第53話 ▶命をかけた鬼ごっこ
あらすじ:距離に応じて追跡レベルがあがるガーディアン。どうしたものか。
私も闘う。闘いの中で理想を掴み取る。真津璃の示したその意志は、鬱屈とした場の空気を一変させた。備然とガーディアンによる不毛……熾烈な闘いが行われているさなか、俺たちは歩きながら今後の方針を固めていた。
「バチバチきたぜ、真津璃! オレは残る。あんな痺れる野郎を一人にしておけるかよっ」
「フゥン、俺も同感だ。第一、あの超強力なからくりを諦めるなんざあり得ないからな」
「ここまで同じ船に乗った仲。小生もついていきますぞ」
やれやれ、と拓郎は指をぴんと立てる。
「結局7人全員残留と。……目下、脱出を優先。ただし、外に出てからは恨みっこなし。ガーディアンも何もお構い無しで『破壊神』を奪い合う」
「ただし全員で生きて帰る。……だろ、真津璃?」
俺が目配せすると、真津璃は頬を緩めて頷いた。
「ええ。備然に『破壊神』を一任して、万が一でも死なれちゃ回収不可能になっちゃうからな。だから、まずは協力して洞窟から出よう」
「利用して、と言ってくれよ」
備然は血の色をした宝玉をぶらぶらと掲げ、ニヒルに笑った。
ともあれ、これでやるべきことは決まった。
弩級からくりの防衛、及び全員での脱出。
「そういや、備然。『破壊神』って無機物ならなんでも壊せるんだよな? ガーディアンの真上の天井を崩して時間を稼ぐってのは」
「その程度で足止めできるとは思わない。それに、下手なこと言って天井が丸ごと落ちてきたら笑えないな」
笑えねえよ。まあ、ハイリスクローリターンだから構えてしまうのも仕方ないか。だったら。
「逃げる以外に選択肢なくねえか? 壊してもすぐに復活するわけだし」
「そうだ。この狭い空間では断然、鉄クズの方に地の利がある。あと何段階控えているのか知らないが、今の状態でいてくれたらそれがベストだ。追いつかれることは絶対に無い」
「もし、手に負えなくなっちまったら? 修復スピードが壊す速度を上回った時、どうする」
備然はガーディアンを砕きながら迷いなく答える。
「むろん脱出を優先だ。ただし、『破壊神』を連れてだがな。キミたちの安全保障まではできない。その上で全員生還なんて絵空事、並べたいならご自由に」
「私はそうさせてもらう」
すっかり矛を収めた真津璃。軽やかに煽りを切り返し、今は少し前の方で屈伸をしている。やつ以外もストレッチに励んでいる様子だ。きたるべき追いかけっこの開始に備えてだろう。
リユな濡れ
間もなくして、その時がやってきた。拓郎の判断は迅速だった。
「っ! この警告音……。みんな、走れ!」
『弩級ノ消失フェイズ進行ニヨリ、追跡、第三段階ニ移行シマス……』
アナウンスが終わる頃にはとっくに全員で走り出していた。今までよりパワーアップすることは確実。命を賭けた鬼ごっこが始まった。
「目の前の鉄クズを破壊する」
すっかり聞き慣れた台詞だ。直後に、ガラガラと後方で崩れる音がする。後ろを確認する余裕が無いので、腕を振りながら備然に問う。
「いけそうか?」
「目の前の鉄クズを破壊するっ」
答える余裕もないようだ。こうなってしまえば、しばらく備然に口を利くことはできないだろう。ならば俺たちは振り向かず走り続けるだけだ。
くそっ、さっきから上り坂が多い。本当にどこに向かっているんだ、この非常通路は。俺たちは登山したいわけじゃないんだぞ。
ドゴンだのバガンだの騒々しい音が迫ってくる。壊す直すのイタチごっこはかなり接戦であるらしかった。頭の中ではターミネーターが流れ始める。ターミネーター観たことないけど。
「ま、待って欲しいのですぞ〜!」
思わず振り返る。一人遅れ気味のゴシップがヘルプを出したのだ。これ以上後ろに退けば、やつは備然対ガーディアンの闘いに巻き込まれる。助けに行こうにもゴシップを連れたままでは走れない。どうする……どうするっ?
「大将っ!」
坊主頭のヤンキー君、ジョーが飛び出した。走る速度を落としてゴシップの側へ。やつの枝みたいな腕を右手で掴むと、余った方の手を俺の方に向けた。握られているのは……『磁力バット』。
「かっとぶぜぇえ、暮村丈ぉおおおおお!」
スイッチオン。までは見えなかったが、ゴシップを連れたジョーは人智を超えた速度でこちらに近づいてくる。『磁力バット』の引きつける力だ。バットの先端は恐らく俺のベルトか、手にした『魔銃』に引き寄せられている。
「よしっ、解除! サンキューな唯人」
「サンキューですぞ唯人氏」
お前はジョーに感謝しろよ。
それからしばらく走っていると、先行していた拓郎が声を張りあげた。
「ハァ……ハァ……みんな、出口だ! もう少し頑張るんだ!」
やつの指した先には一筋の光が見える。とうとうこの迷宮ともお別れだ。ろくな思い出がねぇけど、これで終わりだと思うと少し寂しい気もする。
「フゥウン! 急げお前ら、ガーディアンの修復速度がさらにあがっているらしいぞぉおっ」
前言撤回、今のは嘘です。こんな悪意の詰め合わせみたいな洞窟、一秒でも早く退散してやろうぜ。
遅れてきた人物をジョーの『磁力バット』で回収しながら、なんとか全員無事でここまできた。死にものぐるいでラストスパートをかける。
少しずつ光が大きくなってきた。視界が開ける、外の世界へ──!
転がり込むように岩肌に伏せる。尖った砂利が頬を掠めた。忌々しく照りつける陽の光は、高鳴る心拍音を一層加速させる。現状を把握すべく辺りを見渡す。いやに景色が綺麗だ。もしかして、ここは山頂か……? とんだハードコースである。
「くっ、全員無事か……?!」
拓郎が呼びかけた瞬間、それは俺たちの視界を覆った。洞窟の天井をぶち抜いてそびえ立つ化け物。黒光りするボディは見るからに強固で、伸びる四肢も同様の作りになっている。
鋼鉄の巨人。先程の男が言っていた言葉を思い出す。隠し通路では収縮していただけで、これが本来の姿だったのか……? モノアイの奥がぎらりと光り、雄叫びのような声が響き渡る。
『弩級ノ消失フェイズ進行ニヨリ、追跡、最終段階ニ移行シマス……』
「目の前の鉄クズを破壊する」
生きていたか、備然。と思う間もなくゴーレムの身体が崩壊し──即座に再構成された。思わず乾いた笑いがこぼれる。高速巻き戻しを見ている気分だ。
備然は弩級からくりを持った手を下ろすと、大きく深呼吸をした。諦めから出たものでは無いだろう。むしろ、この瞬間を待ち焦がれていたかのような、イカれたスマイル。
「……とうとう、修復する速度が破壊するそれを上回ったか。いいぞ。ますます『破壊神』が欲しくなった」
アホかこの男は。どうすんだよ、これ?
某ALFEEとは一切関係ありません。進撃もしません。……や、もしかしたらするかも。




