて。
▶▶▶
二分ほど走った先で三人は足を止めていた。
俺たちは都合のいい大樹に隠れて様子をうかがう。……アフロだ。三人の前に、アフロの男が倒れていたのだ。相当強くやられたようで全身がぷるぷると震えている。
やつの肩を醍醐が叩いた。
「おい、ゲン。いつまで愉快に眠ってやがる」
「あ、アニキ……。来てくれたんですね」
「なにがあった。手短に言え」
ゲンとかいうアフロは唇を噛むと、おとなしく語り始めた。
「……カモを見つけたと思ったんすよ。いかにも弱そうで、オドオドしている眼鏡の男を。そこでおれはすかさず『決闘』を仕掛けやした。賭け代はキビダンゴ30枚」
大きく出たな、と真津璃が声をひそめる。同感だ。あいつがキビダンゴを何枚持っているかは知らないが、それでも30枚は相当な大勝負だ。よっぽど勝つ自信があったのだろう。
「結果は見ての通りでやんす。あのガキ、注意すべきは頭だけだと思ってやしたのに……」
頭のいい、ガキ。どうにも聞き覚えのある特徴だ。思い当たる節があったのだろう、醍醐も慎重に口を開く。
「おいゲン、もしかしてそれ」
「アニキもご存知かと。入学当初、『智』のトップだとかなんとか言われてたガキでやんす」
ビンゴだ。パッと名前が出てこないが……なんだっけか。刑事みたいな名前をした……そう、御影京太郎だ。船上のエキシビションで見た、10歳の天才。
醍醐は呆れたように声を漏らした。
「なにガキに喧嘩売ってんだ、テメェ」
「返す言葉もねえです。雑魚狩り狩りの話は耳に挟んでいたつもりだったんでやんすが……」
「雑魚狩り狩り?」
「ご存知ねえですか? カモだと思って『決闘』を挑むと返り討ちにされるっていう、ちょっとした噂です」
難しい表情を浮かべる醍醐。俺も同じような顔をしていると思う。聞いたことがない。が、おびき寄せて食らうという戦術はなかなかクレバーだ。人によっては弱者の味方に見えるかもしれない。
それを、ひ弱そうな10歳のガキが行っていると? ううむ、末恐ろしい話だ。
「ガキの居所はわかるか?」
「アニキ……! おれなんかのためにっ」
「おい、勝手な期待は抱くなよ。俺はあくまでそいつに言ってやりたいだけだ。桃栗祭でのランク対抗戦を楽しみにしている、ってな」
「ランク対抗戦、っすか?」
モヒカンことハチが横槍を入れる。醍醐は、「ああ」と短く頷いた。
「能ある鷹はなんとやらと言うが、そのガキが弩級からくりを手にするチャンスをみすみす逃すとは思えない。雑魚狩り狩りの噂もこうして広がっている。もはや正体を明かしたとしてたいした痛手ではない。……ほぼ確実に、やつは対抗戦に出てくる」
「な、なるほど!」
「だったらそこで打ち勝つまでだ。ゲン、包み隠さずすべて教えろ。やつがどういう人間で、どんな戦法を取るのかを」
醍醐はハチとゲン、ついでに月尊ちゃんを囲んでニヤリと不敵に笑ってみせた。
「雑魚狩り狩り、狩りだ」




