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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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51/186

第51話 ▶破壊神

 あらすじ:ヤバそうなのがやってきました

 化け物。そう呼ぶ他ない異形の存在が、俺たちの退路を塞いでいた。鋼鉄で覆われた顔面と、耳元から生える剛腕。その規格外のデカさは三メートル近い天井に達する程だ。めちゃくちゃである。


「大将! オレ、あんな感じの機械蛇とさっき、闘ったぜ!」

「なんと。あれも、からくりなのですかな?」

「フゥン。程よいピンチではないか」

 先にビビりまくった人を見たからか、意外とみんな平静を保っていた。普通さ、もっとこう絶望的な雰囲気になるもんじゃないのかね。


「おい、真津璃……どうするよ」

「選択肢は二つ。行き止まりの雪崩を突破して逃げるか、この場で鬼を退治するか」

 鬼? と思ったが、よく見ると化け物の頭部に角のようなものが二本ついていた。小粋な演出である。さしずめ、戯岩島(おにがしま)を守るガーディアンと言ったところか。


「むろん、闘う一択だろ」

 俺はそう言って『魔(ガン)』の引き金を引いた。狙うはモノアイの眼。突発的な目眩に倒れかけたところを真津璃に支えられる。ちょっとドキッとしたのは内緒だ。


 カァン


「やっぱ効かねぇよなぁ……鉄蛇の時も基本無敵だったし」

「わかってるなら撃つなよ。馬鹿なのか、あんた」

 淡い期待に賭けたんだよ。少しくらい夢を見たっていいだろう? 俺の銃撃をきっかけに、その場にいた連中は各々攻撃を始めた。ジョーは果敢にも『磁力(マグネ)バット』で突貫し、拓郎はなんか弓矢で牽制している。


 そういえばあいつ、補充用の弓を持たずに何発も打ち込んでいるが、もしかしたら『魔銃』みたいに無から有を作り出しているのかもしれない。


 化け物はまるで怯む様子もなく、一歩一歩こちらに近づいてくる。その距離およそ十メートル。少しずつ辺りにプレッシャーが漂い始めた。

 拓郎は懸命に弓を引きながら声を荒らげる。

「くそっ、ビクともしない! ……備然、キミも手伝ってくれ! 僕たちの手だけではそろそろ限界だっ」


 ここまで静観を決め込んできた備然。やつは嫌味ったらしく鼻で笑うと、胸ポケットから悠然と()()を取り出した。

「せっかくだ。弩級の力でねじ伏せてやろう」

「弩級……? そんながらくたで何ができる。ふざけている場合じゃないんだぞ!」

「がらくたじゃない、からくりだ」


 拓郎はわずかに口元を歪めた。

 しかし、彼が昂るのも無理はない。備然が手にしているのは、血の色をした宝玉。パワーストーンという言葉こそあれ、お守りくらいしか使い道が思いつかない。

 それを化け物に掲げると、備然は嗜虐的な笑みを心底楽しそうに浮かべた。


「いいか拓郎。キミが私の監視を忘れている間、私は一度宝箱を開けて中を見てみたのさ。そこには弩級と小さな紙切れが入っていた。……この宝玉の名は『破壊神』。無機物であればあられるものを破壊できる……文字通りの破壊神だ」


 そんな痛い中学生みたいな言葉を吐き捨て──やつは有言実行を果たした。

「目の前の鉄クズを破壊する」

 

 瞬間だった。耳をつんざく機械音が入り乱れ、さっきまで無傷だった鋼鉄の化け物が花火みたいに弾け飛んだのだ。

 ガラガラと辺りに残骸が崩落する。軽い土煙があがるが、顔面も両腕も見事にぶっ壊れている。どう見てもオーバーキルな現場が視界の先に広がっていた。


「す、すげえ……」

 誰かが言った。それはこの場にいる者の総意。信じられない刹那の顛末を、俺たちは呆然と眺めることしかできなかった。これまでのからくりとは根本的に違う。圧倒的な力の差。


「これが、弩級の力なのかよ……っ」

「鬼に金棒を与えてしまったな。油断するなよ、唯人」

「大将、これって……」

「や、やったんですかな?」

 あり得ない一幕から興奮さめぬ面持ちで、ざわざわと声が重なり合う。どんな魔法を使ったのか、副作用は大丈夫なのか、などなど。思うところは様々だったが、根っこにある感情は皆一様だった。


 あの弩級からくり……是が非でもほしい!


 正直、ほんの数分前まで眉唾だった。いくら弩級と言ってもそう簡単に現状のバランスを崩すはずがない、と。甘かった。無機物なら問答無用で破壊する代物だと……? そんなもんにどうやったら勝てるんだよ。こっちのからくり即壊されちゃうじゃねえか。


 頭の中を巡るのは、『ここからどうやって備然を出し抜くか』。勝つ必要はない。例の弩級からくり……『破壊神』さえ奪えたらそれでいいのだ。

 ジリジリと緊張感が走る。最初に動くのは誰だ。


 答えは、予想だにしない()()だった。

『修復作業ヲ開始シマス……修復作業ヲ……』


「……おいおい、こりゃあ。バチバチ来るじゃねえの」

「そう簡単には倒れないと! ふふ、素晴らしい。興奮してきたなぁ!」

「備然、やつを止められるのはキミしかいない。早く手を打つんだ!」

「私に指図するな。……目の前の鉄クズを破壊する」


 バガァン、といともあっさり崩壊する鋼鉄の鬼。さっきとまったく同じ光景だ。つまり、この後の展開も薄々俺たちは感じ取っていた。

『修復作業ヲ開始シマス……』


 ですよねぇ。いや、そりゃそうなるよ。壊しては直しての無限ループ。スクラップアンドビルドだ。

 さすがに備然もそこまで馬鹿ではなかったらしい。無意味だと悟ったやつは、くるりと身を翻し、崩落して行き止まりになった方を見た。


「目の前の壁を破壊しろ」

 冗談だろ、と思った。だが、事態は備然の思った通りに動く。先を塞いでいた岩が粉々に粉砕され、すっかり道は元通り。


「逃げるぞ」

 言われるまでもない。倒せないのなら、逃げるしかない。不幸中の幸いか。鬼の速度はたかが知れている。ゆっくり逃げていても十分間に合う。こいつがどこまでついてくるかだけが懸念事項だが、そこはまあおいおい考えよう。


 破壊者、備然、鬼。

 今のままでは敵が多すぎる。

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