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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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第49話 ▶後半戦なんて存在しない

 あらすじ:備然のバカぁ

 待て待て、状況を整理しろ。この三秒でいったい何が起きた? まず、俺たちは備然に頼まれて四つの数字を踏まされた。宝箱の鍵が眠るらしい、奥の扉を開くためだ。現に扉は開かれた。

 ここまではよかった。


「待て備然、テメェー!」

 なぜ、やつがすでに鍵を持っている? 奥の扉はどこに通じているんだ。最悪の可能性が脳裏をよぎる。抜け道という可能性。


 俺と並走する真津璃は血相を変えている。

「あの男! 最初から鍵を隠し持っていたんだ。その上で私たちを騙し、非常扉を開かせたっ」

「……やっぱ非常扉だよな、あれ」


 クソっ、どうして考慮しなかった。あんな抜け道があることを。油断していたのだ。先行するメリットがない以上、復路(こうはんせん)があると信じ込んでいた。あまりにも短絡的。考えることを辞めた人間のそれである。


「しっかし、最悪だな。まさかこのタイミングで先行者が優遇されるとは」

「優遇? それは違いますぞ」

 背後から声。振り向くと、ゴシップが背中に張りついていた。道理で重いわけだ。振り払おうとするが、チビ眼鏡は微動だにしない。自分の足で歩けよこの野郎。


「それでゴシップさん、違うというのは?」

「なに。簡単なことですぞ、真津璃氏。そもそも奥の扉は開ける必要がありませんな。文字通りの隠し通路ですぞ。……にもかかわらず、備然氏は奥の扉を開いた。わざわざ小生たちの到着を待ってまで」

 そうか。備然が直進でなく復路を選んでいたら、さっきの茶番劇もやる必要はなかった。人を弄びやがって。


 もちろん騙された連中は黙っていない。ある者は弓矢、ある者はブーメランで備然の足止めを試みる。さすがここまで生き残ってきたやつらだ。持っているからくりも強そうなものばかり。

 実際、効果てきめんで備然との距離も縮まりつつある。俺たちが祭壇を上りきった時、まだ奥の通路を走っているやつを確認できた。隠し通路は曲がりくねりの無い一本道らしい。


「ちくしょう。俺たちもなんとかして追いつかねぇと」

「時に唯人。あんた、備然が手にしたからくりを見たか?」

 真津璃が足を動かしながら尋ねる。辺りが薄暗くなった。隠し通路に突入したのだ。


「ああ? 一瞬だったから詳しくはわかんねえが、手のひらサイズの珠だったような……」

「私にもそう見えた。あれが弩級からくりだとしたら、ちょっと不味いぞ。持ち運びしやすいから独走される可能性が高い」

「心配ご無用、ですな」


 パァン


 背中のゴシップが口を開いたと同時に、耳元を銃声が駆け抜けた。空砲じゃない。今、明らかに何かが飛んで行ったぞ。大丈夫なのか、おい。

 真津璃が若干引いた顔で訊く。

「ゴシップさん、今のは」

「小生の奥の手……『魔(ガン)』ですぞ」


 結構簡単に見せたな、奥の手。『透紙眼鏡』以外にもからくりを持っていたのか。なんにせよ、飛び道具があるのはありがたい。俺も真津璃も戦闘用のからくりは持っていないからな。

「それそれ。備然氏、おとなしく弩級を離すのですぞ」


 パンパン、と躊躇なく弾らしきものを放つゴシップ。他の連中の追撃も相まって、備然の背中が近くなってきた。

 あと少し、というところでやつは両耳に何かをハメ込んでいる。両手が空いている……弩級はポケットに仕舞ったか、なんてこと思っていると突如として備然の動きに変化が見られた。


「おい、真津璃。なんかあいつ……」

 銃弾は軽やかなステップでかわし、矢やブーメランを横に跳んで回避。さっきまでの無駄な動作は皆無だ。一挙手一投足に迷いが見られない。


 きらり、と耳元が光って見えた。

「忘れたのか唯人。あの男が持つ、掟破りのからくりを……っ!」

 それは雑学王である猫丸を打ち負かした便利アイテム。耳を澄ますと、相手の考えが盗み聴くことができる、心の目。


「……『第三の目(サードアイ)』か」

 くそっ、あの野郎。素で十分強いせいですっかり忘れていた。やつもまた俺たちと同じ、からくりを操る一人の生徒なのだ。


「ぬう。こんなことなら……余計なこと教えなければよかったですなぁ」

 お前が斡旋したのかよ。余計な知恵吹き込みやがって。


「……って、ゴシップお前。さっきから息が荒いけど大丈夫か?」

 背中に担いでいるからわかる。どういう理屈か、ゴシップの心拍数が明らかに跳ね上がっているのだ。銃を打つ間隔もだんだん長くなってきたし……。


「ゴシップさん。もしかして、その銃の弾って……」

「え、ええ。さすがは真津璃氏ですな。素晴らしい観察眼です。いかにも、この『魔銃』。使用者の精力を弾に変換して打ち出すのですぞ」

 なんだその悪魔アイテム。銃弾を放つ度に、間接的に命を差し出しているということか? 奥の手と称した理由がわかった気がする。


「これはまずい状況だぞ、唯人。こちらの手はすべて備然に読まれ、ゴシップさんもノックアウト直前だ」

「わーってるよ。……ゴシップ、少し借りるぜ」

「な、なんですかな……?」

 俺は背負ったゴシップの手から『魔銃』を奪い取ると、備然に向けて引き金を引いた。


 パンッ、パンッ

「……けっ、そう簡単には当たらねえか。俺が撃つことまで瞬時に読んでくるとは、化物かよ」

「唯人、あんたっ!」

 平気だよ、と真津璃にガッツポーズを見せる。しかし、ゴシップの言葉は本当のようだ。両肩にずしりと重いものがのしかかってきた気分である。一発で、この負担かよ。


 だが、リスクを追わずして備然は倒せない。そんなことはわかっているだろう。楽をしたい心にムチを打ち、俺は引き金を撃ち続ける。


「やめろ、唯人! 闇雲に撃っても当たらないことはわかるだろっ。自傷に悦を見出しているんじゃない!」

「そ、そうですぞ……唯人氏。備然氏は、数撃ちゃ当たるが通用する相手ではありませんぞっ」

 承知の上だ。あいつにはこの身をもって苦汁を飲まされた。今の俺が正攻法で勝てる相手じゃない。


 だが、策はある。やつが俺の心を覗き見た上で行動できるのであれば……。


 ガラガラガラッ

「なっ、天井が崩れて?! ずっと備然の向こう……天井を狙って撃っていたのか」

「備然氏には当たりませんでしたが、奥の道は通行止めっ。これで先へは進めませんな!」


 盗み見ただけでは対処できないよう、立ち回ればいい。たとえば、通行止めとか。

「……やってくれるじゃないか、唯人」

「へっ……ようやく正面向いてくれたな、備然」

 また書いてる途中でデータがふっとびました。まっしろ。

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