第66話 ▶アニキ
あらすじ:メンバー決定
真津璃、醍醐、俺(あと控えの天地)がそれぞれからくりを一つしか持っていなかったため、ゴシップがお気に入りの中から各々に合うものを厳選してくれることになった。
とてもありがたい。
Dランクの多くはまだからくりを買えていないため、コレクションを抱えているゴシップが「ヤベェ」やつだということは暗黙の了解となった。ある意味備然よりも敵に回したくないタイプである。
そうそう。ジョーが率先して『磁力バット』を献上してくれたので、使用経験のある俺が借りてみることになった。借り物貰い物ばっかだな、俺。
かくして、翌日より勝つための猛特訓が始まった。午前中の授業が終わるとツクヨミ荘の前に集合。天地を含めた四人でひたすら身体作りに興じる。ストレッチにランニング、なんとも古典的なやり方だ。けれど、月尊ちゃんのシゴキならいくらでも受けていられるというものだ。
「天地さーん! まだ五本目ですよー!」
「ゼェ……ハァ……お、俺様に基礎体力など不要だと強く説きたい……っ。なぜなら、俺様はDランクの頂点に立つ男だからだ。おええ」
「フン。所詮口だけの最強などその程度ってわけだ。テメェにはやはり控えがお似合いだ」
「んなっ、なっなっ」
「あんたたち、もう少し仲良く走れないわけ……?」
「切磋琢磨ってやつだろ。ほっといてやろうぜ」
とはいえ、苦しいことに偽りはない。どれだけ根性論を振りかざしても、溜まる疲労感は本物だ。こんなに辛いのは桃神郷に来て初めてかもしれない。
「はーいっ! 皆さん今日も一日お疲れ様でしたっ。夕食をとったらまた対人の続きからいきましょうね!」
雲一つない虚空に燦然と輝く、満月のような労いの微笑み。それを一目見たら胸のモヤモヤなんて吹き飛んでしまう。
前向きに考えるんだ。ようやくそれっぽいパワーアップを果たせるのだと。
さて。
事が起きたのは、特訓が始まって一週間が過ぎようとしていた頃。その日も俺たちは月尊ちゃん監督のもと稽古に励んでいた。今やっているのは、実際の『決闘』を想定した模擬戦……対人だ。
「オラァッ、どうしたどうした唯人ォ!」
「でっ! 加減しろよ馬鹿野郎っ」
俺の相手は、元Aランクこと醍醐。ただしひよこちゃんのシャツではなく、お手本のように割れた筋肉をそのまま貼りつけたようなパワードスーツ。以前醍醐が言っていた『マッスルスーツ』だ。肌色成分が強いが、嬉しくない。
「防戦一方だな、そんなんじゃいつまで経っても俺には勝てねぇぞ!」
「うるせえな。だったら見せてやるよ……っ!」
醍醐の拳をギリギリまで引きつけたところで回避、すかさずやつの後ろに回り込んで、
「『魔銃』!!」
シュート。歯を食いしばり、最大限の生力を一発の弾丸に換える。今、醍醐が立っているのはフィールドの端の端。至近距離からの『魔銃』を喰らえばそのまま一気にフィールドの外だ。
放たれた魂は醍醐のデカい図体にめり込み……。
「考えていることが見え見えだ、アホめ」
めり込まない。普通の人間ならわかっていても避けられないような体勢から、醍醐はぬるりと回避してみせたのだ。
「はぁっ……!?」
我ながら頓狂な声が漏れる。次の瞬間、ぐらりと俺の身体が横に倒れた。醍醐になにかされたわけではない。『魔銃』の副作用で全身の力が抜けたのだ。
う、動けねえ。
顛末を見ていた真津璃は、フィールドに入ると呆れ顔で倒れている俺の顔を指でつついた。
「あんた、さっき全力で撃ったろ。ボロボロじゃないか」
「ぐ、ぐうう。やめろ。人の頬をつんつんすんじゃねえ」
金縛りとインフルエンザを併発したかのような凄まじいダルさである。どんな体勢でも辛い生き地獄だ。威力を調整できることがわかったのは収穫だが、その代償が大きすぎる。
なんとかして起き上がろうとしていると、後方から男の叫び声が聞こえてきた。
「アニキぃ〜!」
三下っぽいいでだちに三下っぽい台詞回し。
みるからに三下だ。……で、誰がアニキだよ。
「おう。どうした、ハチ」
醍醐が答えた。
……お前アニキ?




