第55話 ▶ヒーローは最後にやってくる
あらすじ:備然、足をグ二る。
足をくじいたのか、備然はおぼつかない足取りでなおも逃げ続けている。間違いなくさっきの崩落が原因だ。しかし、機械に慈悲など無い。ここぞとばかりにあげた右足を、スタンプのように振り下ろす。
こいつは、不味いんじゃないのか。俺の持つ『魔銃』ではゴーレムのフルメタルなボディを傷つけることすらできない。ジョーの『磁力バット』で飛んでも二次被害を生むだけだ。ならば、『悠弓のロビンフッド』でヒットストップを……いや、今から射てもらっても間に合わない。
どうする……っ?
「──ドガーン、であーるる!!」
奇怪な語尾と同時にインパクトが山の麓から飛んできた。爆音も大概だが、やかましいのはその大声。遠くにいても鼓膜が痺れるほどだ。
衝撃は辺りの砂利やらなんやらを根こそぎ吹き飛ばし、砂煙の中から闖入者が姿を現す。
「待たせたのであるなぁ!」
人一倍大きな身体を持つ変人、ゴーマンだった。隣には得意げに鼻を擦る天地。同胞ってこいつのことかよ。色々言いたいことはあるが、とにかく備然が無事でよかったよ。
「ヒーローは最後にやってくるものであーるる!」
なんか言ってるが無視して備然に駆け寄る。
「無様だな、あんだけ自信たっぷりだったのに」
「なに、ここが正念場だろうが。私と鉄クズの闘いに水を差すな。邪魔だてするようなら」
「はいはい、もうそういうのいいから。一旦あの化け物とは距離を置くぞ。掴まれ」
「断る」
全力で拒否された。足を怪我した状態でなに見栄を張っているんだお前は。無理やり自分の肩を貸して坂道を二人三脚で降りる。
しかし、ゴーレムの進行は止まらない。
「ちっ、しつこい野郎だな」
先のバズーカ的な何かに怯んだものの、あっという間に体勢を立て直してきやがった。拓郎の弓矢を目に受けてもほとんど効いていない。そういえば、こいつには学習能力が備わっていたんだったか。くそっ、同じ手を何度も食うほど馬鹿じゃねえわけだ。
「いい加減離せ、気持ち悪い!」
ぶんっ、と俺の腕を振り払うと備然は一人で山を下り始めた。このまま島の外に出て勝ち逃げするつもりだ。
……と、やつを追おうにも後ろからゴーレムがやってくる。無駄に綺麗なランニングフォームしやがって。鉄鋼色の巨人に爆風と弓矢が入り乱れかなり混沌としている。
かくいう俺には太刀打ちするすべがないので、大人しく逃げ回ることしか出来ない。そうこうしているうちに追いつかれ、ゴーレムは文字通りの追い打ちをしかけてきた。
『──ガガ、弩級ガ危険領域ニ侵入。解答ワード、"ジャミング"ヲ発動』
最初は何が起きたのかわからなかった。最終って言ったくせにまたレベルアップかよ、と不条理を嘆くはずだった。けれども、目立った変化は起こらない。
今どきの機械はハッタリもかませるんだな、と感心していると俺は違和感の正体に気づいた。
……静かだ。
いや、実際にはドガンドガン地面は揺れているが、それ以外の音がパタリと途絶えたのだ。ゴーマンの近所迷惑な大声も、バズーカも。
音だけじゃない。爆風はしなくなり、矢が飛んでくることもなくなった。
間もなくしてゴーレムの口から答えが発表される。
『"ジャミング"、成功。コレニヨリ弩級ヲ除ク全テノカラクリハ、ソノ能力ヲ失イマス』
「はあああああっ!?」
久しぶりに声が出たね。ここに来て……ここまで来てそんな戯言がまかり通るのかよ。だが、足を止めて地団駄踏むわけにもいかない。泣くなよ、唯人。泣くのは『破壊神』を手に入れた後だ。
なっちまったもんは仕方ない。かと言って、ここから真津璃やゴーマンの到着を待っていては遅すぎる。行き先は一つ、備然の元だ。
風になれ。坂道でスピードを物にして、全身の余分な要素を削ぎ落とすのだ。後方からのプレッシャーが気にならなくなってきたその時、備然を見つけた。横になって倒れている。
否、倒されていた。
「──まったく、これだから棚ぼた戦法は辞められねぇのぜ!」
「でゴワスなぁ。まさか、Aランク最強の男が釣れるとは」
頭が真っ白になる。
待て。
誰だお前ら?
どうして、備然のコートを漁っている?
「ゴーマンも馬鹿なのぜ。同胞なんざ放っておけばよかったのさ」
「まあまあ、でゴワスよ。お陰で弩級からくりを手に入れられたわけだし、結果オーライでゴワス」
どうして、『破壊神』を手に持っている?
落ち着け。落ち着け、俺。
そもそも、なぜ備然がこんな連中にのされているんだ。心の読めないゴーレムならまだしも、こんなやつらの考えなら『第三の目』で事前に察知することだって……。
──違う、ジャミングだ。ゴーレムのせいで普通のからくりは今、使い物にならなくなっている。それに気づかず備然は不意をつかれた、といったところか。足の不調や心身ともに積み重なった疲労も要因の一つだろう。
「で、こいつぁどう使えばいいのぜ?」
「う〜ん、とりあえず島の外に持って出ないでゴワスか?」
そこを狙って、こいつらは。
「……ふう……」
落ち着け。落ち着け、俺。
これも立派な戦術だろう。漁夫の利が最適解だということは最初からわかっていたことだ。それに文句をつけるなんてあまりにもナンセンス。控えめに言って無様だ。
ならば、俺の取るべき行動は決まっている。
「ボコす」




