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▶桃神の郷  作者: 三坂いおり
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第40話 ▶海走れスクーター

 あらすじ:海をとびだせ!

「よし、では定刻になったのでこれより課外活動を始めるぞー」

 メガホンを持った(かなめ)先生は気の抜けた声で開始を宣言する。

 周りに目をやると、他にも何人か教員の姿があった。順に見ると語り手までいる。それだけ大規模なイベントだったのか。


 緊張感をひしひしと感じていると、誰かが俺の袖を引っ張るのがわかった。視線を下ろすと、腰元くらいの背丈の人型ロボット……いや、からくりがいた。全身が真っ白でモノアイであるそれは、某感情認識ヒューマノイドロボットを彷彿とさせる。


『コレ、ドウゾ』

「あっ……どうも」

 からくりは緩急のない声とともに、スカイブルーのカプセルを俺に寄越してきた。ガチャガチャでよく見る開閉式のアレだ。

 それにしても、このロボットには見覚えがあるぞ。確か着物女子ズの手がいっぱいの時、『決闘』で審判やディーラーを代わりに務めていた……。


「えー、今『ソルティー君』が黒いカプセルを一人一つずつ渡している。受け取った者からそれを海に向けて開けてみろ」

 ああ、そうだ。そんな名前だったな。人員不足だからか、審判以外にも雑務をこなしているのだろう。いよいよからくりの定義がわからなくなってきたが、考えても仕方ないのでもういいや。


 要先生に言われた通り、パカッと海に向かってカプセルの蓋を外す。すると、中から何かが飛び出したかと思うと、水上にスクーターが現れた。

 水上に、スクーターである。

「凄いな……これもからくりなのか?」


 真津璃も驚愕の目でちょんちょんと浮かぶスクーターを触っている。ここまで来るともはやひみつ道具だな。いっそ、軽快な効果音を流したくなる。

「驚いたか? そいつは『メタモービル』。見ての通り、海を走るスクーターってところだ。自動運転搭載だから運動音痴にも優しいぞ。もちろん、手動で運転してもらっても構わないが……ともかく。お前たちは俺についてこい。向かう先は、桃神郷が管轄する離れ小島……戯岩島(ぎがんじま)だ」


 ぎがん、じま。物々しい名前ゆえ思わず反芻する。課外活動というのはそこで行うわけか。

「さて、じゃあそろそろ行くとするか。俺に続け命知らず共! 壮大に海を駆けろ、目標は戯岩島だぁ!」

 自身の『メタモービル』を召喚した要先生は、豪快にエンジンをふかしながら走り出した。文字通り、海の上をスクーターで走っている。


「……っと、こうしちゃいられねぇ。真津璃、俺たちも行くぞ」

「ああ。全速力で飛ばそうか」

 俺と真津璃は同時に単車に乗り込み、起動。進み始めて二秒後に横転した。

 慣れるまでは大人しく自動運転に任せよう。海水の熱い洗礼を受けながら、俺たちは大海に飛びだした。


 ▶▶▶


 水を切って海を走る。ハンドルを握っているだけで勝手に動いてくれるのだから大したものだ。

 海に出て十分ほど経った頃か、前方に島が見え始めた。

「真津璃、見えるか? たぶんアレだよな」

「恐らくそうだろう。想像以上に厳しそうな島だな」


 視界に入ってくるそれのほとんどは目の粗い岩山で形成されており、緑は無いに等しい。あそこで人が暮らすのは不可能だろうな。

 間もなくして先行する要先生が上陸。降り方なんてわからなかったが、そこはさすが自動運転。浅瀬が近づくとオートで速度を落としてくれた。

 戯岩島、到着である。


「海の旅路、ご苦労さん。この島こそがお前たちの闘いの場だ。『メタモービル』は仕舞ったか? カプセルは各自ポケットにでも入れてろ」

 黒いカプセルを閉じると、水上の単車がそれに吸い込まれる。持ち運びできる移動手段とは便利だな。


 キョロキョロと新境地を見回している俺たちに、要先生は淡々と告げる。

「全員いるようだし、では、これより課外活動を始める。お前たちの目標はただ一つ。この島のどこかにある弩級からくりを見つけ、持ち帰ることだ」

 やはり宝探しか。しかし、見ず知らずの島をくまなく探すとなると骨が折れるな。


「といっても、闇雲に動き回らせるほど俺たちも鬼じゃない。ちゃんとスタート地点までは案内してやるから安心しろ」

 安心した。


 そんなわけで連れてこられたのは洞窟の入り口。大自然の岩山にポツンと空けられた人工的な道である。

 先をよく見ると天井から灯りが等間隔で照らされているが、それでも不気味なことには変わりない。第一、80人弱(このにんずう)で乗り込んだらすぐにパンクしてしまうだろう。


 要先生は洞窟を親指でさしながらニッと笑った。

「弩級からくりはこの先に隠されている。だが、その道中には侵入者を拒む罠や仕掛けが盛りだくさんだ。もちろん、中には命を危険に晒すものも存在する」

 背筋に悪寒が走る。承知の上とはいえ、改めて言われると辛いな。


「おまけに中はめちゃめちゃに入り組んでいる。心配しなくてもすぐにみんな離れ離れだ。まあ、分岐した道はすべて宝物庫に通じているから深く考える必要はねえよ。生きてさえいりゃ奥でまた会える。……質問は?」

「ハイである」

 すっかり質問大好き人間と化したゴーマン。でも、ハイであるってなんだよ。


「どうした、バッハヘアボーイ」

「否、これはクァールヘアである! さておき、……この課外活動における幕引きとはどのタイミングを指すのであるか?」

 幕引きだと? もう少しわかりやすく説明しろ。抗議の声をあげようとした矢先、岩にもたれかかっている黒コート野郎……独守備然が口を開いた。


「つまり、キミはこう言いたいのだろう。誰かがからくりを手にした時点で決着なのか、持ち帰ってくるまでが闘いなのかと」

「左様である。そこをハッキリさせておかないと面倒なことになりそうであるからな」


 くつくつと要先生は笑い声をあげる。

「いい質問だ。……決着の瞬間はあくまでこの島を出るまで。くだんの弩級からくりにはちょいと仕掛けが施されていてな。それと戯岩島は見えない糸で繋がっている」

「糸、であるか?」

「物の喩えだが、防犯センサーをイメージしてくれたらいい。からくりが戯岩島の中に存在する間、侵入者を阻もうとあらゆる罠が起動する。ただし、それが機能するのはからくりが島の中にある場合のみ。ひとたび海に出ると、すべての罠は機能を停止する。その瞬間が決着の時だ」

 なるほど。からくり自体がセンサーになっているわけか。で、それをオフにするには島の外まで持ち出さないといけないと……。


「ああ、それと。もう一つ大事なことを忘れていた。桃神郷での暴力行為は禁止としていたが、戯岩島においてはその制約を一部緩和する。殺したり訳もなく痛めつけるのは論外だが、からくり争奪に関する妨害行為はアリだ。手持ちのからくりも十二分に活用していってほしい」


 しん、と辺りが静まり返る。それが準備万端の合図だった。

「他に質問もないようだし……始めようか。死ぬなよ」


 パァン

 要先生は懐から取り出したピストルを引き、空砲を放つ。課外活動が始まった。

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