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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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58/186

第58話 ▶さらば戯岩島

 あらすじ:争奪戦、終了


 前回に引き続き三英傑の例が出てきますが、これはあくまで風刺的なアレです。実際の徳川公も杵や臼作りに奮闘していたのです。

 閉会式が嫌いだ。

 わかりきった結果を発表するだけの消化試合に、いったいなんの価値がある? 備然の野郎もそうだ。それまでの下準備をこしらえた織田や豊臣と、餅を食うだけの徳川。よりにもよって俺に後者を享受しろと言いやがる。餅は欲しいが、どうせならやっぱり自分で作ったものを食べたい。それが男のロマンってやつだろう?

『破壊神』の砂粒が、巾着袋の中で物悲しく揺れた。


 ▶▶▶


 解散! と一言発すると海に『メタモービル』を展開し、さっさと帰ってしまった。要先生も閉会式が嫌いなのだろう。テンポがいいのはありがたいが、教師としてはどうかと思う。


 とはいえ、このまま波の満ち干きを鑑賞していても仕方ない。せいせいしたのだろう。備然が動くのを皮切りに、次々と『メタモービル』が海に召喚された。そのまま振り返ることなく島を去る。学園から海を越えてはるばる来たのに、収穫したものは何も無い。そりゃ一秒でも早く帰りたいだろうさ。


 かくいう俺もその一人なのだが、なぜか気分が乗らなかった。真津璃がいないからではない。──意識を失ったままのあいつは、要先生の出した予備の『メタモービル』に載せられて先に帰還した。自動運転とはいえ、無人の水上バイクに意識のない人間を単独で載せるなんてどうかしてるぜ。


「まだ残ってんのか? オレたち先、帰るぜ」

 横を見ると、ジョーとゴシップが自分らの乗り物にがらくたを積み込んでいる。運転席まで圧迫しているが大丈夫なのだろうか。……重量制限とか。


 少し考えた末に、俺は首を横に振った。

「いや、俺ももう帰るわ。どうせだから反省会と行こうぜ」

「うへぇ。見かけによらず真面目ちゃんだよな、唯人。一夜城だろうがきちんとテストに臨むタイプだ」

 きちんと臨まないお前はなんなんだ。


「ですが、大事なことですぞ。過去を振り返るというのは」

 呼び出した『メタモービル』に乗り込んだ俺たちは、海の上を単車で走る。過去を振り返る、か。息を吐いて首から上だけをそちらに向けてみる。


「……おお」

 島を構成する岩。俺に憎しみの情を抱かせた岩。大小様々な岩の山は、オレンジの夕日を戯れさせ、巨大なトパーズみたいに輝いて見せた。

 海の上に浮かんだ超弩級の宝石。これを見た者が、果たして先行したやつらの中に何人いただろう。


「絶景ですな。振り返った者にしか得られない、隠されたお宝と言えますぞ」

「うおーっ! だったら凄ぇラッキーじゃねえかオレたち」

 遠のいていく刹那の景色を、俺たちは文字通り目に焼きつける。願わくば、この景色を真津璃にも。


 ▶▶▶


「……そう、そんなことがあったのね」

「真津璃にも見せたかったんだがな。いかんせん、居眠り運転かましてからな、お前」

 ツクヨミ荘201号室。真津璃が目覚めた後は俺が肩を貸してここまで運んできた。夕食と風呂はすでに済ませ、時刻は二十一時を少し過ぎた頃。


「あんた、今日疲れてるだろうし早く寝たら? 月尊ちゃんのおにぎり食べられなくても知らないわよ」

「うるせえな。俺は今、猛烈に弾き語りしたい気分なんだよ」

「あんたごときに何が弾けるって言うのよ。大人しくリコーダーでチャルメラでも吹いてなさい」

 リコーダー馬鹿にするなよお前。郷愁を感じられる、いい音色じゃねえか。


 と、まあ。こんな生産性のない会話をしているのは、俺なりに考えがあるからだったりする。

 今でこそ普段通り振る舞っている真津璃だが、目覚めた当初はひどくしおらしかった。それこそ、こちらがドギマギするほどに。


 一ヶ月近く同じ部屋で過ごしてきたのだ。なんとなく原因は掴めている。真津璃は、責任を感じているのだ。戯岩島ではこいつに幾度となく助けられてきた。にも関わらず、真津璃は自分に負い目を感じている。


 だから。

「──と、そこに現れたのは馬鹿デカい鉄蛇。俺はそいつを素手でボッコボコにしてやったわけだ」

「えー? 絶対嘘でしょ、それ」


 少しでも、この時間を。


 ▶▶▶


 桃神郷の地下世界。エレベーターでずっと降下した先に、その部屋はある。奥の壁一面に張り巡らされたモニター群。薄暗い部屋に二人の男が向かい合わせに腰を下ろしていた。

「……まずは、参加者全員の生還を喜ぶべきでしょうね」


 ほっほっ、と語り手(ストーリーテラー)は控えめに肩を揺らした。物々しい黒の羽織が彼の底知れなさを際立たせる。

「自慢の弩級からくりですが、壊されてしまったようです。ね、からくりマスター?」

「ワシに振るな。……しかし、正直驚いておる。まさか初回から戯岩島を破るとはのう。それも、誰一人欠けることなくときた。こいつぁ(かなめ)の時以来ではないか?」


 語り手はコーヒーのカップを傾けた。


「そうかもしれません。なにより、今年の生徒たちはみな己の限界を理解しています。理解したうえで、超えようとする。……これは結構大事なことですよ。無謀に突っ込むことが必ずしも正しいとは限りませんからね」

「どうした、語り手。今晩はやけに饒舌に見えるが?」

「嬉しいのですよ。今の自分の立ち位置を理解し、その範囲の内で精一杯もがこうとする。驕らず、腐らず……。彼らはまだまだ強くなりますよ。私が保証します」


 ハッ、とマスターは皮肉たっぷりに吐き捨てる。

「お前さんが言うのなら間違いないのじゃろうな。結局、全員生還も果たしたわけじゃし」

「怒っていますか? 生徒が弩級からくりを壊したこと」

「ふん。全員生還などという夢物語を選んだ以上、からくりの破壊は覚悟しておったわ。むしろ、壊れたからくりちゃんを持って帰られたことの方が問題じゃ」

「『破壊神』……まさか砕け散った破片を持って帰ってしまうとは、ですね。毎年あれから再構成するのですよね、彼らから回収するのですか?」

「ならん。そのようなみっともない真似、ワシのプライドが断固として許さぬ」

「では」

「……まあ、お前さんの気持ちもわかってきた気がするわい。今年のガキんちょはひと味違う。彼奴らがワシの可愛い『破壊神』ちゃんをどう利用するのか、見届けさせてもらうとするかのう」

 背もたれに身体を大きく預け、マスターはゴーグルをわけもなく弄る。乾いた彼の唇はわずかにあがっていた。

 課外活動は弩級からくりの破壊という結末で幕を閉じた。犠牲者こそ出なかったものの、代わりに得たものも何もない……わけでもなかった。

 物語は次の段階へと受け継がれていく。


 next...▶ chapter.4 桃栗祭

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