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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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第50話 ▶迫りくる悪意

 あらすじ:お縄につくのだ、独守備然。

 とうとう備然を追い詰めたぞ。通路の先は崩れた岩に埋もれ、俺の後方からは他の生徒たちが駆けつけてくる。さあ、どうする、備然の野郎。


「……見事だと言っておこう。考えを見通されても問題ない作戦、か。キミのお陰で私は袋のねずみ。いやはや、困ったものだ」

「今さら御託はいいだろ。ここでお前をぶっ倒し、弩級からくりを奪い取る」

 つくづく掴みどころのない男だ。ハッタリの可能性は十分あるが、やつがこんなあっさり負けを認めるとは思わない。


 気を引き締めろ。油断するな。同じ野郎に二度も出し抜かれてたまるかよ。ゴシップから借りたままだった『魔銃(ガン)』の銃口をそちらに向ける。

 すると、俺の後ろから何かが飛んできた。弾丸にしては大きすぎる……『磁力(マグネ)バット』を持ったヤンキー君だった。目標は恐らく備然のベルト。ギュンと引きつけられていく。


「テメェ、よくもオレたちを騙してくれたなっ」

 ジョーは思いっきりバットを振りかぶり、スイング。文句無しのフォームである。

 しかし、その重厚な一撃が通ることはなかった。見切った動きで身体をくの字に曲げ、カウンターの蹴りをジョーにお見舞いする。


「ちぃ……っ! バチバチくる蹴りしやがる」

「なるほど。バットの先端に特殊な磁力が働いており、オンオフを切り替えることで攻撃態勢に移ることができると。面白い」

「こ、心の中を読んでやがる! 気持ち悪!」

「焦ってはいけませんぞ、ジョー氏」


 咄嗟に身を引く坊主頭に、ゴシップは冷静な口振りで諭す。俺の背中からぴょんと降りると、一歩前へ踏み出した。

「大将……?」

「『第三の目(サードアイ)』は、相手の強く念じているワードを声として聴くからくりですな。今ほど詳細に理解することは不可能ですぞ」

「だったら、どうしてあの野郎は。というか大将えらく詳しいじゃねえか。いったいどういう」

「当然ですな。『第三の目』の情報を提供したのは、他でもないこの小生。そして、オススメのからくりを教えろと言われて勧めたのが、『第三の目』、及び『磁力バット』だったんですな」


 つまり、備然はあらかじめ知っていたのだ。あのバットの持つ力を。それにしても迷惑な野郎だ。情報戦ってのは思っていたよりも恐ろしいものらしい。


 コートのポケットに手を突っ込むと、備然は下手くそな芝居を始めた。

「さて、どうしたものか。こうして時間を稼がれている間にもキミたちのお仲間はやってくる。参ったな」

 わざとらしく肩をすくめる備然に、一閃の矢が放たれた。端から当たるとは思っていないのだろう。矢は備然の首から少し離れた位置にヒットして、落ちる。


「……なんの真似だ、拓郎(たくろう)」

 振り返ると、先ほど担当通路を決める際に行動してくれたリーダーが苦悶の表情を浮かべていた。手にした弓からは今にも二撃目を放たんとしている。


「キミは僕たちを裏切った。信頼を断ち切った。その罪は決して軽くない……覚悟しろよ、独守備然!」

「そう猛るな。もとよりお前との同盟は一時的なもの。私が隠し持っていた鍵にしても、拓郎。お前が目を離さず私を監視していれば未然に防ぐことはできただろう」


 ぐっ、とリーダーっぽい男は歯を軋ませる。なんだなんだ。同盟だの監視だの。

「お前らはどういう関係なんだ?」

「僕と備然は、この争奪戦が始まる以前から同盟を組んでいたのさ。弩級からくりを見つけるまでは互いに力を合わせて進もう、と」


 拓郎は鋭い視線を備然に向ける。しかし、当人は飄々とした顔で吐き捨てた。

「約束は守っただろう。契約期限はからくりを見つけるまで……私は目的を果たしたから、好きにさせてもらったにすぎない」

「屁理屈を!」


 激昂とともに拓郎は矢を放つ。が、子をあやす様に備然は難なく回避。そのニヤケ顔に……。


 パンッ


 俺は『魔銃』を撃ち込んだ。精気の弾丸は備然の左肩に命中。出血は見られないが、咄嗟にやつが押さえるくらいには痛いらしい。


 備然は俺の動きを読んでいたのだろうか。真偽はさておき、わかっていても避けられない攻撃……これを繰り返していけば、勝機はある。


「当たりましたな!」

 ずしり、とのしかかる銃撃の反動。だが、それを引き換えにやつの仮面を剥がせたのなら安いものだ。

 横を見ると、備然に騙された連中が臨戦態勢に入っている。チェックメイトだ、とでも言いたげに。その様を見て、備然は崩落した岩にゆっくりともたれかかる。


「躊躇なく撃つとは、ふふっ。いいイカレっぷりだな、唯人。キミたち程度『第三の目』だけで十分だと思っていたが……私もそろそろ本気を出せねばならないらしい」

 ハッタリ……ではないよな、たぶん。ゴシップが二つ目のからくりを持っていたのだ。用心深い備然が奥の手を持っていないはずがない。加えて、先程やつの手には弩級からくりもある。どう来る……?


 静まり返った洞窟の奥。誰かが叫ぶ声がした。それと並行するかのように、忙しない足音が近づいてくる。なんだ?


「に、逃げろおおおおおっ!」

 俺たちが通ってきた方角から、恐ろしい形相の男が走ってきた。震える声は狂乱のそれで、本能的な恐怖に蝕まれていることは明らか。拓郎は弓を構えたまま問う。


「どうした? 何かあったのか」

「や、や(、)つ(、)|がすぐそこまで……っ!」


 その場にいる全員が耳を澄ます。ズシン、ズシン、とただならぬ足音がこちらに近づいてくるのがわかった。とても大きな足音だ。

「ずいぶん横柄なやつがいたもんだな」

「唯人、あんたねぇ……」


 幸い、迫ってくる速度自体は大したことない。真津璃は冷静沈着に話を聞き出す。ブルブルと震えながら、男は口を開き始めた。

「やつが生まれたのはさっきの、宝箱のあった部屋だ。お前らが抜け駆けした黒コートを追ってしばらく経った頃……あっ、俺はあの時どうするか悩んでたんだよ。追いかけるにしても俺のからくりじゃ太刀打ちできねぇし……」


 ゴホン、と息をついて男は続ける。

「とまあ、これからどうするかと祭壇に座っていると、やつはいきなり天井から降ってきた。機械だか鋼鉄だかでできた大型の巨人……さしずめ、フルメタル・ゴーレムといったところだ」


 そう締めくくった矢先、元きた通路から破砕音と土煙があがった。砂粒に視界を奪われる。次に目を開いたときには、やつがいた。


『ターゲット捕捉。弩級ヲ捕捉』

 ゴーレムと呼ぶには程遠い、頭と両腕だけの化け物が。

 50話でした。いつもありがとうございます。特にこれといったことはできませんが、細々と続けられたらなと思っております。

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