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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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53/186

第53話 ▶命をかけた鬼ごっこ

 あらすじ:距離に応じて追跡レベルがあがるガーディアン。どうしたものか。

 私も闘う。闘いの中で理想を掴み取る。真津璃の示したその意志は、鬱屈とした場の空気を一変させた。備然とガーディアンによる不毛……熾烈な闘いが行われているさなか、俺たちは歩きながら今後の方針を固めていた。


「バチバチきたぜ、真津璃! オレは残る。あんな痺れる野郎を一人にしておけるかよっ」

「フゥン、俺も同感だ。第一、あの超強力なからくりを諦めるなんざあり得ないからな」

「ここまで同じ船に乗った仲。小生もついていきますぞ」


 やれやれ、と拓郎は指をぴんと立てる。

「結局7人全員残留と。……目下、脱出を優先。ただし、外に出てからは恨みっこなし。ガーディアンも何もお構い無しで『破壊神』を奪い合う」

「ただし全員で生きて帰る。……だろ、真津璃?」

 俺が目配せすると、真津璃は頬を緩めて頷いた。


「ええ。備然に『破壊神』を一任して、万が一でも死なれちゃ回収不可能になっちゃうからな。だから、まずは協力して洞窟から出よう」

「利用して、と言ってくれよ」

 備然は血の色をした宝玉をぶらぶらと掲げ、ニヒルに笑った。


 ともあれ、これでやるべきことは決まった。

 弩級からくりの防衛、及び全員での脱出。


「そういや、備然。『破壊神』って無機物ならなんでも壊せるんだよな? ガーディアンの真上の天井を崩して時間を稼ぐってのは」

「その程度で足止めできるとは思わない。それに、下手なこと言って天井が丸ごと落ちてきたら笑えないな」

 笑えねえよ。まあ、ハイリスクローリターンだから構えてしまうのも仕方ないか。だったら。


「逃げる以外に選択肢なくねえか? 壊してもすぐに復活するわけだし」

「そうだ。この狭い空間では断然、鉄クズの方に地の利がある。あと何段階控えているのか知らないが、今の状態でいてくれたらそれがベストだ。追いつかれることは絶対に無い」

「もし、手に負えなくなっちまったら? 修復スピードが壊す速度を上回った時、どうする」


 備然はガーディアンを砕きながら迷いなく答える。

「むろん脱出を優先だ。ただし、『破壊神』を連れてだがな。キミたちの安全保障まではできない。その上で全員生還なんて絵空事、並べたいならご自由に」

「私はそうさせてもらう」

 すっかり矛を収めた真津璃。軽やかに煽りを切り返し、今は少し前の方で屈伸をしている。やつ以外もストレッチに励んでいる様子だ。きたるべき追いかけっこの開始に備えてだろう。

リユな濡れ

 間もなくして、その時がやってきた。拓郎の判断は迅速だった。

「っ! この警告音……。みんな、走れ!」

『弩級ノ消失フェイズ進行ニヨリ、追跡、第三段階ニ移行シマス……』


 アナウンスが終わる頃にはとっくに全員で走り出していた。今までよりパワーアップすることは確実。命を賭けた鬼ごっこが始まった。

「目の前の鉄クズを破壊する」


 すっかり聞き慣れた台詞だ。直後に、ガラガラと後方で崩れる音がする。後ろを確認する余裕が無いので、腕を振りながら備然に問う。

「いけそうか?」

「目の前の鉄クズを破壊するっ」

 答える余裕もないようだ。こうなってしまえば、しばらく備然に口を利くことはできないだろう。ならば俺たちは振り向かず走り続けるだけだ。


 くそっ、さっきから上り坂が多い。本当にどこに向かっているんだ、この非常通路は。俺たちは登山したいわけじゃないんだぞ。

 ドゴンだのバガンだの騒々しい音が迫ってくる。壊す直すのイタチごっこはかなり接戦であるらしかった。頭の中ではターミネーターが流れ始める。ターミネーター観たことないけど。


「ま、待って欲しいのですぞ〜!」

 思わず振り返る。一人遅れ気味のゴシップがヘルプを出したのだ。これ以上後ろに退けば、やつは備然対ガーディアンの闘いに巻き込まれる。助けに行こうにもゴシップを連れたままでは走れない。どうする……どうするっ?


「大将っ!」

 坊主頭のヤンキー君、ジョーが飛び出した。走る速度を落としてゴシップの側へ。やつの枝みたいな腕を右手で掴むと、余った方の手を俺の方に向けた。握られているのは……『磁力バット』。


「かっとぶぜぇえ、暮村丈ぉおおおおお!」

 スイッチオン。までは見えなかったが、ゴシップを連れたジョーは人智を超えた速度でこちらに近づいてくる。『磁力バット』の引きつける力だ。バットの先端は恐らく俺のベルトか、手にした『魔銃』に引き寄せられている。


「よしっ、解除! サンキューな唯人」

「サンキューですぞ唯人氏」

 お前はジョーに感謝しろよ。

 それからしばらく走っていると、先行していた拓郎が声を張りあげた。


「ハァ……ハァ……みんな、出口だ! もう少し頑張るんだ!」

 やつの指した先には一筋の光が見える。とうとうこの迷宮ともお別れだ。ろくな思い出がねぇけど、これで終わりだと思うと少し寂しい気もする。


「フゥウン! 急げお前ら、ガーディアンの修復速度がさらにあがっているらしいぞぉおっ」

 前言撤回、今のは嘘です。こんな悪意の詰め合わせみたいな洞窟、一秒でも早く退散してやろうぜ。

 遅れてきた人物をジョーの『磁力バット』で回収しながら、なんとか全員無事でここまできた。死にものぐるいでラストスパートをかける。

 少しずつ光が大きくなってきた。視界が開ける、外の世界へ──!



 転がり込むように岩肌に伏せる。尖った砂利が頬を掠めた。忌々しく照りつける陽の光は、高鳴る心拍音を一層加速させる。現状を把握すべく辺りを見渡す。いやに景色が綺麗だ。もしかして、ここは山頂か……? とんだハードコースである。

「くっ、全員無事か……?!」


 拓郎が呼びかけた瞬間、()()は俺たちの視界を覆った。洞窟の天井をぶち抜いてそびえ立つ化け物。黒光りするボディは見るからに強固で、伸びる四肢も同様の作りになっている。

 鋼鉄の巨人(フルメタル・ゴーレム)。先程の男が言っていた言葉を思い出す。隠し通路では収縮していただけで、これが本来の姿だったのか……? モノアイの奥がぎらりと光り、雄叫びのような声が響き渡る。


『弩級ノ消失フェイズ進行ニヨリ、追跡、最終段階ニ移行シマス……』

「目の前の鉄クズを破壊する」

 生きていたか、備然。と思う間もなくゴーレムの身体が崩壊し──即座に再構成された。思わず乾いた笑いがこぼれる。高速巻き戻しを見ている気分だ。


 備然は弩級からくりを持った手を下ろすと、大きく深呼吸をした。諦めから出たものでは無いだろう。むしろ、この瞬間を待ち焦がれていたかのような、イカれたスマイル。

「……とうとう、修復する速度が破壊するそれを上回ったか。いいぞ。ますます『破壊神(こいつ)』が欲しくなった」


 アホかこの男は。どうすんだよ、これ?

 某ALFEEとは一切関係ありません。進撃もしません。……や、もしかしたらするかも。

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