第61話 ▶激動する9月1日
あらすじ:無事Dランク確定
9月1日。
なんとかDランクを維持できた俺たちは、スッキリした心持ちで朝を迎えることができた。あくびをして、服を替え、階段を下りて食堂に向かう。いつものルーチンワークだ。澱みない気持ちで食堂の扉を開く。
「……なんか、いつもより少なくねぇか?」
「そうだな。普段、私たちが来る時間帯ならほぼ満席になっているはずなのに」
ぼうっとその場で立ち尽くしていると、月尊ちゃんが声をかけてくれた。
「皆さん、一度ご自身のお部屋に戻られたのですよ。ほら、今月のランクが発表された訳ですし」
「なるほどな」
俺は月尊ちゃんから一枚の紙を受け取る。そこにはAからDまで、今月分のランクが詳細に書かれていた。成績発表やクラス発表を思い出す。
ドキドキした思いで、念のため自分の名前を探してみる。下から二つに俺と真津璃のものが記されていた。所持枚数こそ書いていないものの、最下位だぞお前らと言いたげである。
「……唯人。気づいたか?」
「気づくもなにも最下位じゃねえか俺たち」
「そうじゃない。問題は生徒全体の数だ」
「なんだそりゃ? もっとわかりやすく言いやがれ」
真津璃はしばし押し黙ると、意を決したように言い放った。
「……生徒総数を見ると、87だった」
「数え間違いだろ。生徒数は100人って言ってたじゃねえか。いや、初日に違反行為を働いたやつがいたから99人か」
はぁ、と真津璃はため息をつくと、急に俺の頬をつねってきた。
「いでででで! いきなり何しやがるっ」
「まだわからないのか? たった一ヶ月で、13人もの人間が退学になったってことだ。持っているキビダンゴが0枚になってな!」
「……マジかよ」
薄々予感はしていたが、ひと月目からそんなにごっそり減るとは思わなかった。初期枚数が10で焦りが出たからだろうか。わからない。ただ、わずか30日で全体の1割が姿を消したことは事実。明日は我が身である。
「……あのぅ。盛り下がっているところ申し訳ないのですが、連絡事項が二つほどありまして」
「いいニュースと悪いニュースだぞ、真津璃」
「そうか。じゃあ悪い方からお願いしたい」
「いや、別に良し悪しはないんですけどね? 一つ目としては、引越し期間についてです」
引越し期間? 二人同時にオウム返しを披露する。
「ええ。ランクが変動すると、拠点とする寮も変わってしまいますよね。ですから、各月のついたちは引越しに専念する日となっているんです。人によっては荷物を運ぶだけで一日が終わってしまいますからね」
どんだけ切羽詰まってんだよ。部屋に図書館でも開いてんのか? ……だが、確かに「せーの」で引っ越さないと、凄くややこしいことになりそうだ。
「それで引越し期間か……。まあ俺たちには関係ないよな」
「そうでもないですよ。ついたちは授業が全部お休みになりますからね」
「えっ! そうなのか?」
「昨日、先生言ってたけど……」
真津璃の視線が痛い。もしかしたら寝ていたのかもしれない。記憶にございませんね。
「だが、授業が休みなのはありがてえな。久々のオフだ。せっかくだし新しくDランクになったやつらを迎え入れようじゃねえか」
「まあ、そのくらいしかやることはなさそうだな。引越しとなると、闘ってくれる人も限られてくるだろうし」
それと、と月尊ちゃんは話を続ける。
「二つ目に、『決闘』における新しい制度についてです」
ほう? 俺たちは前のめりになって月尊ちゃんを見つめる。聞き捨てならないな。
「まず、ひと月目まで、『決闘』ではからくりを上限なく使うことができました。それが、二ヶ月目以降はメインとサブ。一回の『決闘』につき二つだけしか使えない縛りがつきます」
「えっ……?」
真津璃が驚愕するのを横目に、月尊ちゃんは続ける。
「理由として、からくりの所持数は日に日に増えていくからです」
ううむ。そういえば戯岩島でもからくりを持っている連中が結構な数いた。最初は存在すら認知されていなかったのに、凄まじい伝播速度である。そして、からくりの所持数は月尊ちゃんの言う通り、これからも数は右肩上がりに伸びていくだろう。
「そうなると数の暴力になっちゃいますよね。からくりの貸し借りもできる以上、闘いが極端にインフレしてしまいます。それを踏まえた上で、メインとサブ。使用できるのが二つに限るという新制度が明日より施行されます」
それと、と月尊ちゃんはいたずらっぽく微笑んでみせた。
「この制度を施行する理由は二週間後の桃栗祭にあります」
使用できるからくりが二つに制限される?
メインとサブ?
そして、桃栗祭?
まったく。引越し制度の次はからくり制度か? 一回じゃ消化できないな。一つずつ噛み砕いて、月尊ちゃんに説明してもらおう。
遅刻しました。ほんとすみません。




