第39話 ▶命を賭せ
あらすじ:課外活動スタートのきざし
課外活動を……受けるか、受けないかだと?
語り手は柔和な声で続ける。
「これから、あなた方には弩級からくりと呼ばれる強力なアイテムを探しに行ってもらいます。からくりの説明は……言わずもがなですか? 持っているのといないのとでは、『決闘』で大きく力の差が出ます。そんな異能アイテムの弩級版……当然得られる力は強大。全員に一発逆転のチャンスがあると言ってよいでしょう」
ぬう。いまいち話が読めないが、宝探しでも始めるのだろうか。それに弩級とかいうワードも気になる。からくりの強さはみんな知ってるだろうから、一見受けない理由が無いように思えるが……。
「ただし、リターンにリスクはつきもの。この際はっきりと申しあげておきましょう。明日からあなた方が受ける課外活動、下手をすれば死人が出ます」
空気に緊張感が走るのを感じる。死人……死?
「おい、真津璃……っ」
「狼狽えるな。この程度の脅しにビビってどうする」
強靭な肝をお持ちのようで。けれども、この場にいる全員が真津璃並の度胸を有しているかというと、決してそんなことはなく。
「人が死のうが、弊社は一切の責任を負いません、ってか?」
「じょ、冗談じゃねぇ……」
肌にビリビリと伝わってくる、恐怖と怒り。これが恐らく正常な反応だろう。なにが課外活動だ。楽しいアクティビティじゃなかったのかよ。かくいう俺もそんなネガティブな考えに侵されつつあった。
「さて。私から言えるのはここまでです。要は、危険と隣合わせの大チャンスというわけです──受けるも受けないもあなた次第ですよ」
ぴん、と語り手は一本指を立てる。
「一分待ちましょう。自分の命が惜しい方は、遠慮なさらず退出してください。己が恐怖を享受することも立派な勇気です」
無茶な話だった。事前に告知されていたならまだしも、突然命を賭けられるか、などと。ここで躊躇なくイエスと言えるのは命知らずの馬鹿だけだ。
「……お、おれは降りるぞっ。課外活動だぁ? こんな怪しいもん参加できるわけねぇだろ!」
「私もやめておこう。参加したからと言って確実に見返りを得られるわけではないのだろう? ハイリスクローリターン。ナンセンスだ」
誰しも命は惜しい。死に美徳を感じられるほど、俺たちはできた人間じゃない。だけど、それでも。
「……語り手殿。この課外活動は今年から始まったわけではないのであろう?」
前方にいた巨体の男が手を挙げる。ゴーマンだ。
「例年、どれだけの人間が命を落としているのか聞かせてほしいのである」
「ふふっ。それを知ってどうするというのですか。死亡者の数が多ければ身を引くとでも?」
「ハッ、あり得ないのである。ワガハイは一番になる男。もとより参加する心づもりであーるる!」
ああ、そうだ。
危険が伴うからといって易々と引き下がってたまるかよ。そんな中途半端な覚悟じゃ、備然の野郎をぶっ飛ばすなんて夢のまた夢。俺の答えは参加だ。別に真津璃に合わせたわけでも、ゴーマンにあてられたわけでもない。これは俺自身の意志なんだ。
「……残ったのは、八割といったところでしょうか。例年以上に残りましたね。もしかしたら過去最高でしょうか。いやはや、先行き良好ですね」
語り手はわずかに声を弾ませ、楽しそうに言った。ずいぶんと減ったように思えるが、それでもマシな方であったらしい。くるりと壇上で翻ると、語り手は次のように締めてその場を去った。
「賽は投げられました。お帰りの際、団四姉妹からキーを受け取ってください。それを持って明日八時、最初に訪れた海岸まで。お待ちしておりますよ」
▶▶▶
その日の晩はちょっと早めに床に就いた。厳しい闘いになることはわかっているので、体力補給を怠らないわけにはいかない。
かくして翌朝。俺は真津璃の往復ビンタで目を覚ました。結局朝起きられないのは変わらないのね。
「お二人も課外活動に参加されるんですか? 頑張ってくださいね、応援してます!」
食堂にて、月尊ちゃんから元気百倍パワーを貰い、俺と真津璃はツクヨミ荘にしばしの別れを告げた。グッバイ、201号室。生きて帰ってくるからな。
けもの道を往き、鬱蒼とする森を下っているところで俺は大事なことを思い出した。
「──ああああっ!」
「な、なんだよ唯人。びっくりさせるな」
俺たちの前後には、課外活動に向かうであろう生徒がちらほらいるため、真津璃は男口調で突っ込む。だが、こっちはそれに構っている場合ではなかった。
「どうした、急に青ざめて……そんなに大事な忘れ物か?」
「あ、ああ……ある意味俺のライフラインだ」
「大袈裟だな。何を忘れたんだよ……」
「からくり、買い忘れたっ」
命の危険があるという以上、身を守るからくりを持っていて損はない。そこで俺も、溜まった56枚のキビダンゴをいい加減からくりと交換したいと思っていたのだ。
その矢先の課外活動である。そちらの衝撃が大きすぎてすっかり忘れていた。貴重な回復アイテムをなかなか使わず渋るアレ。ここで勿体ない病の弊害が起きるとは。
丈の長い着物に身を包んだ真津璃は、フゥとため息をつく。
「て、ことはあんた……己の身体一つで生き抜くと?」
「ええい、その馬鹿を見る目をやめろ。わかってんだよ無謀だってことは」
「別にそこまで言ってないけど……」
だが、やるしかない。今からマスターの店に行っていたら恐らく出発に間に合わないだろう。
「……まあ、いいや。今更慌てたところで仕方ねえ。海ってことは他の島に行くんだろうけど、要は生き残ればいいんだ。難しい話じゃねえ」
「いやに強気じゃないか。それとも単なる空元気か?」
言うな。こちとらお前が思っている以上に動揺してんだよ。
しかし、俺だってキビダンゴを52枚、生身で勝ち取ってきたのだ。その過程にはからくり持ちも何人かいた。むしろ、何も持たないからこそ浮かぶ策略があるのではないか。
「浅はかだな」
「人の心を読むんじゃねえ」
かくして、からくりは諦めて俺たちは海岸にやってきた。すでに刀を持った連中はうじゃうじゃおり、まだかまだかと出発を心待ちにしている。
奇妙だったのは、俺たちが乗ってきたあの馬鹿でかい船の姿がないこと。てっきりあれに乗って別の島にでも向かうのかと思っていたが……。




