第57話 ▶これからのこと
あらすじ:グッバイ破壊神
ぎりぎりの死闘の末、課外活動は弩級からくりの破壊という結果で幕を下ろした。
ところ変わって最初の砂浜。照りつける日が反射して尋常じゃないほどに暑い。なぜ、こんな海の景色がちょっと綺麗なだけの空間で待たされにゃならんのだ。この世で最も不要なのはイベント事の閉会式だと思う。二番目は開会式だ。
「よお、唯人。元気そうじゃねえか」
「お前もな」
誰かが俺の肩を叩く。振り向くと、きりりとした目つきのジョーが『磁力バット』を背負っていた。どうでもいいけど、顔中に絆創膏が貼ってあるとヤンキー君にしか見えねえな。
「なんにせよ、あれだな。みんな無事でよかったぜ」
「無事……なのかねぇ」
チラリと周囲を一瞥。かすり傷程度のやつが大半だが、腕に包帯を巻いたりまだ意識が戻らないやつもいる。
「……真津璃」
「やはり、やつも限界だったのだな」
俺の呟きに引かれたように、天地がゴーマンを連れてやってきた。そういや同胞なんだっけ。
「おい天地。やはり、って?」
「真津璃は宝物部屋につくまで俺と行動を共にしていたのだ。その道中、少しばかり厄介なトラップに遭遇してな。表には出さなかったが、精神的にそこそこ疲弊しているようだった」
なるほど、と頷き先を促す。
「そこから間髪入れずに追いかけっこが始まったからな。精神・肉体共に消耗しきってしまったのだろう」
洞窟を出てからも進んで備然のサポートを行い、俺には一喝を入れてくれた。疲れが招いた結果ということか。無理させちまったみたいだな。
「まあ、なんだ。真津璃のやつは要先生が送ってくれるから問題ねえ。それより意味わかんねえのが、あいつだよ」
俺は視線だけでそちらを指す。独守備然。さっきまで倒れていたくせに、もう復活して砂浜に突っ立っている。コート暑くねえの?
うんうん、とゴーマンは腕を組む。
「二人ともよく闘ったのである。強いていえば、最後まで余力を残さなかったのが敗因であるな」
別に負けてねえけどな。
「というか、お前は余力を残しすぎだよ。いいところだけ持っていきやがって」
「ワガハイはヒーローであるからな、至極当然のことである。言ったであろう? ヒーローは最後にやってくると」
バッハみたいなくるくるヘアを、ゴーマンは我が子のようにぬるりと撫でる。こんなヒーロー嫌だよ。いや、助かったことは事実だけども。
「他の連中は調子どうだ? ……そういえば、ジョー。ゴシップは一緒じゃねえのか」
「ああ、大将な。なんか弓矢背負ってるガリ勉と人あたりの良さそうな糸目の男を連れてどっか行っちまった。オレも行きたかったんだが、ほら、手当て受けなきゃだったからな」
見かけによらずアグレッシブなやつだな。きっと情報屋としての血が騒ぐのだろう。
噂をすればなんとやら。おうい、と三人の影が近づいてきた。
「皆さんお揃いですな」
「やれやれ、閉会式に間に合ってよかった」
「おお唯人。大健闘だったらしいが、元気しとったか?」
ゴシップ、拓郎、猫丸である。なんというか珍妙な組み合わせだ。三者三様、機械やらがらくたやらを手にしている。なんだそれは。
「気になりますかな? これらはすべて戯岩島に張り巡らされていたトラップですぞ」
「残骸を集めろと彼に言われてね。半ば無理やり手伝わされた」
「ワシは早めに撤退したおかげで余裕があったからのう、きびきび働いたぞっ」
戯岩島のトラップ……か。どうしてそんなものを、なんて訊くだけ不毛だろう。よからぬことを考えているに違いない。
俺はポケットを探り、ゴシップにそれを差し出す。借りたままだった強力なからくり。『魔銃』だ。
「これ、サンキューな。すげー助かったよ」
「いやいや。ああ……よかったら唯人殿、それ貰ってやってくれませんかな?」
え?
「実際に使ってみてわかったのですな。小生にそいつのデメリットは重すぎましたぞ。奥の手として持っていましたが、ぶっちゃけもう二度と使いたくありませんな」
「だからって。金にうるさいお前が、人にモノ譲るとかあり得ねえだろ!」
「事実ですからなんとも言えませんな。しかし、今の小生はとても気分がよいのです。たくさん収穫もありましたしな。……ああ、そうそう」
何かを思い出したかのように声を弾ませると、ゴシップは手にしたがらくたを砂上に下ろした。腰元の巾着袋をごそごそと探り、中を俺に見せつける。
「……『魔銃』の件はありがとう。お言葉に甘えていただくが、それで俺はなぜお前の財布を見にゃならんのだ」
袋の中にはキビダンゴが何十枚と収められていた。まだこれでも部屋に貯金してるんだろうな、恐るべし情報屋。
「違いますぞ。よく中を見てくだされ、赤い砂粒が見えませんかな?」
「んん? そう言われてみれば赤い……って、おい。これまさか」
「要先生氏から聞きましたぞ。唯人氏、ゴーレムを止めるために弩級からくりを破壊したそうですな。……いかにも、これは『破壊神』の欠片。全部は無理でしたが、概ねこの中に集めておりますぞ」
ワシも拾うたぞ! と猫丸。よくあんなちっちゃい粒を集めたなと言いたいが、それよりも。
「……これを、俺に?」
「敢闘賞さえ無いのはあまりに寂しいですからな。記念品とでも思ってお納めくだされ。砂時計くらいにはなるでしょう」
▶▶▶
「……で、キミはわざわざそれを私のところへ持ってきたと?」
波打ち際で佇む男、備然はつまらなさそうに口を開いた。俺とてお喋りがしたくて来たわけじゃない。ゴシップから貰った赤い砂粒を、本来渡るべき者の元に持ってきただけだ。
「唯人。私はお世辞が大嫌いでね。お歳暮の次くらいに嫌いだ。貸し借りや報恩で生まれる関係のなんと薄っぺらいことか」
「どうでもいいけどよ。……ハイエナの襲撃がなかったら、『破壊神』はお前が手にするはずだっただろ。だから、これは俺が持ってちゃいけねえんだ」
「ならば、ハイエナのどちらかに譲ったらどうだ」
「お前なぁ……」
本当に、面倒くさいやつだな。だったら真津璃にでもあげた方がいいのか? でも、あいつまだ意識戻ってねえしなぁ……。
「どうやら、キミは根本的に勘違いしているようだ。見ていて虫唾が走る」
「ああん?」
唸る俺の鼻先に、備然の人差し指が伸びる。
「キミは徳川家康だ」
「吉良唯人ですけど……」
「織田がついた餅を豊臣がこねて、できたものを徳川が食べる。有名な狂歌だ」
聞いたことはあるが……。
「どんな形であれ、キミは討つべき鉄クズに勝った。そこに至るまでの過程など関係ない。嫌だろうとプライドがどうだろうと、今は祝福されろ。反省会なら帰って一人でやるんだな」
そう言うと、備然は翻って違うところに去ってしまった。
「はーい、お前らお待たせ。じゃあ、ちゃちゃっと閉会式やっちゃおうか」
要先生の声を他所に俺は自問自答を繰り返す。
俺が、この課外活動で得たもの。得られなかったもの。得なくてはならないもの。
日が傾き始めた。
次回、第3章ラスト(予定)です。




