第52話 ▶機械仕掛けの鬼退治
あらすじ:チートvsチート
迫りくる機械鬼から必死こいて逃げ回る。と言っても、やつの侵攻はかなり遅いので一定の距離を保っていればさほど脅威でもない。事実、俺たちは当初に比べてわりと落ち着きを取り戻していた。戦力は半分ほどになってしまったが。
俺は真津璃に愚痴をこぼす。
「あいつら、我先にと逃げやがって……」
「無理もない。こんな異形と同じ空間にいるのは、精神的にも辛いだろうからな」
それは閉鎖空間からの脱出。通行止めだった道が開通したので、恐れをなした連中がさっさと先へ進んでしまったのだ。今頃、外の空気をのうのうと吸っていることだろう。
では、俺たち残留組の意図はなにか。ガーディアンを放置するのが怖い。備然に『破壊神』を独占させたくない。単なる意地。などなど、根っこにあるものは人それぞれだ。
この時点で残っている命知らずは、7人。
「あの弩級からくりがある限り、少なくとも小生たちの安全は保証されますな」
この争奪戦の間のみ、俺に『魔銃』を貸すと約束してくれた死にかけの男、情報屋ゴシップ。
「だけどよぉ、ここからどうすっかな。下手に備然に仕掛けてもからくりを破壊されるのがオチだぜ?」
引きつける力、『磁力バット』を持つヤンキー君、バチバチのジョー。二つ名は適当だ。
「フゥン。この場は一時休戦ということでいいだろう。もっとも、俺には壊されるからくりなんて無いのだがな!」
テンション天城越えが平常運転というイマイチよくわからない男、ムードメーカー天地。
「そもそもの話、みんな。この非常通路はいったいどこへ通じていると思う? 島の反対側だろうか」
先のことにも目を向けられる優秀なリーダー、射手の拓郎。なんのリーダーかは不明である。
「その割に、さっきから上りが多いと思うが。山登りなんて趣味ではないぞ、私は……」
よくそのダボダボな格好で走り回れるよな、男装の真津璃。
「それより喉乾いた。自販機とかねぇの?」
そして、忘れちゃいけない完全無敵。超絶ハンサム、泣きぼくろの唯人。言ってて虚しくなってきた。
「目の前の鉄クズを破壊する」
あと、おまけに一人で淡々とガーディアンを壊し続けるキザ男、備然。もうすでに十回以上能力を使っているが目立った疲れは見られない。本当にノーリスクであれだけのリターンを受けられるのかよ? さすが、弩級の名は伊達じゃないな。ますます欲しい。
俺の思考は、いつの間にか『破壊神』と備然を出し抜く方法だけを案じるようになっていた。そう、すっかり眼中に無かったのだ。ガーディアンの脅威など。
ビーッビーッ、とけたたましい警告音が洞窟内に鳴り響いた。
「な、なんだこの音。あの顔面野郎の方から鳴ってるのか……?」
「唯人、ここは下がっていた方がいい。……うまく言えないが、よくない予感がする」
真津璃が低い声で呟くと同時に、やつは新たな動きを見せた。
『弩級ノ消失フェイズ進行ニヨリ、追跡、第二段階ニ移行シマス……』
不穏なアナウンスが発せられ、嫌な予感は的中する。追ってくる速度があがったのだ。これまで守護者としてはあまりにもやる気のない愚図っぷりだったが、もはやその面影はない。三輪車と自転車くらい違う。
頭から生えた両腕で不器用に動くのは変わらないが、それでも目に見えて素早くなった。
「無駄なこと。目の前の鉄クズを破壊する」
バガァン
なんと無情な。第二段階に移行したらしいガーディアンを、備然は雑草でもむしるかのように無感情に砕いた。人の心は無いのか。冗談、助かったよ。
「……って、おい備然。なんかやつの修復速度あがってねえか?」
「承知の上だ。黙っていろ」
当たりキツいな。しかし、俺の勘違いではないようだ。
『修復作業ヲ開始シマス……』
以前まではガラガラと崩れてから十秒ほどで修復を始めていたのが、今回かかった時間は実にその半分。土煙が収まるよりもずっと早い。
拓郎が神妙な面立ちで備然に問う。
「先程、このガーディアンは第二段階と言っていた。追跡及び修復の高速化……原因は、弩級からくりの盗みと見て間違いあるまい。備然、キミはどう考える?」
「おおむね同意だ。私の持つ『破壊神』が、入っていた宝箱から遠ざかるほどガーディアンの警備レベルもあがる……といったところだろう」
タチの悪い設計だ。苛烈になるであろう終盤、ますますパワーアップした顔面野郎が混戦に乗り込んでくるわけだ。そうなると足を引っ張りあっている場合ではない。
「……今の段階で、この顔面野郎をぶっ潰すってのはどうだ。後々だと手がつけられなくなるぞ」
「目の前の鉄クズを破壊する! ……それが出来ればいいんだがな」
備然に睨まれてしまった。相当手応えがないのだろう。ならば、ガーディアンには不死属性が付いていると考えるべきか。厄介極まりないなこんちくしょう。
フッ、と天地は髪を掻きあげる。
「面倒だな。すでに答えは決まっているだろう。逃げるのだよ、豪快に!」
「小生も賛成ですな。ガーディアンの狙いが『破壊神』であれば、それを持っていない我々は襲われる道理はありませんぞ」
正論を胸に受けながら、俺たちは一歩ずつ前へ進む。代わりに歩幅は狭くなる一方だ。別にガーディアンの速度があがったからではない。いつ次の段階に入るのかを、みんな心のどこかでビクビクしているのだ。
辺りに広がる長い沈黙。それを静かに打ち破ったのは、真津璃の意外な提案だった。
「……『破壊神』を手放すつもりは無い、備然?」
ドス、ドス、と後方からやつの迫りくる音がする。その場にいる誰もが息を呑んだ。
「……面白い冗談を言うじゃないか」
「私は本気だ。『破壊神』にセンサーが付いているのであれば、あんたはそれを破棄するだけでいい。誰も傷つかずに済む」
確かにそうだ。これほどのチートアイテムを見逃すのは勿体ないが、少なくとも身の危険は去るだろう。全員リタイアという選択肢。
備然は不機嫌そうに頭を掻く。
「つくづく、キミは生ぬるい人間だな。反吐が出る。私に負けた時から何も成長していないではないか」
「……続きをどうぞ」
真津璃は拳を握りしめつつ、あくまで冷静に対応する。その様を見て何を思ったか。備然はガーディアンの方に向き直り、言い放った。
「命が惜しくば去ればいい。この鉄クズの標的は事実上、私。先に逃げた連中と同様、尻尾を巻いて逃げたらやつも追ってはこないだろう」
歯を食いしばる真津璃に向けて、備然は理想と現実の乖離を吐き捨てる。
「ラブアンドピースなどという浮かれた幻想を実現させたいのならば、せめて私から『破壊神』の所有権を奪ってから口にすることだな」
勝ったものが正義。小学生でもわかる単純なロジックだ。力なき者に選択権は存在しない、という備然の思いがひしひしと伝わって来る。
真津璃は拳を振りあげ──そのまま下ろした。
「私も闘う。闘って、全員でこの洞窟から脱出する。浮かれた幻想を実現させて見せる」
「好きにしろ」
今更ですが、唯人には「○○野郎」と呼ぶ癖があります。黒コート野郎、眼鏡野郎、この野郎、などなど。ぶっちゃけると代名詞のバリエーション稼ぎなので深い意味は無いです。




