第54話 ▶戯岩島の決戦
あらすじ:やっとこさ洞窟の外へ
ようやく洞窟の外に出られたと思ったら、ゴーレム様のお出ましだ。顔面だけだったガーディアンもここまで来たかと。感慨深さは一ミリもないが、俺が人並みに恐怖していることは確かだった。
「どうすんだよ、これ……」
備然は一片の迷いもなく回れ右をした。
「今の鉄クズは実質的な不死状態。まともに闘うだけ無駄だ」
「だからって、お前。逃げたらゴーレムの野郎が……」
言い終わるまでもなくやつの攻撃が始まった。踏みつけ、パンチ、蹴り飛ばし。なぜ鋼鉄の巨体であんなに動き回れる? ツッコミたくなるほどにゴーレムの動作は俊敏だった。
「……私たちは安全ね。本当にやつの狙いは『破壊神』ただ一点みたい」
見ると、隣にいつの間にか真津璃が到着していた。お互いすっかりボロボロである。
「放置しておくか? それこそ、備然が弩級を手放すまで」
「死んでも離さないでしょうね。第一、そんなつもり微塵もないくせによく言うわよ」
「半分くらい本気だったんだけどな」
忌まわしき洞窟を脱出した今、俺たちに残された選択肢は二つ。備然と共に闘うか、傍観を貫くか。正直なところ、備然もゴーレムも俺たちにとっては厄介な存在だ。潰しあってくれることはこの上なく望ましい展開である。
しかし、それで万が一にでも備然が何らかの理由で『破壊神』を手放したら? ゴーレムに拮抗することはおろか、『破壊神』を回収しに行くことすら困難だろう。
つまるところ。
「喰らえよ、『魔銃』……っ!」
ゴーレムの踏みつけによって地面がえぐれ、岩の塊が舞いあがる。その中の一つ、ちょいと大きめのものが備然に降りかかろうとしていた。それを『魔銃』で撃ち抜いたのだ。くそっ、やっぱ疲れるなこれ。
「……なんのつもりだ。私に加勢など必要ない」
「うるせえ黙れ。俺だって好きで助けたわけじゃねえんだよ」
勘違いしないでよね! と野太い声で補足する。真津璃からは「キモい」と絶賛された。
ゴーレムの攻撃を避けながら下山を始める。やつの予備動作を見ながら逃げる方向を俺たちが指示、備然のサポートにあたる。『第三の目』を使えば声に出す必要もなさそうだが、やつはそれを使わなかった。情報過多を恐れたか使用できない事情でもあるのか。こんな土壇場でも食えない野郎である。
「おーい! みんな無事かっ」
シャキッとした優等生の声。拓郎が帰ってきたのだ。やつの傍らにはジョーとゴシップがいる。どこへ消えたのかと思ったが、二人を起こしてくれていたようだ。
「……なあ、天地の野郎は見なかったか?」
「あの気が強そうな彼かい。先に下山したよ」
おいおいおい。
「あいつ、散々息巻いておいて逃げやがったのか」
「いや……なにやら同胞を呼んでくるとかどうとか」
「同胞?」
あまりいい予感がしないのが本音だが、援軍ならば純粋にありがたい。備然の方に目を向き直すとヤンキー君が声をかけてきた。
「なあなあ、唯人」
「どうした」
「デケェよな、あいつ」
「そうだな」
「さっきまであの目、あんなに赤かったか?」
……なんだと?
言われた通り、俺は岩と戯れるゴーレムを見あげる。モノアイの瞳は確かに赤い。でも、洞窟で追いかけっこをしていた時もあんなんじゃなかったか? 訊くとジョーは大きく首を横に振った。
「いーや。あの時は青っぽかったぜ」
「……そうだっけか。つか、それがどうしたんだよ」
「似てないか? 鉄蛇の時と」
「てつへ、び……」
ハッとした。
そうだ。一見無敵に思えたあの鉄蛇にも弱点は存在した。前回の場合であれば身体の赤い玉を攻撃すること。今のゴーレムの瞳と同じ、赤い玉。
「もしかして、やつの目に攻撃が通れば」
「おうとも。やってみる価値はあるんじゃねえか?」
盲点だった。対象を必ずぶち壊す『破壊神』が効かなかった時点で、俺はゴーレムの討伐を諦めていた。逃げることばかりを考えていた。
山を下りつつ、どうにかこうにか策を練る。
「……おい、優等生っ」
「伊勢拓郎だ。僕になにか?」
「あんたの自慢の弓矢で、あの化け物の目を狙ってほしい」
「弓矢……『悠弓のロビンフッド』のことだな。しかし、なぜ?」
「うっすら光ってる赤い目があの化け物の弱点かもしれねえんだ」
それだけ言うと、拓郎は多くを訊かず頷いてくれた。そして背中に提げた入れ物から『悠弓のなんぞや』を取り出す。射程圏内に入るべく内側に回り込むと、狙いを定めて弓を反らせる。
「おおっ? 何も無いところから矢が生まれやがった!」
驚いたようにジョーが声をあげる。洞窟内で際限なく射ていたからもしやと思ったが、やはり自動生成系のからくりだったか。同系統と思われる『魔銃』と違い目立った副作用も無さそうなのが少し不服である。
「……ッ!」
放たれた矢は綺麗な曲線を描き、ゴーレムのモノアイに一撃でヒットした。グオオオ、と唸るような金属音が鳴り響く。
「まじかよ。やるじゃねえか、拓郎!」
「これでも元弓道部だからな。当然だ」
満更でもなさそうに鼻を鳴らす拓郎。弓道部とは言うが、動く的をよく的確に射抜けるものだ。お陰でやつにもダメージを与えられ──。
痛がっていたのはほんの数秒。今やゴーレムはすっかり元気に暴れ回っている。攻撃が激化することも、逆に軟化することもなかった。
なんだこの奇妙な感覚は。
「……悪い、唯人」
「なんだよ」
「オレ、もしかしたら的外れなこと言ってたかもしれねえ。あのゴーレム、目を攻撃されてもまるで食らっているように見えねえんだ。いや、確かに痛がる素振りは見せたが、それっきりというか……」
言いたいことはわかる。要は、不自然なのだ。打ってもいない足を押さえて「痛い痛い」と言っているのと同じ。オーバーというか、そこに他意が見え隠れしているというか。
しばし考えてみると、抱いていた違和感の正体に気づく。
「ヒットストップだ」
「なんだよそりゃ?」
「格ゲーなんかで使われる用語なんだけど、それはまあいいや。めちゃくちゃ簡単に言えば、殴った手応えのことだ」
そう、反応。
「あれはただのダメージモーションだ。隙こそ生まれるが、根本的な解決にはならない……!」
「倒せなくとも構わない。僕は、僕にできることをするだけだっ!」
格好いいこと言うじゃねえか。
命懸けの山下りはおおよそ半分を超える。ゴーレムは距離に応じて追跡レベルが変動するそうだが、一向にダウンする気配はない。
山を降りていけば、宝箱からの最短距離は山頂のそれよりも縮まる。淡い期待をしていたが、そう甘くはないようだ。
いいだろう。だったら地の果てまででもゴーレムから逃げ切ってやる。……その前にまずは弩級を手にするところからだがな。
「くっ……!」
刹那、備然の足場が大きく崩れる。ゴーレムの地鳴りにより地形が不安定になっているのが、ついに牙を剥いたのだ。
やつは咄嗟に受け身をとって事なきを得たが、一難去ってまた一難。これは不味いんじゃないか? 備然は足をひきずっていた。




